宿命の話
冒険者と襲撃者
魔物討伐を済ませ、ルミナは森の中を歩いていた。
少し遠出してルビー級のモンスターを討伐した。久々の大物だったが問題なく達成できた。
日に照らされながらルミナは帰路につく。
「フフフ……」
子どもの笑い声。
唐突に聞こえた声に足を止める。
ルミナは大剣に手をかけ、意識を集中させた。
ここは魔物が多くいる森だ。子どもが来れるわけがない。
木々の影から少女が現れる。濡れ羽色の、腰まで伸びた髪に、紫色の瞳。ちらりとのぞく八重歯に、子どもらしくも整った顔立ち。白い肌に黒いドレスを身にまとっている。
裂けそうなほど口の角を吊り上げて、少女は手をかざす。
瞬間、黒い棘がルミナに向かって飛んだ。
大剣を抜き、振るう。そして、黒い棘を斬り落とした。
「誰」
「フフ、アハハ」
少女は肩を震わせて笑うだけだった。その周りに黒い球体がいくつも出現する。それがルミナを襲ってきた。
「何個あっても、同じ」
大剣を素早く振り回すと全弾弾ききる。
「フンス」
刃を地面に突き立てて睨みつけた。
相手が魔物か、人間か、ルミナにはわからない。ただ言えるのは敵だということだけだ。
少女は姿勢を前に倒して、地面を蹴る。驚異的なスピードでルミナを肉薄した。少女の影から黒い大剣が飛び出す。それを握ると、ルミナに振り下ろしてきた。
ただ単純に力任せの一撃。
ルミナは動じることなく、横薙ぎに払うと、一撃を防いだ。
「アハ」
もう一撃。
「アハハ」
もう一撃。
「アハハハハハハハハハ!!」
何度も何度も何度も何度も。
黒い大剣を叩きつけられる。ルミナは少しも動揺せず冷静に全てに対処した。
やがて黒い大剣に亀裂が入り、砕け散る。ルミナは大剣を振り下ろし、戦いを終わらせようとするものの、素早く後ろに飛び退いた少女がそれを許さなかった。
「やるねぇ、キミ」
人を試すような、からかうような声音。ルミナはただ無言で大剣を正眼に構えた。
一歩で間合いを詰められる。だが、少女の不気味な雰囲気が攻勢に踏み切らせない。
「うぅん、冒険者でいうルビーくらいかなぁ」
「だったら、何」
「残念、可哀想。ワタシには絶対に勝てない。ひとりならなおさら、ね」
目を見開いて嘲ってくる。
挑発か、本気なのか、それはこれからわかることだ。
「やってみないと、わからない」
「なら、ちょっと虐めちゃおうかな」
少女は両手に影から生やした黒い大剣を持つと突っ込んできた。
「舐める、な」
左右から迫る二撃を簡単にいなして、斬り上げる。風切音を響かせながら切っ先が少女を斬ろうとする。少女は弾かれた剣を交差させると、ルミナの攻撃を受け止めた。
そこからルミナは力を更に込める。少女の体ごと、放り投げるように空中に飛ばした。
「わーすごーい!」
少女は大剣を頭上に持ち、全身を回転させながらルミナに落ちてきた。ルミナは後ろに大剣を向けると大きく薙ぎ払う。
少女の回転が止められ、強い衝撃を受け、地面を転がっていく。
ルミナは大剣を担いで少女を見下ろす。
「口ほどにも、ない」
「アッハハ。楽しいなぁ」
少女は無傷だった。地面に、正確には己の影に手を突っ込むと、両手を巨大な獣の爪のように変化させる。色は黒く、影を纏ったかのようであった。
「まだまだ行くよぉー!」
四足歩行であるかのような姿勢で少女が突撃する。
右へ左へ、撹乱するように動く。
目で静かに追う。
高速だが、数々のモンスターを屠ってきた。その中に素早いモンスターがいなかったわけではない。
十分に対処可能だ。
鉤爪が振るわれる。
ルミナは大剣で受けて、そのまま斬った。
力ならこちらのほうが上だ。
黒い獣の腕が解け、通常の手が現れる。
「まだあるよ!」
もう片方の腕が襲ってくる。だが、ルミナは拳を握ると上から叩きつけた。
爪がルミナの体に届く前に黒い腕が破壊される。
そして大剣を首へ向けて振るった。
少女は体を反らしてそれを避ける。そして少女の影からルミナへ黒い棘が伸びてきた。
それを掴み、へし折る。
「ただの、小細工」
「みたいだねっ」
少女は口で黒い球体を形成すると光線として発射してきた。ルミナは大剣に魔力を通して海を割るかのように光線を斬る。
こんなものはドラゴンのブレスに比べれば子ども騙しのようなものだ。
視界が黒に染まる。
ルミナは腕に力を込めると完全に光線を断ち切った。
「わお」
黒の視界を斬りさいた先には驚いた顔の少女。
アリアドネベルトを伸ばして、その体を拘束する。
「ありゃ」
「……おしまい」
首を断つべく大剣を振るう。
影から突き出した無数の棘がそれを拒む。
だが有象無象で止まるルミナではない。棘ごと首を斬りにいった。
木を倒すような音を響かせながら無数の棘を破壊していく。
そして首を、
「残念」
反らして避けられた。
並モンスターなら余波で首の骨が折れたりするのだが、少女は平気そうだった。
影の手でアリアドネベルトを引き剥がされ、逃げられる。
戦い方に、既視感がある。まるで知り合いの魔法とスキルを見ているかのようだ。
言いたくないがこの少女のほうが幅広く魔法を使えている。
「……闇魔法使い?」
「はずれ。そんなショボいのと一緒にしないでよ」
「なら何」
「なんだろうね」
ぬらりくらりとした返答に、ルミナは眉をひそめる。
「――ぶった斬る」
それでも、どんなときでも、ルミナのやることは変わらない。
大剣を構えて少女に突撃した。
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