冒険者とダイナドラゴ
翌日。
岩山を四人で登った。斜面は幸い急ではなく、ゆるやかだった。山全体がダイナドラゴの縄張りなのか、岩山で木々がほぼないからか、生き物は虫を見かけたりする程度で、動物は見当たらなかった。
ダイナドラゴは土や岩を食べる。この環境で問題ないはずだ。
二時間ほど探索していると、ロミィが足を止めた。目をこらし、レニーもロミィがなぜ足を止めたのか理解した。
ダイナドラゴがいた。
通常よりも黒い体毛が長く、深緑の体中に傷跡がある。
「この間中途半端に追い詰めたせいで進化途中ぽい。仕留めないと厄介な存在になる」
スキルツリーが成長するのは人間だけではない。モンスターもだ。ゴブリンがゴブリンソルジャーやレッドロードに成長するのと同じように、どんなモンスターであれ、スキルツリーを伸ばして強力な個体になる可能性を秘めている。
通常よりも長くなった体毛が、スキルを成長させている証だろう。
周りの環境を確認する。
ダイナドラゴが整地し、巣に適した環境をつくったのか、岩山の一部だというのに足場はほとんど平坦で安定している。その空間の中心、やや掘り下げられたくぼみで、ダイナドラゴは寝ていた。
全員、戦闘の準備に入る。
ダイナドラゴが起き上がってこちらを見たからである。風に乗って流れてきた人間のにおいを感知したらしい。
「バフ、かけるね」
そういって、ロミィが全員にバフをかける。
ロミィは
「レニー、先制攻撃できる?」
「オーケー」
レニーは腰のホルスターからクロウ・マグナを抜き、両手で構えた。ダイナドラゴは真正面から攻撃を受けられるような相手ではない。ストーシャのように剣術に特化していれば別だが、レニーのカットラスの技術は役に立たないだろう。力でゴリ押されて体を潰されるのが、オチだ。
「ストーシャはレニーを守れるように準備しといて。リーはワタシを守る」
ダイナドラゴはゆっくりとした足取りでレニーに近づく。巨大な影が、レニーの前まで迫った。一口で人間の体を呑み込めそうな大きな顎を持ち、巨大な黄色い瞳が、レニーを見下してくる。
「でっか」
太陽の光を背にするその姿はさすが竜種というべきか、迫力があった。
戦闘は、前触れもなく始まった。
軽くひっかく様にダイナドラゴの腕が振るわれる。腕から生えた刃のようなトゲが、レニーを真っ二つにせんと迫る。そのギリギリで、屈みこむように避けた。
そして、シャフトを向ける。
狙うは下あご。
レニーは
しかし、ダイナドラゴはギロリとレニーを睨みつけると、さらに激しく両腕を振るってきた。下あごから煙が出ているだけであまり効果が見られない。
中位の魔法でも耐えてくる。それがこのダイナドラゴの恐れられる理由の一つだった。
かすっただけでも致命傷になりそうな一撃を避けていく。
そして今度はマジックバレットを撃ってみた。カウンターのように、避けるごとに一発当てていく。
体が後ろに引っ張られて行く感覚がする。
ロミィの魔法だ。
彼女の動きをアシストする魔法によって、適切な距離を誘導させられる。
そしてダイナドラゴとレニーの間にストーシャが割り込んできた。
ダイナドラゴの腕の刃とレイピアが火花を散らす。
剛腕から振るわれる刃と、洗練された流動的な剣撃。それらがぶつかり合う。
レニーはシャドーステップの魔法で加速すると、その嵐の横を通り過ぎた。
「カットレンジ」
足に魔力を集中させて、瞬間的な加速をする。そしてダイナドラゴの足に突撃した。
「スタッカークレー」
突きを繰り出すように、杖を相手の足に向ける。
杖の先に生成された魔力の塊から、細かい魔弾が拡散して、ダイナドラゴの膝にダメージを与える。スタッカークレーは魔力の散弾を放つ魔法だ。散らばっていく魔弾が、命中する範囲を広げ、当たる確率を上げる。ある程度狙わなくとも当たる、そして広範囲にダメージを与えるのが利点だ。しかし、至近距離で全弾当てれば、それは強烈な一撃となる。
マジックマグナムではビクともしなかったが、膝に当てたこともあり、ダイナドラゴを怯ませる。
怯んだ瞬間に、ストーシャのレイピアが二度ほどダイナドラゴの表面の皮膚を裂いた。
腹いせとばかりに後ろ足が踏み潰しに来るが、右に体が引っ張られた瞬間、それに従って攻撃を避ける。
ロミィのアシストする魔法が、体を引っ張って誘導したのだ。避けながら早撃ちで膝を攻撃する。
