冒険者と討伐後

 ロゼアの酒場にて。

 レニーはひとりでくつろいでいた。

 ジョッキが目の前に置かれ、気の良い笑顔がレニーの目の前に現れる。


「聞いたぜ、レニー。進化前のダイナドラゴ倒したんだってな」

「リンカーズと一緒にね」


 男は口ひげをいじりながら、したり顔で話す。


「ワイルドハントを退けたり、竜種を倒したり、ルビーも見えてきたんじゃねえかこりゃ」

「全然だよ」


 肩をすくめる。


「ワイルドハントはメリースがいたからだし、ダイナドラゴもリンカーズがいなけりゃ負けてる」

「へっ、身の程はわきまえてるってか」

「死にかけたからね。無謀なことはしないさ」


 突き出されたジョッキに応じて、自分のジョッキを突き合わせる。


「ただ、強くなりたいとは思うね」


 カートリッジの切り替え時間を縮める。魔弾系の魔法を新たに習得する。クロウ・マグナを最大限に生かすために最近は己の技能向上に努めている。


 上を目指して、というよりはより等級に相応しい実力である為、ではある。

 ただまるっきり向上心がないかと言われるとそうでもなかった。

 カットルビーに上がった際に獲得したユニークスキル、武器、魔法。宝の持ち腐れになってしまうのはもったいない。


「それでこそ男よ。強くなれよ才能あんだから」

「才能はないさ。運はあったね」


 このサティナスにたどり着くまでに得たものと、サティナスに来てから得たもの。どちらもなければ、レニーはトパーズで終わっていただろう。


 ユニークスキルであり、杖であり、何より出会った人であろう。


「まぁ、俺ぁ上手くいかなかった。その分若いもんの成長する姿を見るのが楽しいのさ」

「今からでも遅くないかもよ」

「バッカいえ。腰に良くない。あ、最近良いマッサージ店見つけたんだ。お前にも教えてやるよ」

「マッサージ?」

「おう。こう歪んだ骨を直して正しい形に戻すんだとよ。終わった後スッキリするぞぉ」

「へぇ。興味ある」


 身振り手振りを加えながら男から店の情報を教えてもらう。一通り話をして満足したのか、男は自分のパーティーの方へ戻っていった。


「……あ、名前」


 もういいか。

 レニーは深く息を吐きながら背中を見送った。


「ねぇレニーくん」


 横から話しかけられて目を向ける。

 フリジットが後ろに手を回しながら上目遣いでこちらを見ていた。


「明日、空いてる?」

「空けようと思えば」

「この間、早撃ち教えてほしいって言ったよね。その、二人きりで」


 頬を赤らめながら、視線をそらしつつ、フリジットが言ってくる。


「あぁ、うん。言ってたね」

「明日、ルベの洞窟に調査しに行こうと思ってて。一緒に、良いかな」

「ついでで教えてほしいってこと?」

「うん。ダメ、かな」


 首を傾けながら、聞いてくる。

 レニーはいつもと違った様子のフリジットを疑問に思いながらも、頷いた。


「良いよ」

「本当? やった」


 胸の前で小さく拳を握るフリジット。

 それから思い出したように「あ」と声を漏らし、人差し指を立てた。


「ルミナさんには早撃ち教えたことあるの?」

「知り合ったばかりのころに教えたよ。雑談のネタでね」

「ふぅーん」

「どうして?」

「え、いや、不公平かなーって」


 言葉の意味がわからず返答できずにいると、フリジットは首を振った。


「じゃあ明日よろしくね」


 胸の前で小さく手を振られる。


「よろしく」


 レニーも手を挙げて返すと、フリジットは鼻歌を歌いながら酒場を後にした。


「……フリジットにあの人の名前聞くとかアリかな」


 レニーの呟きは、喧騒に呑まれるだけであった。

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