冒険者と顛末

 数日後。

 ルミナの傷はほとんど癒えた。


「うん、経過良好。感覚も戻ってきてるね」

「大丈夫、復活」

「復活は言いすぎだ」


 ルミナの部屋で、モートンのお墨付きをもらったルミナは胸を張る。その様子を見て、レニーもフリジットも微笑んだ。


「フリジット、レニー。心配させた、ごめん」

「気にしないで、ルミナさん。リベンジも代わりにやっといたから」


 拳を突き出すフリジット。ルミナは拳を突き合わせた。


「ボク、もっと強くなる」

「体は大事にしてくれ」


 レニーが言うとこっそりフリジットに足を踏まれた。

 フリジットはニッコリしたまま何も言わない。

 ただ言外に「お前が言うな」という思いが伝わってきた。ルミナに気づかれる前にさっと足を引っ込める。


 そんなことに気づかないルミナは強く頷いた。


「いのちだいじに。学んだ」

「レニーくんも学んでくれるといいなー、ねぇレニーくん?」


 意味深な視線を向けられて、思わず目をそらす。


「な、ナンノコトダカ」


 あの夜の戦いはレニーとフリジットだけの秘密になった。レニーが戦ったと知ればルミナは心を痛めるだろうし、フリジットがちゃんと仕留めたというのであればここらの安全は確保される。敵は人の姿をした未知のモンスターだった、ということになっている。

 そう、報告しようということになった。素直にスカハとして報告しても証拠がないし、ネクロマンサーの偽物のことを何も知らない。名の知れた賞金首であればそれでいいのだが、下手をすればルミナの評価が落ちる。


 ということで未知のモンスターが強すぎて、余裕がなく、跡形もなく消し飛ばしたという報告をフリジットがする。モンスターという点とレニーがいないこと以外は間違いではない。被害が一定期間過ぎてもなければ、問題がないと判断される。


 うっかり口を滑らさないように気を付けなければ。こんな時に記憶を消去できる魔法でもあれば便利なのだが、そんな都合の良い魔法の使い方は知らない。魔法として存在してるのかすら知らない。


「レニー」


 ルミナが名前を呼ぶ。そして、レニーの手を強く握った。


「ちゃんと握れる、よ?」

「……良かった」


 強く握られる手が少し痛いが、胸中から湧く喜びに比べれば大したことはなかった。


「ギルドから報酬をもらう手筈になっているから治療費はなしだ。準備ができたらさっさと帰ろう。わたしは患者が待ってる」


 あくびをしながらモートンが言う。

 ルミナは深く頭を下げた。


「ありがとう」

「お大事に。次がないことを祈ってるよ。医者が必要ないのが一番だからね」




○●○●




 ある日の夜。


「うっぷ」


 酔いで吐きそうになりながら、レニーはサティナスの宿屋を目指していた。酒場のロゼアで思い切り飲んだせいで、足元がおぼつかない。

 しかし、自分が倒れるわけにはいかない理由が背中にあった。


「すぅ」


 寝息を立てているルミナだった。

 久々の酒とおいしい食事にテンションが上がったのか、病み上がりとは思えないスピードで飲み食いをし、酔った結果寝たのだ。


 レニーもレニーで自分が生き残ったことも、何よりルミナが生きていてくれたことに浮かれて飲み過ぎてしまったらしい。


 命あっての物種だ。


 単なる偶然で生きも死にもする世界だ。いつ死んでもおかしくない。だからといっていつでも覚悟を決めているわけではないし、親しい人には死んでほしくはない。


 だから幸せを噛みしめていた。


 背中の温かみに、重みに感謝する。


「もっと生きような、ルミナ」


 背負い直して、鼻歌を歌い始める。

 ソロ冒険者レニーは上機嫌に、夜の闇に消えていった。


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