冒険者とリッチ
左手の魔書は速度重視。右手の魔書は火力重視。
メリースの魔書は二冊同時に扱うことを前提にしている。右の魔書で魔力を込めている間に、左手の魔書で隙を埋める。ゆえに二冊。
メリースは三重の結界魔法を自身を囲うように展開し、大魔法を連発する。
相手のリッチも同じ手法だった。結界を張り、骨で出来た杖を持ち、メリースと同じ属性の魔法を撃ち合う。
「フレア・ノヴァンス」
右の魔書で巨大な火球を生成し、放つ。
リッチは杖で同じように火球を飛ばすとぶつけ合う。メリースの魔力の方が上だった。火球を貫き、リッチの結界にダメージを与える。
何度かダメージを与えたおかげで三重に張られていた結界が一枚、破られた。
あと二枚。
「魔法で私に勝てるとでも!」
左の魔書で風の刃を飛ばす。
周りのアンデットをそれで薙ぎ払った。アンデットを犠牲にして、リッチは己の魔力を補充する。魔力元を断てば断つほど、リッチの力は弱まる。
それに、魔法系のロールとしての完成度はメリースのほうが高い。魔法系のロールの上位であり、魔法使いとしては万能であるメイガスというロールだ。
これより上のロールは、
リッチにも出せる魔法には上限がある。どれだけバケツの要領が大きくとも、中身を全部出し切れるわけではないのだ。
魔力量では劣っていても出力ではこちらのほうが上だ。
とはいえ。
全力を出し続けていたメリースに余裕はなくなってきた。
「ちっ」
舌打ちをしながら、魔法を発動する。
ストームブラスト。前方に強力な風の渦を発生させて相手を斬り刻む、上位の魔法だ。そこにリッチも同じストームブラストをぶつける。
アンデットになる前はどれほどの実力者だったかは知らないが、所詮、アンデットにならなければ魔法を極められなかった人間だ。大したことはない。
そんな思考がメリースにはあった。
ワイルドハントという特殊な条件下でなければメリースは勝てる。だが、あちらは凌げば凌ぐほど、こちらの魔力量を削って行けるのだ。
そのくせ、相手の魔力量は無限に近い。
さっきから近くのアンデットは削っているが、焼け石に水だ。
ルミナのほうのレプリカント・ドラゴンゾンビの維持を見限ればメリースの
これがワイルドハント。これがリッチ。
舐めてはいないが、実力で勝っているのに戦いで負けるのは
歯噛みしていると閃光が走った。
それを見て、メリースは笑みを浮かべる。
中級のアンデットを蹴散らしながらノアがリッチまで突っ込んだのだ。リッチの注意はノアに向き、魔法を放つがそれを剣で両断される。
時間はノアが稼いでくれる。
メリースは空中に浮かぶと二冊の魔書を同時に発動させた。
高速で術式を形成し、魔法を詠唱する。
魔法は無詠唱でも構わないが手順を踏めば踏むほどその威力を増す。
「――稲妻よ、熱よ、魔力よ」
火力重視の魔書に魔力を集中させて純度の高い青白い火球を生成する。膨大なエネルギーに、周りのアンデットが近づく事さえできない。
速度重視の魔書で火球の通り道を魔力で作った。狙いがリッチに定められる。
「――光となりて、立ち塞がる敵を焼き尽くさん」
ノアがリッチに接近し、二枚目の結界を破る。そしてそのまま、メリースの射線上から消えた。長年ペアを組んでいる仲だ。メリースの意図はわかっているのだろう。
地面から沸いてきたアンデットがリッチの壁となり、更には防御結界を張る。
視界がアンデットの壁で埋めつくされてリッチがどこにいるかわからなくなった。
なら薙ぎ払うしかない。避けられる可能性もあるが、相手もどこから魔法が飛ぶかまではわからないだろう。
と。
アンデットの壁の影だろうか。そこから巨大な杭が飛び出してきた。茨のような棘の生えた黒い杭が防御結界を貫き、アンデットの壁を崩壊させる。
杭が地面に戻る勢いで棘がアンデットたちに引っかかり、壁を崩壊させていく。
おかげでこちらに幾重もの防御魔法を展開し、攻撃魔法を準備しているリッチの姿が見えた。
「へえ、やるじゃんアイツ」
リッチに向けて、メリースは魔法名を叫んだ。
「プラズマント・ドーラ!」
青い閃光が放たれる。前方の地面を抉り、空気を貫き、アンデットの群れを焼き尽くし、リッチに飛んでいく。
リッチは炎の上位魔法をぶつけ、土で壁を生成して防御し、さらには魔力で生成してあった防御魔法でプラズマント・ドーラに対抗する。
だが、どれもこれも、メリースの必殺の一撃を打ち消すどころか止めることさえできなかった。
そしてリッチが光に呑まれる。
光が晴れたころにはメリースの前方には何も残っていなかった。
暗雲が晴れていく。
嵐の終わりを空が告げていた。
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