臨時要員の話
冒険者と撤退
「撤退? 君らが珍しいね」
レニーが夜の酒場に顔を出すとリンカーズの面々が酒の席に誘ってきた。断る理由もな特になかった為、席に混じってエールを飲む。
「ワイがやらかしちゃってなー」
糸目の槍使い、リー・ロジュアが笑う。左腕に包帯が巻かれていて、それが肩まで続いている。動かないわけではないようで肘をテーブルに置いていた。
髪を軽く後ろで纏めており、ひょうひょうとした態度が印象的な男だった。
「もっとワタシが上手く誘導できれば良かった」
リンカーズの紅一点、ロミィ・ジオリーは俯きがちに呟く。水色の髪をボブカットにして、小柄な女性だった。先の尖った短杖を携帯している。
「ロミィのせいではないさ。単純に私たちの実力不足だ」
肩まで髪を伸ばした二枚目の男がロミィの肩を叩く。ストーシャ・ロペラ。レイピア使いだった。ちなみに名前はさっき軽く確認し直したし、リンカーズのリーダーが誰だかわからないが、方針を決めがちなのはストーシャだった記憶がある。
「トパーズのパーティーの中でダントツだと思うんだけど一体何の依頼に失敗したんだい」
レニーが聞くと、ストーシャは視線を鋭くした。
「ダイノドラゴだ」
ダイノドラゴとは二足歩行の、竜種に加えられる魔物だった。人間が極端な前傾姿勢をとったような体勢での二足歩行であり、腕には前腕から肘まで片刃の剣のようなトゲが生えている。
首回り、背中、尻尾が体毛で覆われており、体毛に電気が走ると強力な雷ブレスの前合図となる。
レニーは倒したことがない。最低条件がトパーズ級パーティーで、さらにはトパーズ冒険を三人またはカットルビー以上を一人を含めたパーティーであることが討伐の条件だからだ。
あまり人里に被害を及ぼすまで出てくることもなく、出てきても撃退できれば十分といった魔物だ。
「体中に傷をつけて弱らせたまではいいのだが、リーが攻撃を喰らってしまってな」
「情けないったらありゃせんね」
リーは後頭部をかく。
「撃退はできたんじゃないの」
「依頼は完遂とまではいかないな」
達成段階であれば撃退で壱段階達成だ。失敗は言い過ぎではあるが、冒険者の中では認識として成功と喜べないものもいる。
「このまま依頼を報告してもいいのだが、討伐したい」
「まぁ、その方が確実だしね」
撃退で一時的にその地域に平和が訪れたとして、また襲われないとも限らない。となると同じ依頼が張り出されるわけである。討伐が一番であることは明白だ。
「そこで提案」
ロミィが目線だけをレニーに向ける。
嫌な予感がした。
「一緒に討伐きてくれん?」
「……魔物退治はもう散々やったからしばらくやるつもりなかったんだけど」
以前ロゼアにやってきた冒険者と散々魔物討伐の依頼をこなしたばかりである。魔物退治を好んでいるわけではないレニーにとってはやる気が起きなかった。
「ルミナとか他のトパーズは」
最近、ロゼアの冒険者は増えている。トパーズ冒険者も何人か増えていた。ルミナだって、ダイナドラゴは全長は大木に劣らぬし、足は丸太のようだと聞く。ルミナは「ジャイアントキリング」の対象と話していたし、相性がいいのではないのだろうか。
「他のトパーズ冒険者と依頼を組んでやったことはない。多くはパーティーでやっているから分け前も減る」
「ルミナさん、強いけど強すぎるっていうか。ワタシたちの経験にならないっていうか」
「だからワイらと依頼をこなしたことあるレニーならいいんじゃないかって話になってな」
「分け前は」
「無論、君に支援をお願いするのだ。君が一番多い。等級も高いしな」
どうだろう? と、ストーシャは手をレニーに向ける。
了承する理由も、逆に言えば断る理由もなかった。困ったときはお互い様だ。助けを求められたのなら、恩を売る意味で了承しておいたほうがいいことを考えると、了承する理由がやや勝る。
「ワイルドハントを生き残った実力も見たい」
ロミィがそういうとリーも強く頷いた。
「ぶっちゃけワイらのほうがカットルビーになる確率の方が高いと思ってたからなぁ」
「実際そうだったと思うよ。運が良かっただけで」
レニーは同意する。自分の実力は一番よくわかっているつもりだ。色々な事象が重ならなければ器用貧乏のまま、トパーズで腐っていた自覚はある。
憧れはあろうとも、向上心がないのもあった。
ただ、今は少し違う。
「ダイナドラゴ討伐、手伝うよ」
レニーが了承すると、三人は目を見合わせ、ハイタッチした。
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