冒険者と祝い
青い閃光がリッチを焼き尽くした後、群がっていたアンデッドが土に還り始めた。スケルトンもゾンビも砂となって何もなかったかのように風にさらわれていく。
レニーはそんな中で魔力を使い切って倒れていた。とてつもない疲労感が全身を重くしている。
ワイルドハントは消えた。危機はもうない。
「ナイスアシスト」
ノアが手を差し伸べながら声をかけてくる。レニーは手を出して引き起こしてもらった。
「影から飛び出たトゲ、あれ闇属性魔法? それともスキル?」
デュラハンを倒した後、メリースの大技を妨害しようとしたアンデッドの群れを影の女王に捧ぐのスキルで影を支配し、巨大な杭で破壊した。
おかげで魔力は枯渇状態だ。
「スキルだよ」
「ユニークか、いいね」
「キミはピンピンしてるね」
「雑魚狩りメインだったしね」
あっけらかんというノアにレニーは難色を示す。薙ぎ払ったアンデッドの中にはデュラハンほどではないがトパーズ級と同等のスケルトンナイトなどいたはずだが、ノアにとっては雑魚扱いらしい。
サラリとリッチの隙に斬り込んで結界を一枚破壊したのもイカれている。
上位の魔法を直撃させでもしないとリッチの結界は破壊できない。実際メリースは何度かリッチの魔法を上回る威力を叩き込んで、リッチの魔法を殺し、威力が減衰した魔法を何度も当ててやっと一枚破壊しているようだった。
そもそも上位魔法の撃ち合いの中で敵の間合いに飛び込むのも神経がおかしい。爆発の中に突っ込むようなものだ。
それをやっておきながら楽な役回りでしたと涼しい顔をしているノアが恐ろしかった。味方で良かったと心底思う。
「あれだけでへばってるの?」
メリースがズカズカと歩きながらやってくる。こちらもノアと同じく余裕がありそうだった。
上位の魔法を連発して最後は大魔法まで撃ったというのにまだ魔力に余裕があるらしい。さすが魔法専門のメイガスといったところだろうか。
レニーの総魔力の十倍以上はあるだろう。
「ローグに求め過ぎじゃない?」
「カットルビーでしょ、シャキっとする」
背中を叩かれる。倒れそうになりながらも何とか踏ん張った。
「さ、ルミナ迎えに行くわよ。一番キツイ役回りだったし」
再生し続ける相手を最初から最後まで相手にしていたのだ。しかもルビー級相当のモンスターだ。
重い体を引き摺りながらノアとメリースと共にルミナの元に向かう。
ルミナは大剣を地面に刺して座り込んでいた。大剣の柄部分に体重をかけて寄りかかるようにしている。額から大量の汗が流れ、顎の先から地に落ちる。
「ハァ、ハァ」
呼吸も荒かった。集中力が切れたのだろう、ひどく疲労している。
こんな姿のルミナを見るのは初めてだった。
「ルミナ」
声をかけるとルミナは顔をこちらに向ける。
「レニー」
「お疲れ様」
レニーが労うとコクリと頷いた。少し嬉しそうだった。
ゆっくり立ち上がると大剣を背中の鞘に納める。
「疲れた」
「おつかれ」
「おつかれさまー」
ノアとメリースもルミナを労う。
メリースは両手を腰に当てると鼻を鳴らした。
「さて、村に帰って休みましょ。さすがの私もしんどいわ」
災害と例えられるものをたった四人で鎮圧したのだ、疲労は誰もがあるだろう。
暗雲の晴れた空から降り注ぐ太陽が、この上なく心地良かった。
○●○●
「我らが英雄に、かんぱーい!」
フリジットの大声に全員がジョッキを掲げてぶつけ合う。
ロゼアの酒場ではワイルドハントを退けた功績を祝う会が開催されていた。祝いのための金を出した冒険者たちとギルド職員が飲んで騒ぎ始める。
酒場側も大型の予約が入ったことで在庫は充実している。タダで好きなだけ食べられるし、好きなだけ飲める。レニーたちにちにとってはそういう場だった。
「お酒どんどんもってきなさぁーい!」
「お子ちゃまには早いんじゃないかー」
「アァン!? 私は立派な大人だしっ! 文句言わせないわよ!」
イスの上に足を乗せてメリースが大声を張り上げる。ノアも別の冒険者と肩を組んだりして酒を楽しんでいた。
「ボク、しばらくワイルドハントは勘弁」
「同感」
レニーとルミナは端の方で酒を飲んでいた。ルミナは酔いたいのかいつもより強い酒を飲んでローストビーフをひたすら食べている。
レニーの方はとりあえず来たという感じでなんなら酔ったルミナに付き合うつもりでいた。
戻った村で散々感謝された。
用意してもらったそれぞれの部屋でレニーはまる一日寝ていたし、ルミナもまる二日寝ているか不調だった。
ノアとメリースは一日で復活して村人に報告を行ってくれたが。
依頼が依頼なだけあり、しかも受けたのがたった四人である為に儲けは凄まじいものになった。
杖のローンをまとめて返せるので返すのにほぼ使った。
フリジットが以前すぐに返せると話していたことを思い出す。その通りになったことに正直驚いた。
「キミ飲み過ぎじゃない?」
いつもよりもハイペースに酒を飲むルミナに、レニーは眉を上げる。
「そう?」
あまり気づいていないようだった。もしかしたら周りの空気に流されてるかもしれない。
ノアとメリースは中心で騒いでいるが、レニーもルミナもそこに行くことはない。
祝杯会というよりは冒険者たちの感謝の想いでこの場が設けられているからだ。
ワイルドハントによって故郷の村を滅ぼされる者も少なくない。それが最低限の被害で済んだことは喜ばしいことであり、恩義を感じるものも多い。
それぞれが自由に飲んで楽しんでほしいというのがその場の総意なのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます