冒険者と仇討ちの顛末

 難易度が高い依頼は勿論、報酬が高い。賞金首ともなれば、国の機関から褒賞金も出る為、相当な稼ぎになる。


 レニーは今回の稼ぎに満足していた。今回、レニーとフリジットがやや報酬を多めに分けてもらっていた。フリジットはいくら強いから任せたとはいえ、賞金首二人を生け捕りにした上に負担も大きかったので当たり前だ。レニーは罠破壊と一番リスクの高い立場だったゆえに報酬を多めに受け取った。


「相席いいか」


 酒場でステーキを食べていると、ヘラが話しかけてきた。片手にジョッキを持っている。


「どーぞ」

「失礼する」


 ジョッキを置き、静かに座るヘラ。

 レニーが視線を別のところに向ける。依頼を終えたばかりのリンカーズが酒を楽しんでいる姿が見えた。


「改めて言わせてくれ。ありがとう」

「気にしないでいいよ。報酬増えたし」


 リンカーズを引き入れていたら分け前も少なくなっていただろう。フリジットがいたから強気に出れたのもある。

 ルミナと組んでいても同じような結果にはなっただろうが、ただ一つ言えるのはレニーだけでは達成できなかった依頼である。だから礼を言われる謂れはあまりないのだ。


「何もかもあなたのおかげだ。口では否定的なことを言いながら、ブオグにトドメまで刺せるようにしてくれただろう?」

「……さぁね」


 単純に戦闘を楽しんでいただけとも言える。


「ラフィエさんがキミのサポートできたからこそだし。フリジットが圧倒的に強かったからキミを数に入れられた。感謝するならあの二人にするんだね」

「もちろん、しているし、したさ。だが、貴方が一番気遣っているような気がした。ブオグの相手は命がけだったろう?」

「まぁね」

「本気で、戦ってなかっただろ」

「オレの本気はリスキーなんでね」


 洞窟という影にまみれたスキル使いたい放題の場所だ。本気を出せばブオグをさっさと仕留めることも可能だった。

 それをしなかったのは、レニーのスキルは魔力を大幅に消費する、全力はイコール魔力を一気に使い切るような手段だからだ。相手の奥の手があったとしてこっちの全力を凌がれたら後がなくなる。だからこそ、真正面から戦った。


「早いもの勝ち……だったな」

「何が」

「言っていただろう、ブオグのところに行くときに」

「覚えてないね」


 最後の肉を頬張って舌鼓をうつ。


「優しいのだな」

「自分にね」


 ヘラはジョッキを傾ける。


「聞いてもいいか」

「いいよ」

「どうして協力してくれたんだ」

「報酬の分け前が増えるから」


 即答し、頬杖をつく。


「カットルビーになる前、レッドロードと戦ったことがあった。ひとりでね」

「よく生きて帰ってこれたな」

「ライたち……ラフィエさんとパーティー組んでる子たちいたろ? その子たちを逃がそうとしてパールの冒険者が犠牲になったんだ。目の前で殺されるのを見た」


 記憶を辿りながら、人差し指でテーブルを叩く。


「特に知り合いだったわけじゃないさ。命張って後輩を守り切ってみせた先輩冒険者、その姿に敬意を抱いた。同時に無念も晴らしてやろうとも思った」

「それで、戦ったのか」

「思い返せば、という程度しかない。ただ、オレはあのとき戦ったからこそ、胸を張ってカットルビーをやれてると思うんだ」


 逃げていれば、自分は安全だったかもしれない。ただそうすればカットルビーの道は遠のいていたし、誇らしいと感じられることもなかっただろう。

 だから、レッドロードと戦ったことは、死にかけたが後悔はしていない。


「チャンスは誰にでも必要だと思うんだ。オレがつくってやれるなら、協力するさ」


 レニーはヘラに語り掛ける。


「これからキミはどうするんだい?」

「さあな、とりあえず仲間の墓に報告しに帰るさ。その後はわからない。パーティーのみんな、私の幼馴染だったんだ」


 幼馴染。

 同じ環境で育って、同じものに憧れて、同じものを目指す。

 良くある話だ。そして現実は厳しいことに栄光への道を誰にでも示すわけではない。


「正直、私一人になってしまったからな。どうすればいいかわからないんだ」


 そのパーティーが何を目的にしていたのか、レニーにはわからない。ただきっと、ヘラにとっては、幼馴染と目指すからこそ意味があったのだろう。


「フリジットさんにはアテがないならと、受付嬢を勧められたが」

「支援課、彼女しか全業務こなせないらしいから人手がほしいんでしょ」


 人手不足問題は結構切実に解決したいのだろう。冒険者が増えてきているが、ギルド職員がもっとほしいのだろう。どこのギルドも、ギルド職員は激務だ。少しでも人手を増やして負担を減らせるのなら減らしたいはずだ。


「ま、とりあえず元気でね」


 レニーから言えるのはこのくらいだった。依頼を一度共にしただけで彼女のパーティーメンバーでも、友人でもない。だから、レニーが彼女のこれからにあれこれ言うことも、心配することも、何もない。


「この恩は一生忘れない。レニー・ユーアーン」


 ヘラは深く深く、頭を下げる。

 レニーは穏やかに、笑みで返した。

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