冒険者とスキルツリー

 昇格するにあたって、様々な条件がある。戦闘に向いたロールであるか、支援に向いたロールかで条件は変わってくる。


 まず昇格する等級に相当する依頼の達成だ。討伐依頼の場合は戦闘に向いたロールであれば単独で、支援に向いたロールであれば同等級の冒険者と二人で条件をクリアする必要がある。


 レニーの場合、レッドロードを討伐したのでスキップされた。


 パールまではこれだけで昇格できる。カットトパーズからはこれに追加されるのはいくつかある。

 まず、筆記試験だ。

 依頼を行うにあたって必須の対応事項は暗記科目。緊急性のない知識は参考資料を見ながらどれだけ正確な情報を引き出されるかが試される。


 また人間性に問題ないか面接も受ける必要がある。


 レニーは既に両方とも受けており、合格済みだ。


 最後に、スキルツリーの確認である。これがガーイェによって行われるというわけである。能力に問題ないか最終確認となる。


 依頼、筆記試験、面接、スキルツリーの確認。この流れをひと月ほどかけて行うのが昇格試験だ。


 レニーはガーイェに腕を触られながらスキルツリーを読み取ってもらう。


「ふむ、トパーズに昇格したときのスキルはちと貧弱じゃの」


 資料を確認して、ガーイェが呟く。しかし、資料から目を放し、レニーの腕を見る事に集中すると目の色が変わった。


「うん? ぬう?」


 資料とレニーの腕を交互に見る。


「本当に同一人物か?」

「どうしたんです、ガーイェ」


 やや身を乗り出しながらフリジットが聞く。その瞳は好奇心に満ちていた。


「スキルツリーがだいぶ伸びておるが、少し待て。言語変換に時間がかかる」


 スキルツリーは通常、簡単に読み取れるものではない。アイテムを使用しても、スキルツリーの伸び方から傾向が推察される程度だ。

 だが、一流のスキル鑑定士は「言語変換」のスキルを持っている。非言語のものを言語に落とし込むスキルだ。また「分析鑑定」のスキル等、スキルツリーの詳細を理解できるようなスキルが網羅されている為、非常に重宝されている。

 一回スキル鑑定するだけで一年暮らしていける、なんて噂されるほどだ。


「目立つやつから行こうか」


 ガーイェはマジックバッグからスキル書き込み用の紙とペンを取り出し、テーブルの上に置く。その後、さらに分厚い本を出した。年季を感じさせる、古い本だった。

 スキルの辞書だ。混乱を避ける為、一般的なスキルは名称が決められている。スキルツリーからは効果しか読み取れない為、図鑑から名前を付ける……と以前聞いた事があった。


「まずハンターのスキルだな。気配を消しやすくし、無防備な相手への攻撃を強めてくれる」


 ガーイェはペンを持った。中に入っているインクが魔力に反応してペン先にしみ出す。

 そしてつらつらとスキルを説明しながら書き込んでいく。スキルの量は膨大な為、効果量が特に高いものがスキルの一覧に組み込まれる。細やかな身体能力強化等のスキルは省略か簡略化されるのだ。無論、強力な効果の場合はスキル名が書かれる。


「狂性魔力、これは危機に陥れば陥るほど体に多大な負荷をかける」

「デメリットスキルじゃないですか」

「待て。体に負担をかける代わりに魔力を生成するスキルだ」


 レニーの中で疑問がひとつ解けた。

 つまり、レッドロードのトドメを後押ししてくれたのはこのスキルだったわけだ。


「うわぁきっついスキル」


 フリジットが嫌そうな顔をするが、レニーはこれで命拾いできたわけで悪い気はしなかった。


「魔弾の射手……いいスキルじゃな。よほどこだわったと見える。魔弾系の魔法の威力操作が容易になるだけではなく最大火力を大幅に向上させてくれるものだ」

「やったねレニー」

「そうだね、嬉しいよ素直に」


 威力不足に陥りがちな魔弾にテコ入れがあったのは喜ばしい事だった。

 ガーイェはスキルの辞書を閉じる。


「で、問題は残りのスキルだ」


 スキルの辞書を閉じたということは辞書には載っていないスキル……ユニークスキルの可能性があった。

 ユニークスキルはその本人しか持たないスキル。モノによっては称号スキルと同等の効果量を持つものもある。


 ガーイェは指を二つ立てた。


「スキルは二つ。まず一つ目。己の影と繋がっていれば影を支配下に置き、支配範囲を広げる。これだけではない。影を武器に変えたり、身に纏うことも自由自在じゃ。闇属性魔法の無詠唱化、威力補正をかけるおまけつき」


 つまり夜になればほぼ無敵のようなものだった。本人の強さのたかが知れているので、限界はあるだろうが。

 闇属性魔法の適性があるレニーにとってこれほどいいスキルはない。シャドードミネンスの魔法も必要なくなると見ていいだろう。称号スキル並みだった。

 

「もう一つ。己が支配下においた影の総量分バフを得るスキルだ」

「……強すぎじゃない?」


 フリジットが呟く。

 影という条件が付くものの、影なんてものは日中でも夜でもある。やり方次第でバフなんていくらでも増やせる。


「どちらのスキルも魔力の消費が激しいようだから、短期決戦用だな。しかし、このユニークスキル……な?」


 ガーイェの言葉にレニーは頷く。


「たぶん、そう」


 己の過去を、思い返しながら。

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