冒険者とレプリカント・ドラゴンゾンビ

 レプリカント・ドラゴンゾンビ。


 魔法などの特殊な手段で生成されたドラゴンの総称をそう呼ぶ。強さは正直ピンからキリまであるが、ワイルドハントではルビー相当だ。


 レプリカント・ドラゴンゾンビの体はスケルトンが骨組み、ゾンビが肉となる。リッチによる強力な魔法とスキルによってルビーの冒険者か相当熟練されたトパーズ級のパーティーでないと相手にならない。


 ルミナはタックルで周りの敵を吹き飛ばしながらアリアドネベルトをレプリカント・ドラゴンゾンビに飛ばす。


 頭からのびた角に巻き付けて、ルミナは飛ぶ。

 レプリカント・ドラゴンゾンビには翼がない四足歩行タイプのドラゴンだ。その頭に、ルミナは大剣を叩きつける。

 上あごの先から半分ほどの、骨と肉が破壊される。


 眼前に尻尾が迫ってきた。

 

「すぅ」


 息を吸って、大剣を振り下ろす。体ごと回転しながらその尻尾を切断した。


 破壊された上あごの奥の気道から炎が放出される。ドラゴンゾンビというのは脳が破壊されようが心臓が止まろうが関係ない。


 なぜなら軸となっているのは魔法であって、体ではない。

 スケルトンとゾンビの塊なのだ。壊れても再生される。


 アリアドネベルトを外し、今度は前足に巻き付ける。

 炎を避けながら急降下して関節部分を斬った。巨大すぎるゆえに破壊までには至らずすぐに再生される。


 どれだけ再生を遅らせて、どれほど操っている存在に余裕を与えないかだ。


 リッチという存在は魔力量は多い。操っているアンデットの数が全てリッチの魔力になる。軽く数百はいるワイルドハントにおいて、リッチの魔力量は無限に近い。


 しかもルミナは今回、ジャイアントキリングのスキルを発動できない。


 ジャイアントキリングは相手が自分より巨大であればあるほど強ければ強いほど、ルミナの力を増幅させる。


 アンデットの集合体であるレプリカント・ドラゴンゾンビは巨大な個ではなく、群体なのだ。巨大な魔物の中にはジャイアントキリングが適応されないものも多い。


 それでもルミナがこの相手を引き受けたのは単純に巨大な相手との戦いの方が得意だからだ。

 ひとつふたつスキルが発動しないところで不利になるほど軟な鍛え方はしていない。それにメリースが残したバフの効果もある。


 爆発音が聞こえる。

 どうやらメリースとリッチの戦闘が始まったらしい。


「はぁ」


 ルミナの集中力が戦闘によって研ぎ澄まされる。判断力や動きの鈍さを排除するのに集中することは重要だ。


 それに、「一気呵成」のスキルによって集中力が一定まで達すると物事が終了するまで集中力が持続する。いわゆる、超集中状態のことを指す「ゾーンに入る」ことさえできれば、それを最後まで継続できるのだ。


 頭の中で異様に思考が加速し、物事の視野が広くなる。


 ありったけの魔力を込めて、大剣に宿る「斬撃の範囲増加」の効果を発生させる。大剣さえ当たれば巨体だろうがまるごと切断できる。今まで使わなかったのは一気呵成のスキルが発動するまで自分を追い詰める為だ。


 そしてそのスキルさえ発動してしまえば、普段感じる疲労も、感じなくなる。最高のパフォーマンスを、相手が死ぬか己が死ぬかで継続できるのだ。


 それをしなければ、負ける可能性のある相手ということでもある。


 ――魔力で生成された物質は形が維持できぬほどのダメージを与えると魔力に還る。


 それは再生し続けるレプリカント・ドラゴンゾンビでも変わらない。


 ルミナのやることは変わらない。


 再生不可ぶった斬るにする、だ。


 レプリカント・ドラゴンゾンビの全身から魔法が放たれる。雷や火、闇属性の攻撃魔法が雨のように降り注いでくる。

 大範囲の攻撃魔法は周りのアンデットも巻き込むが、並みの冒険者なら即座に全滅するだろう。


 しかし、ルミナは伊達にルビーの冒険者をやっているわけではない。


 大剣を盾のように、刃の側面を前にして突撃する。魔法を防ぎながら相手の足元を目指した。魔法を防いだ時の衝撃などでルミナの歩みが止まることはない。


 それだけ死線を潜り抜けて、スキルを得ている。身体能力を向上させるスキルも、大剣を扱うスキルも得ているし、確実に敵を倒すぶったぎる為の「減速抵抗」というスキルもある。減速抵抗はそのまま、減速する要因を弱める。切断するときの摩擦や、今受けている魔法の衝撃など、こちらの攻撃を妨げるものはこのスキルでかなり弱められる。


 敵の右前足までたどり着く。


「斬る」


 大きく振りかぶって、大剣がアンデットの塊に入り、足首を難なく切断した。バランスを崩して、レプリカント・ドラゴンゾンビの巨体が落ちてくる。

 ルミナは左前足へ向かって走りながら、アリアドネベルトを伸ばした。

 バランスを崩して倒れそうになっているおかげか、魔法の弾幕は止んでいた。おかげでアリアドネベルトを伸ばしても魔法で妨害されることはない。

 そして左足首に巻き付けると、急激に縮めてそのまま加速した。

 矢のごとく飛んだルミナはそのままの勢いで回転斬りを繰り出す。そして、左足首も切断してみせた。


 レプリカント・ドラゴンゾンビは切断された右足首を再生させてバランスを取りなおしたところだった。そんなところで左まで斬られては同じことの繰り返しになる。


 ルミナは左足首に大剣を突き刺した。そのまま、身を屈める。


 そして驚異的な身体能力を持ってして、真上に跳躍した。脚が左側から縦に真っ二つにされていく。そのまま脚の付け根、肩、肩甲骨と大剣を滑らせる。

 上あごを再生しきった頭と同じ高さまで跳び上がると、ルミナはアリアドネベルトを首に伸ばした。巻き付けて、縮める力で近づいていく。


 口がこちらに向き、炎を吐き出してくる。

 だが、ルミナは加速した状態で大剣を振り回し、ブーメランのように回転する。炎を切断しながら、首元までたどり着くとその首まで斬ってみせた。


 レプリカント・ドラゴンゾンビは背骨が剥き出しになっている。ヒレのように出っ張った、骨の部分に向けてベルトを巻き付けると今度は背中を斬っていく。レプリカント・ドラゴンゾンビが斬った端から再生を繰り返しているが、再生しきるまでは時間がかかる為、ルミナの破壊速度を上回ることは決してない。


 苦し紛れに放っている魔法も、ルミナのスピードに追いつけるような弱い魔法ばかりだ。強力な魔法は発動が追いつかない。ルミナに低位の魔法が効かないわけではないが、傷を追うほどではないしルミナの体であれば耐えられる。


 やがてレプリカント・ドラゴンゾンビは全身をズタズタに斬り裂かれ、崩壊していくことだろう。

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