冒険者と的当て
ルミナと串に刺された肉やフルーツを食べ、エールを飲み、歩いた。
いつもの露店はもちろん、普段屋台の出ていない場所にもズラリと並んでいる為、あらゆる場所をまわった。
お腹も落ち着いた頃、意外な人物が屋台を出しているのを見た。
エレノーラが屋台を出していたのだ。
台に杖が並べられていて、その先に的が並べられている。
汗を額ににじませながらもレニーとルミナの姿を見ると笑顔で手を振る。
「こんにちは。レニーくん、ルミナくん」
「こんにちはエレノーラ」
「……こんにちは」
笑顔のまま屋台を指差す。
「ちょっと手伝ってくれないかい?」
笑顔だが表情は疲労にまみれていた。
屋台の前には親子がズラリと並んでいる。
「ウケが結構良すぎてね」
頬をひくつかせる。
ルミナと顔を見合わせる。ルミナは頷いた。
「手伝うよ」
「控えめにいって神」
よくわからない礼を言われつつ、屋台を手伝うことになった。
台に並べられている杖はレニーのものと同じような形状をしていたが、人差し指を引っ掛けられるパーツが追加されていた。
「で、これは」
「充魔力式マジックバレットスタッフだ。魔力を注ぎ込んで一定時間保管できてだな。人差し指を引っ掛けられるパーツ、トリガーを引くだけでマジックバレットが発動する。無論最低威力だ」
「へぇ」
「魔力をうまく扱えない子どもでも親や私が魔力を注ぎ込んで、子どもにマジックバレットを撃たせる遊びに使えると開発したんだが説明に時間がかかるわ、子どもが思った以上に喜ぶわで大変でね。私の魔力の回復がポーションでも追いつかない」
少し顔が青白いと思ったらそういうことか、とレニーは合点がいった。
「魔力はさほど流し込まなくていい。出なければで構わない」
軽く説明を受けて理解したレニーとルミナは接客を始める。
なるべく伝わるように説明を心がけ、と言っても一番難易度の高い魔力を込めるところはレニーがやるべきときにやるので狙い方とトリガーを引くことしか教えることがないが。
子どもは初めて撃つマジックバレットに興奮し、的の中心に当てると目を輝かせる。
「そう上手だ」
そんな感じで、十人ほど相手をしただろうか。何度もやりたがる子もいるらしく同じ顔を見ることもあった。
「すごい上手」
「本当!?」
ルミナと子どもの会話が聞こえる。振り返ってみると珍しくルミナも微笑んでいた。
「レニー」
震える声で名を呼ばれる。
そこへ視線を向けると次の客がいた。孤児院を持っている神父であるリックと、その隣の子どもたち。その中の見覚えのある子どもだった。
「やぁ、クリス。元気だったかい」
レニーの問いに子どもが頷く。
レニーがリック神父の経営する孤児院に託した子どものクリスだった。
「……レニーは?」
「うん、元気だよ」
少しだけ安堵したような顔をするクリス。ひどく緊張しているようで、体の半分以上をリック神父で隠してこちらを見ていた。
「やるかい?」
杖を持ち、的を指差しながらレニーは聞く。
クリスは不安げにリック神父の顔を見上げる。リック神父は微笑んで頷いた。
リック神父とクリスが歩み寄る。
「リック神父は祭りの付き添いですか」
「そんなものだね」
杖をクリスに渡し、自分も持ってみて持ち方を教える。頷いたクリスはすぐに構えた。
「飲み込みいいね」
レニーはクリスを見ながら軽く的へ杖を向けて撃つ。
的の中心にマジックバレットを当てた。
「キミはよく狙ってゆっくり引き金を引けばいい。ここの人差し指のとこにある出っ張りね……そうそう」
クリスの目線に立って狙いやすそうな的に指をさす。
「あそこが当てやすいかな」
クリスは無言で杖を向けると引き金を引いた。マジックバレットが放たれ、的に当たる。
「上手だ」
レニーが微笑んでやるとクリスの固まった体がいくらかマシになった。ひどく緊張していたのだろう。
「もう二発やってみようか」
レニーが優しく語りかけるとクリスは頷いた。
狙ってマジックバレットを撃つ。
二発とも的に当たった。
「……ありがとう」
レニーは渡された杖を受け取り、魔力を込める。そしてリック神父の他の子どもたちに声をかけた。
「他にやりたい人ー」
「俺も!」
「わたしもー!」
元気良く、子どもたちが手を上げる。リック神父は苦笑いをして呟いた。
「これは懐が寂しくなりますな」
「オレの店じゃないんで残念ながらキッチリ料金頂きますからね」
レニーがそう言うとリック神父は頷いた。
「君とクリスを会わせられたから良しとしよう」
クリスがそれを望んでいたとは限らないが、リック神父がそういうのであればクリスは一度はレニーに会いたかったのだろう。
レニーも緊張して必要以上の会話はできないが、それでも、年大祭だ。
会うこと自体に意義はあるだろう。
少なくとも話題がなくてぎこちなくなることも、何をしたらいいかわからなくなることもない。
祭りの日は特別だ。
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