冒険者とプレゼント

 エレノーラの店をある程度手伝った後、報酬を受け取り、ルミナとともにギルドを目指す。


 そろそろギルドでの仕事の時間だ。少し時間に余裕を持って戻っておきたい。


 ルミナと並んで歩いていると、ある屋台に視線が向いているのに気づいた。


「ちょっと見てく?」


 その屋台を指差しながら、聞いてみる。ルミナは少し目を見開いてこちらを見た。


「いいの」

「まだ時間に余裕あるし」


 自分は別に見たいものがあるわけではない。イベントに積極的な性格をしているわけでもない。


 ルミナが興味があるというのであれば、その方がいい。


「ちょっとだけ」


 ルミナが見ていた屋台はアクセサリーを売っているものだった。値段はお手頃で、子どもにも買えるように配慮されている。木製のものが多かった。


 その中でルミナはある首飾りに目が向いていた。デザインとしては翡翠色の石がぶら下がっているだけの、シンプルなものだ。


「ほしいの」

「ちょっといいなって思っただけ。いつも興味ないのに」


 祭りだからだろうか。ルミナも気持ちが浮かれているのかもしれない。


 レニーは首飾りを手に取ると店員に値段を聞く。

 支払いをして、ルミナに手渡した。


「はい」

「……いいの」

「ほしかったんでしょ。記念になるならそれでいいし」

「……ありがとう」


 さも高級品を受け取るかのように両手で大事そうに受け取ったルミナはぎゅっとそれを握りしめた。


「ボク、大事にする」

「そっか。なら嬉しいかな」


 ルミナは首にそれをかけると、微笑んだ。


「ありがとう、ギルドに戻ろ」


 ルミナの言にレニーは頷いた。




  ○●○●




「いらっしゃいませ、こちらへどうぞー」


 ロゼアで笑顔を貼り付けて接客を行う。レニーを不審がる人間は誰もいない。怪訝そうな顔でレニーを見るような客はほぼいなかった。


 女装しても違和感のない顔を喜ぶべきか悲しむべきかわからなかった。


 ロゼアは常に満席だった。おかげで注文と席を間違えないようにするので苦労する。


「リジーさぁん、こっちよろしくお願いします」

「お嬢ちゃん注文いいかい!?」


 咄嗟に名乗った偽名も馴染み、客からは普通に女性として呼ばれる。


 諦めきった顔で、レニーは接客を続けた。冒険者仲間にバレるかもしれないという不安はあるが、今の所、ノアだけだ。


「リジー」

「はいっ」


 偽名を呼ばれ明るく振り返る。


「レニー、アナタ何してるの?」


 そこにはロミィがいた。

 水色の髪をかきあげて、両足を組んだまま、席に座っている。


 二人席に一人でいた。


 本来リンカーズという三人組のパーティーを組んでいるため、一人でいるのは珍しい。


「レニーでしょ、アナタ」


 レニーは冷や汗を大量に流す。


「あの、どちら様でしょうか」

「演技上手ね。他の二人だったら騙されてるかも」

「えーっと……」

「まぁアナタの性格じゃ、女装を勧められて断りきれなかった、ってところだろうけど」


 言外にバレてるから諦めろと視線で訴えられた。


「……他の二人は」

「リーはナンパ。ストーシャは出店見てくるって」

「キミはなんでここに」

「暑いから涼んでるの」


 何でもないことのように返答される。レニーはなぜ、今ロミィに自分のことがバレたのか理解できなかった。リンカーズとは関わりが深いわけではないし、そもそも何度か接客している。なのになぜ今言われたのか全くわからなかった。


「い、今更なんで」

「疑念は最初からあったわ。リーのバカがいたら話しづらいだろうと思って」


 脚を組み直して、両手の上に顎をのせる。


「でもバレてるって思われたほうが面白そうじゃない? いい機会だし」

「……キミ結構イイシュミしてるね」


 ロミィは済ました顔で、テーブルを片手の人差し指で叩く。


「秘密の契約には代償が必要じゃない?」

「つまり?」

「チョコとワイン、奢りでサービスお願いね」


 舌を出すロミィに、レニーの頬は引き攣った。


「喜んで。お姫様」


 バレる相手が口の硬そうな冒険者だけで良かったと、ひとまず思った。

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