あまり効いていないが、気休めにはなるだろう。
ストーシャは確実に、ダイナドラゴの両腕による刃を捌ききっていた。防ぎようのない噛みつきは避けている。少しでも油断すれば死に至るようなやりとりを臆せず続けていた。そうして着実にダメージを与えていく。
数秒魔力を込めてからマジックマグナムを放つ。
スタッカークレーも教わったばかりで準備に時間がかかる。まだ幾分、マジックマグナムのほうが早く撃てた。膝に直撃させようとしたが、尻尾が割って入ってきてそれを邪魔した。
尾の先の毛が逆立ち、電気を帯びる。
「ブレスが来るわ!」
ダイナドラゴの顔がこちらに向く。
ストーシャは魔力を剣に込めて、魔法の刃を飛ばす。だがそれは、背中で逆立った毛から放出される電気に遮られた。
大きくこちらに口が広げられる。
レニーはカートリッジを入れ替えた。
「
火属性のエンチャントカートリッジをはめ込み、魔力を一気に流し込む。ブレスよりも先に口の中へ火属性の強魔弾が爆発した。どの属性のカートリッジでも表皮にあまり効果はなかっただろうが、口の中となれば話は別だ。
口が爆発し、ダイナドラゴのブレスを潰す。周りに不発となったブレスの電撃が散らかった。
ストーシャはレイピアで電撃を弾ききり、レニーやロミィ、リーは距離的に電撃が届かなかった為無事だった。
ダイナドラゴが倒れる。
まだ死んではいない。竜種特有の頑強さが脅威のモンスターだ。
両腕と両足を振りながら必死に立ち上がろうとしてくる。
レニーは急いでカートリッジを通常のものに戻した。
起き上がろうとするダイナドラゴへストーシャの魔法の斬撃と、レニーのマジックマグナムを叩き込む。ストーシャの斬撃が傷をつくり、傷を広げるべくマジックマグナムが叩き込まれる。
出血しながら、ダイナドラゴは悲鳴を上げた。
全身の毛が逆立ち、電気を帯びる。
電撃があちこちにちらばった。さながら結界のように電撃がダイナドラゴを守り、ストーシャの斬撃もレニーのマジックマグナムも相殺する。
そして勢いをつけて、ダイナドラゴが立ち上がると、ストーシャを無視し、レニーに突進してきた。
咆哮と共に巨体が迫る。
笑う。
レニーは両手に杖を持ったまま、突っ込んだ。
ダイナドラゴが牙を向ける。その全身には電気を纏ったままだった。通常のダイナドラゴではそんなことはできない。
ロミィの言う通り、成長途中らしい。新たな能力を開発中といったところか。
「カットレンジ」
ギリギリのところで横に跳んで避ける。そして、ダイナドラゴの右斜め下からカースバレットを連射した。全て、傷口に正確に当てていく。固いのは表皮だ。いくらタフだとはいえ、傷口に攻撃されるのはたまらないだろう。
電撃が腕の延長のように延びて、レニーに襲ってくる。
ロミィの魔法が体を動かしてくれた。レニーが避けようと判断するよりも早く、電撃の間合いから脱出させてくれる。
レニーの体が動いたのは、電撃がこちらに迫る直前だ。
やがて黒い弾丸が傷を広げ、血を噴き出させた。
ブレスが吐き出される。
眩い光と共に、雷のブレスが薙ぎ払われた。振り返るダイナドラゴの頭の動きに合わせて、ブレスが迫る。
レニーはカートリッジを切り替えながら思い切り跳び上がる。
ダイナドラゴに近づきながら上空でカートリッジを火属性に変えた。
レニーの真下をブレスが通る。
そして再び、その口腔内へ火属性の強魔弾を撃ち込んだ。
二発、時間差を持って放つ。
一撃目の爆発で怯ませてブレスを止め、二撃目で口を爆発させてダメージを与える。
口から黒煙を吐き出しながら、ダイナドラゴが怒りの視線をこちらに向ける。
十分に魔力を込める時間がなかった為に、いつもより火力がなかった。だが、レニーは怯ませるだけで十分だ。
真横を閃光が走り抜けた。
レニーが相手をしている間、ロミィのバフと自分の強化を幾重にも盛ったストーシャだった。
怯んで電気を纏わなくなったダイナドラゴの真下にストーシャが潜り込む。
刃の先に左手を添えて、真上に向けて必殺の突きを繰り出す。
「スパイラル・ラピエレ」
刃に高濃度の魔力を纏わせた、閃光と見間違うほどの眩い一撃は、ダイナドラゴの胸を刺し貫いた。
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