冒険者と恋バナ

 その答えにドゥーカは眉尻を下げる。


「顔が良ければいいってことですか?」

「人間、見た目にこだわれない人間は他も疎かになるのよ。清潔感は大事だし、好みのイケメンならなお良し。その点、ノアさんとか、ストーシャさんちょー良いんだけどねぇ」

「ノアさんはともかく、ストーシャさんのどこが不満なんですか」


 ノアはずっとメリースと一緒だし、公言はしていないが、あの仲の良さを見ると付き合っているだろう。少なくとも、ノアがメリースとは別の女性に目を向ける様子が全くなかった。

 ストーシャに関してはフリーのはずだ。リンカーズは女性一名、男性二名で構成されているし、誰と誰が付き合っていると聞いた事もなければ雰囲気もない。三人でいるところしか見ないからだ。


「可愛い系がいいのよねぇ。ストーシャさん自信過剰そうだし」

「レニーくんは?」


 フリジットが聞いてみる。レニーの見た目だけで言えば、中性的な見た目であるし、可愛い系というのなら当てはまるのではないだろうか。


「可愛げがないじゃない」

「あはは。確かに」


 淡々と答える態度、表情の変化の乏しさを思い出し、納得するしかなかった。


「理想はやっぱ今の彼氏ねぇ」


 セリアには道具屋の店員が彼氏にいた。不器用で生真面目なところが可愛いとたまに惚気られる。寮の近くに店があって、その前を通るときに挨拶を交わしたりを繰り返していたら告白されたらしい。


「フリジットは」


 話を振られて返答に困る。目をそらして、フリジットは先に後輩たちの話を聞くことにした。


「……ちなみにディソーさんとドゥーカさんは」

「あたしはですねー優しい人ですかねぇ」


 ディソーが憧れるように頬に手を添えて言った。


「気遣ってくれてーさりげなーく労ってくれたり」

「うっわハードルたっか」

「ドゥーカはどうなのよ」

「考えたことない」


 突き返すように言い放つ。


「私も、あんまり考えたことないかなぁ」


 冒険者を夢見て、次は受付嬢。

 仕事に熱を注いでいただけに、恋愛を考えたことがなかった。


「でもさぁ、私たちも若いまんまじゃないわけじゃん。相手探さないと大変だよ」

「世知辛いです、先輩」

「恋人いるからって、現実突きつけて来ないでください」


 ぶーぶーと、ディソーとドゥーカが不満を言う。


「冒険者と付き合うのはやめたほうがいいからね」

「なんでですか」


 ドゥーカの問いに、セリアではなくフリジットが答える。


「いついなくなるかわからないからだよ」

「死ぬか冒険に出るか、わからないもんね。男の冒険者って夢追い人みたいなものだから」


 冒険者の多くは伝説や逸話、英雄譚に憧れる。自分もそうなりたいと目指し続けて、気付けばトパーズ等級以下で成長が止まってしまっていた、ということがほとんどだが、それでも英雄級にたどり着く者はいる。

 そしてまた憧れが増え、目指す者も増える。そんなものだ。


「その割にはフリジット先輩にレニーさんの話振るんですね」


 ディソーの最もな疑問に、セリアは胸を張った。


「他人の恋愛は面白いもの」

「趣味悪いよセリア」

「それに、たぶん、レニーさんギルド所属になったしカットルビーまで行ったら死ぬなんて中々ないわよ。エリート中のエリートみたいなもんだから」


 冒険者ではトパーズが最大の壁と言われている。そこさえ超えれば、歴史に名を刻める確率がぐんと上がる。それほどまでに実力の認知度が違うのだ。

 ルビー以上の依頼は滅多に来ない。ゆえに、積極的に受けなければ、死ぬリスクも下がる。魔物討伐といえど無差別にやっているわけではないので、街に被害が出たりしない限りはあまり原竜ドラゴン討伐などは張り出されない。

 となると自分の実力より下の依頼が多くなる。それで死の危険に陥ることは滅多にない。


「もしもレニーさんに告白されたらどうするの」


 セリアの質問に、フリジットは固まった。


 ……想像が、できない。

 面白そうにディソーが上目づかいにこちらを見てくる。


「脈あり、ですね?」

「え? いやぁ、レニーくんのそういうとこ想像できないなーって」


 頬をかく。

 恋人のフリは楽しかった。付きまとってきた男からフリジットを守ってくれたときには、滅多にないシチュエーションに心が躍ったくらいだ。

 依頼であったから。

 彼がそんなところを見せてくれたのは役割をこなしたに過ぎない。


 それに。


「それにさ、ルミナさんいるしなぁ」


 冒険者として一緒に依頼をこなしている。最近様子を見ていて思うが、レニーはルミナの感情を読み取っているし、ルミナも読み取ってもらえていることに安心しているようだった。本人は踏み出せていないが、きっと好意があるのだろう。なんだかそんな気がする。


「他にその男を好いてる女がいるからって遠慮してたら全部失うわよ。結局フリジットの気持ちはどーなわけ」

「えぇ……」


 いきなり言われても困る。

 話をしていて居心地がいい相手なのは確かだ。歳も近いし、彼個人の事情に興味がある。それを好意とは呼ぶのだろう。恋愛的な意味でかと問われるとなんだか違う気もする。


「ちょっと突っ込んでみたらどうですか?」


 ドゥーカの提案に首を傾げる。


「アピールしてみて、反応見てみるとか。自分の気持ちがどうなるのかとか」

「アピールねぇ」


 難しいことを言う。何をすればいいんだかさっぱりだ。

 何だか話をすればするほどわからなくなっていくような気がした。


「あーやめやめ。飲みに来たんだからもっと頭空っぽで喋れる話題にしましょ! ね!」


 酒が入っているのもあって、考えもまとまらないし、考えたくもない。

 だからそれで強引に会話を打ち切った。


 女子会愚痴とか雑談はまだまだ長い。

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