冒険者とアーマードリザードス
アーマードリザードスは、リザードスに鎧をかぶせたような、発達した
対処はトパーズをひとり以上含めたトパーズ級パーティーで行われる。
というのも、他のリザードスを引きつれていることもあれば、咆哮によって仲間のリザードス種を呼び寄せることもある。アーマードリザードスはトパーズの冒険者ひとりで対応可能なレベルだが、周りのリザードスの処理や手に負えない状況になる前の撤退の判断も含めてパーティーでの対応が要求されている。
「アーマードリザードスと戦ったことはある?」
「何度か。ほぼ周りのリザードス相手に耐えるのが精一杯で」
洞窟内をラフィエと歩きながら、会話をする。
「今回はアーマードリザードスに集中してもらうから」
「が、がんばるよ」
声音が明らかに緊張していた。
念願の昇格試験だろう。昇格しなければというプレッシャーが強いのかもしれない。
「ひとつアドバイスしてあげようか」
「ぜひ」
「間合いの外から攻撃し続けて回転攻撃を誘うといい」
「あの、身を縮めるやつを? あれって、手の出しようがないんじゃ」
アーマードリザードスの持つ最大の攻撃手段が身を丸めて、角と外鱗で敵を切り裂く回転攻撃だ。全身を丸めて、弱点である部分を外鱗の中に閉じ込めてしまうので、前衛ではその行動を誘発しないような動きが求められる。
「横から強力な一撃を当ててやればバランス崩して無防備になるからね」
「それって結構な高等技術なんじゃ」
「中衛ってことを考えると、出来たほうが良いね」
レニーがアーマードリザードスを狩るときに使った手であった。回転攻撃を避けながら、側面に魔弾を二、三発叩き込むのだ。それによってひっくり返って無防備になったアーマードリザードスにトドメを刺す。
ルミナが他のリザードスをまとめて倒している間に、レニーがアーマードリザードスを処理するのだ。
「やって、みる」
覚悟を決めたのか、ラフィエが拳を握りしめる。
広い空間に出る。
光苔という淡く黄色い光を放つ苔が天井や壁にところどころ生えている。泉の近くではアーマードリザードスを中心とするリザードスの群れが休んでいた。水を飲んでいる。
「じゃ、オレが先行するから。後は適当によろしく」
手を振りながら、ラフィエの反応を待たずに前に進んだ。
一番外側にいた、おそらく見張りであろうリザードスがレニーの存在に気付き、声を上げる。
一斉にリザードスがこちらを見た。
指をさしながら、数を数える。
レニーを囲むように六匹のリザードスが近づく。
「さて、じゃあ」
突風が吹き抜けた。
前方のリザードス二匹。一匹は腹から胸までを一太刀で斬り裂かれ、もう一匹は胸を突き刺されて絶命する。
相手が倒れるのを待たずに、風がアーマードリザードスまで駆け抜けた。
「スタースマイトッ!」
上空に飛び上がり、縦に回転を加えながら、ラフィエはアーマードリザードスの脳天に魔法を叩き込んだ。青い剣筋がアーマードリザードスの外鱗に衝撃を与える。
アーマードリザードスは咆哮をあげ、ラフィエとの戦闘を開始した。
「……わお」
実力が以前とは段違いになっていた。スピードも判断力もだ。前方の二匹を倒してくれたおかげで、いざとなればラフィエを魔弾で援護できるような空間が確保されている。
これは、合格以外ないな。
レニーはそう思いながら、リザードスの爪での一撃をカットラスで受け流す。
「一つ」
飛び掛かろうとした背後のリザードスに向けて魔弾を二発。顎と腹部へ撃ち込む。
顎を撃ち抜かれ、腹部に穴をあけられたリザードスは魔弾の衝撃で後ろに倒れて絶命する。
「二つ」
さらに受け流しを終えたばかりのカットラスで、リザードスの首を裂く。リザードスはよろめきながら倒れ込んだ。
まだ生きているが出血で死ぬ。首を斬られたことでまともな動きはできないだろう。
大口をあけて、レニーを喰らいに来るリザードス。
「三つ」
その喉へ向けて魔弾を喰らわせる。
「グルメもほどほどにね」
外鱗が硬くとも、内臓はどの魔物も弱い。攻撃されることを想定されているわけではないからだ。
噛みつき攻撃は「食われる」という恐怖を煽り、強靭な顎も相まって強力だが、怯まなければ弱点丸出しだ。
レニーにとっては狙い時だった。
「ラスト」
カットラスを投げる。
心臓にカットラスが突き刺さるが、最後のリザードスは力を振り絞ってレニーを噛みつきに来た。それを身を屈める事でかわし、カットラスの柄頭へ肘鉄を打ち込む。
深くカットラスが突き刺さり、リザードスが死に至る。カットラスを引き抜き、ラフィエの方を観察した。
ちょうど回転攻撃が繰り出される瞬間だった。
全身を回転させ、車輪のようにアーマードリザードスは突っ込んでくる。
ラフィエは鞘にサーベルを納めて、待っていた。
迫る。
車輪が命を潰しに、迫ってくる。喰らえばひとたまりもない。
それでもラフィエはギリギリまで動かない。レニーは黙って、行く末を見守った。
車輪がラフィエを轢く直前、ラフィエは動いた。左にステップを踏みながら身を捩る。右へ一回転、体を動かしながら抜刀した。
ホーリーセイバーの魔法で光を纏った刃が剥き出しになる。
回転が終わると同時に抜刀が完了し、右の薙ぎ払いがアーマードリザードスに叩き込まれる。
――キィン。
耳をつんざくような、金属音が響いた。
アーマードリザードスは仰向けにひっくり返ってもがいている。
「スタースマイト!」
その首元に魔法による一刀が入れられ、切断した。
血を噴き出しながら、アーマードリザードスが力なく倒れる。
「はぁ、はぁ」
玉のような汗を流しながらラフィエは残心する。引きずるようにサーベルを引き、血を払い飛ばす。そしてゆっくり鞘に収めた。
「お見事」
「うひゃぁ!」
レニーが声をかけると、ラフィエが全身を跳び上がらせた。よほど集中していたのだろう。慌てて、レニーを見る。
「アドバイス通りの動きに、リザードス二匹を瞬殺。合格間違いなしだね」
「レニーさん……私、私……」
目に涙を浮かべるラフィエ。
レニーは微笑む。
「さて、お仲間が来る前に退散」
唸り声が響く。
視線を向けると、予想外の魔物がいた。
アーマードリザードスやリザードスよりも体が一回り大きく、四足歩行に近い前傾姿勢を取っている。ぱっと見、翼のないドラゴンと錯覚してしまうような威圧感があった。
肩の棘だけではなく、頭から鼻先にかけて角があり、外鱗が全て棘のように尖っている。
「あ、あぁ……」
ラフィエが震えながら後ずさる。
――メイルヘッジ・リザードス。
アーマードリザードスよりも上。トパーズ級パーティーではなく、トパーズの冒険者三人以上での対処が必要だ。
最悪なのが呼び出された。
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