冒険者と突撃

 ワイルドハントは嵐に例えられる。

 アンデットが力を発揮しやすい「太陽のない」地域を発生させて、進撃してくる。

 そのワイルドハントの対処方法は至極単純だ。


 一点突破。


 発生源のいる中心に突撃し、まわりの妨害を退けながら元を断つ。


 と、口で言ってしまえば簡単だ。


 災害を前に、全員でポーションを飲む。自然治癒力を高めるものだ。傷を塞ぎやすくし、疲労を軽減する。


「それじゃ行くわよ」


 ホルスターから両手で魔書を展開し、メリースが全員にバフをかける。魔弾と闇属性魔法の一部しか使えないレニーと違い、メリースはありとあらゆる魔法が使えた。身体能力が強化され、体が軽やかになる。まるで無敵になったような高揚感が、レニーにはあった。


 メリースはバフと中心のモンスターの相手が役割だ。道中であまり魔力を消費させるわけにはいかない。


「よし、蹴散らすぞ」


 草原の中、暗雲立ち込めるワイルドハントの領域へノアが突貫した。両手剣に火を纏わせながら嵐の中へ入っていく。そのあとに、ルミナ、レニー、メリースの順番で続く。


 群がるアンデットは骨だけのモンスターであるスケルトンや、腐った死体であるゾンビばかりだ。単体で言えば、グラファイトでも対処可能だ。

 しかし、今回は数百という数が軍隊のように押し寄せてくる。


 その中をノアの両手剣が斬り裂き、道を開けていった。横から迫ってくるアンデットたちはレニーが魔弾で撃ち落としたり、ルミナが大剣を振るってなぎ倒す。


 中心に近づいていくと、死体でくみ上げられたドラゴンが出現した。地面からまるで蘇ったかのようにその巨体を見せる。


 レプリカント・ドラゴンゾンビ。


 ルビーでしか単独での討伐は不可能なモンスターだ。


「任せて」


 ルミナは大剣を正眼に構え、レプリカント・ドラゴンゾンビの相手を引き受けた。アリアドネベルトを伸ばし、レプリカント・ドラゴンゾンビの下あごに巻き付けると引っ張った。

 踏ん張りながら、レプリカント・ドラゴンゾンビの首を引き込む。

 群がるアンデットたちは大剣で薙ぎ払ながらルミナがレプリカント・ドラゴンゾンビを煽る。


 レプリカント・ドラゴンゾンビの注意がルミナに向かったところで、ノアが道を開けていく。そこをレニーとメリースが進んだ。

 やがて目標が見えてくる。


 頭に王冠のようなものを被り、骸の頭にぼろ布を身に纏った姿。

 リッチだ。


「メリース!」

「わかったわよ!」


 後ろに構えた両手剣の先にメリースがのる。

 レニーは魔弾でスケルトンの腰骨を破壊し、カットラスでゾンビの首を断つ。どちらも弱点だ。そして、ノアとメリースの時間を稼ぐ。


「いっけぇええ!」


 ノアが剣を振るうとメリースがリッチに向けて射出された。魔書を展開し、上位の魔法をリッチに向けて放つ。

 リッチは手をかざすとメリースの魔法に対抗した。どちらも炎の塊をぶつける魔法だった。遠くの方でリッチとメリースの大魔法合戦が始まる。

 激しい爆発音と、衝撃が周りのアンデットを吹き飛ばしているのが遠くからでもわかった。


 真正面から首のない甲冑を着たアンデットが馬に乗って走ってくる。大剣を片手に、ノアとレニーの元へ一直線であった。

 デュラハンだ。

 トパーズ級パーティーでの対応が求められるモンスターである。


「レニー、任せた」

「わかった」


 ノアは全速力でメリースの元へ向かう。

 一番相手をするべきはリッチだ。大量のアンデットに圧し潰される前に倒さなければならない。

 レニーはけん制目的の魔弾をデュラハンに撃ち、注意を引く。


 周りのアンデットをカットラスで切り抜けながら、デュラハンの様子を見る。

 馬の嘶きと共に、デュラハンはレニーの真正面に飛び降りてきた。アンデットのひしめき合うこの場で、馬は有利ではないと判断したのだろう。


「……勝負といこうじゃないか、首無し騎士くん」


 レニーはアンデットたちを斬り裂きながら、デュラハンへ魔弾を放った。

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