冒険者とスライム

 ルベの洞窟。


 かなり大規模な洞窟で、洞窟の中は湿気が多く泉がところどころある。

 そんな場所でのスライムの討伐依頼を受けた。

 洞窟の中はかなり冷えるため、同行しているラフィエも薄着の上に一枚長袖のものを羽織っている。

 レニーは何度もここで薬になる苔や素材になる鉱石を集めたりしているので慣れた足で進む。


「スライムは倒せるかい」

「大丈夫」


 スライムは討伐難度的には一体につきひとりのパール冒険者だ。カットトパーズより一つ下。複数体相手にしても問題ないだろう。


「リザードス来たらオレも加勢するけど、基本任せるから」


 リザードスというのはパール級パーティーで一匹を相手取る必要のある魔物だった。スライム同様、湿気を好んでおり、二足歩行に太く発達した腕、巨大な頭を持ったトカゲの魔物だ。

 レニーはフクロウの目のスキルで暗闇でも問題なく歩いていける。一方ラフィエは光源をつくる魔法で辺りを照らしていた。


「いた」


 小さな水たまりに体をつけるようにスライムがいた。


 スライムは物理耐性も高ければ魔法耐性も高い。であれば、どうすればいいのかというと貫通力の高い攻撃や魔法で「コア」を撃ち抜いたりするのだ。


 コアは非常にもろく、透けているスライムの体からは視認も容易だ。赤い球体をしている。衝撃を喰らえば体の中を移動していくため、外側に誘導すれば打撃でも衝撃で壊せる。


 スライムの対処は簡単だが、体内に体を入れられると消化でどんどん体を溶かされるので油断はできない。液体なので鎧の隙間も抜けてくる。体内に取り込まれても即座にコアを破壊できればいいのだが、冷静に対処できる者は多くない。


 スライムの体はコアを破壊されると完全に液体になる。耐性が高いのか変わりないため、防具の加工でコーティングに使われたりする。


 大きさは人ひとり体内に全て取り込めそうなほどだった。子スライムという両手で抱えるほどの小さなサイズなのだが、それを従えている場合もある。子スライムはグラファイトでも対応可だ。


 二匹、目の前にいる。


 ずるりとこちらを向く。緑色の体が光を反射し、黄緑に見えていた。


「仕留めるよ」

「まかせた」


 レニーはラフィエの後ろまで下がる。どんな戦いをするか観察するためだ。


 ラフィエはサーベルに手をかけると、重心を落とした。


「ホーリー、セイバー」


 サーベルに光が集中し始める。

 ホーリーセイバー。確か武器の攻撃力を上げる魔法だったはずだ。魔力を込めれば込めるほど威力は上がる。

 スライムが体内で生成した溶解液を飛ばしてくる。


「ウィングスピード」


 ラフィエは加速の魔法をかけると、溶解液の下をくぐり、そのままスライムに突っ込んだ。


 白線一刀。


 抜刀されたサーベルが光の筋を描きながらスライムを切断する。耐性の高いスライムの体を両断し、コアごと斬り捨てた。


 マジックポーチから瓶を取り出し、溶けだすスライムの液体を採取し、フタを閉めてポーチに回収する。


「スタースマイト」


 二体目のスライムに近づき、上空からサーベルを叩きつける。強力な打撃と魔法だが、スライムを倒しきれず溶解液で反撃される。

 ラフィエは急いで横に避け、サーベルを振るった。スライムのコアがラフィエに最も届きづらい後方に移動する。


「ホーリー……きゃっ」


 再度武器の強化を施そうとしたのだろう。たが、スライムが水属性の攻撃魔法「アクアランス」を撃ってきたために避けるしかなくなる。

 アクアランスは水を高速回転させながらランスのような形状にして飛ばす魔法だ。

 スライム自身、同族を倒して喰らうこともある。対スライム用なのか、貫通力のある魔法を備えていて使用することも珍しくなかった。


「ライトファングッ」


 下段から斬り上げる動作で光の刃を飛ばす。スライムの体に当たるが、貫通とまでは行かずコアは破壊できない。

 レニーは洞窟の天井を見た。


「ラフィエさん」

「何っ」

「ここは洞窟だよ」


 レニーの言葉で何か気付いたラフィエが上を向く。そして急いで後方に下がった。ラフィエのいた場所に、三匹目のスライムが落ちてきたのだ。

 ラフィエはサーベルを納め、魔法を叫ぶ。


「ホーリーセイバー!」


 アクアランスを飛ばされるが、これをかわす。


「あ」

「え」


 かわしたアクアランス。その矛先にレニーがいた。


 レニーは掌を前に突き出し、上へ持ち上げるようなしぐさをした。

 影で出来た壁が展開され、アクアランスを無効化する。


 レニーは今武器を調整中のせいでいつも通りの戦いができないでいる。代わりに、授かったユニークスキルで戦闘をしている。

 影が媒介として必要なユニークスキルは洞窟の中ならほぼ無敵に近かった。

 周りの影を支配し、影で攻撃や防御が自在に行えるスキル。付けられた名は「影の女王に捧ぐ」。

 といっても魔力消費量が大きいので影の支配範囲も限定的にしてあるし、移動の時は影の支配なんてしないが。影を支配すれば支配するほど「影の尖兵」という影の総量に対してバフを得るスキルでさらに魔力が減らされるので使いどころが難しかった。どちらのスキルも、ただ名前の響きが良いからで付けられたスキル名だ。


「ご、ごめん」

「気にしないで。それより前」


 二本目のアクアランス。

 ラフィエは抜刀攻撃によりアクアランスを割り、落ちてきたスライムのコアを突きで貫いた。ただの液体に戻るが、採取している余裕はない。

 溶けたスライムの先で、最後のスライムがアクアランスを二本生成していた。


「まずっ」


 慌てるラフィエ。

 レニーは人差し指を真っすぐ前に突き出し、親指を立てる。その指で魔弾を放った。


「カースバレット」


 二発の魔弾がアクアランスを相殺する。

 ラフィエはスライムの後ろに回り込み、コアを突き刺して倒した。空の瓶を取り出し、液体を採取する。

 倒した直後でなければ、水に溶けたり、土に吸収されたりで採取できないのだ。


 周囲を見渡し、敵がいないことを確認する。


「よし。帰るか」


 依頼完了。

 証明はスライムの体液が瓶二本と砕けたコアの欠片で十分だ。

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