冒険者とスキル鑑定士
幻痛も治まり、レニーは体の調子を確かめながら依頼をいくつかこなしていった。
リブの森にて鹿の狩猟を行い、解体した肉を納品する為、レニーは露店の並ぶ道を歩いていた。
「もし」
声をかけられた。目を向けると、腰の曲がった老人がいた。杖は持っておらず、腰に手を当てている。毛髪はなく、蓄えた髭が立派だった。垂れ下がった眉とは対照的に鋭い眼光を秘めている。
「ギルドロゼアに用があってきたんだが、道がわからなくてな。お前さん、冒険者だろう」
「えぇ。案内するよ」
「助かる。君、名前は?」
「レニー・ユーアーン」
老人の眉が上がった。
「レニーくんか。わしはガーイェだ、よろしく」
「よろしく、ガーイェさん」
手を差し出されるので握った。手はごつごつとしていてがっしりしている。
レニーは歩幅を狭めて進む。その後ろをガーイェはついてきた。足腰はしっかりしているようで、さほど歩くペースをゆるめなくてもついてきた。
依頼人だろうか。
「レニーくんは等級はどのくらいだね」
「トパーズだよ、今のところ」
「ほう、冒険者のでかい壁は超えたな」
「次も大きすぎるけどね」
「はっはっ。なぁに、君ほど若ければまだまだチャンスはあるものさ」
広場までたどり着き、噴水を横切る。
ロゼアの出入り口を開けて、先を譲った。
「どうぞ」
「すまんね」
「いえいえ。気にしないで」
レニーは通常の受付に、ガーイェは支援課の受付に向かう。どの受付に行くのが正しいかまでは伝えなくともいいだろう。受付嬢が案内してくれる。
「フリジットちゃーん、来たよぉ」
甘ったれた声でガーイェがスキップする。フリジットの知り合いだろうか。
少し、フリジットの様子を見る。
「うわ」
心底嫌そうな顔をしていた。若干引いている。
「ガーイェさんお久しぶりです」
「フリジットちゃんは今日も可愛いの」
デレデレしながら体をくねらせるガーイェ。
確かにあれはちょっと嫌かもしれない。
「お待たせしました」
レニーは並んでいた受付の順番が来たのでマジックサックから解体した肉や皮を入れた袋を取り出し、置いていく。
マジックサックは鮮度も保てるのが便利だ。
「鹿肉と毛皮の納品で」
「かしこまりました。係の者を呼ぶので少々お待ちを」
受付嬢が奥の部屋に消えていく。肉の査定を担当している従業員を連れてくる。
「鹿肉ありがとーございます。おっ、血抜きもしっかりしてそうですね」
袋を開けて査定人が呟く。スキルの中に「解体技術」もあるのである程度の品質は保たれているはずだ。
「ちょっと査定と保管してきますので、報酬は後程」
「よろしく」
査定人は急いで袋を抱えると奥に消えていく。
「こちら報酬受け取りの為の紙になります。後日またこの紙を持っていらしてください」
「了解。ありがとう」
「またお待ちしています」
受付嬢に笑顔で見送られ、レニーは離れる。そして、支援課の方を見た。
フリジットと目が合う。胸の前で小さく手を振られる。レニーも何となく振り返した。
「してフリジットちゃん。鑑定してほしい冒険者はどこかの。今すぐできるぞ、レーズンだったか?」
「レニーくんです。ガーイェ、そこにいます」
「え」
「ほう」
フリジットと話していたガーイェがこちらを向く。
冒険者の鑑定。
アイテムの鑑定もなくもないが、冒険者の、と頭につけば鑑定されるものは一つ。
スキルツリーだ。
「つまり君はチャンス到来中というわけか」
髭をいじりながら、ガーイェが頷く。
「よし、レニーくん。時間あるかね」
「えぇ。依頼も終わったし」
「じゃ、善は急げだ。今すぐスキルツリーの鑑定をしに行こう。そうしよう」
ガーイェはレニーに歩み寄るとその腕を掴んだ。引っ張られて、支援課のところまで連れて来られる。
「フリジットちゃん、場所用意してくれる?」
「はい。あ、それと」
フリジットは人差し指を立てて、頬に寄せる。
「私も見学していい?」
「いや仕事は」
「これから休憩なの」
「……いいけど」
スキルツリーは個人情報だ。おいそれと他人に見せていいものではない。
ただ、別に警戒する必要があるかと言えばない。敵になるわけでもあるまいし。
断る理由がなかった。
「やった」
フリジットは両手を握りしめて喜んだ。
掲示板と受付の間の空間に扉がある。そこを開けると廊下に繋がっており、正面を真っすぐ行けば医務室、医務室の手前に二階に続く階段がある。右の階段下は手洗い場に繋がっている。左は医務室の為の空間があるので壁になっている。
フリジットに案内され階段をのぼる。そこはギルド長室に繋がる廊下になっており、道中に様々な部屋が並んでいる。今回使うのは一番手前の左右両方に用意されている応接室だった。
フリジットは左の扉をノックしてから開け、使用中の札を扉にかける。
「どうぞ」
ガーイェが入り、次にレニーが入る。
「ありがとう」
「どういたしまして」
フリジットが入り、扉を閉める。そうして、扉の前に仕切り板を置いた。防音素材で出来た、仕切りだ。外部に漏れたくない情報や神経質な依頼主は応接室で対応する。その為、防音性は大事だった。
昇格する冒険者のスキルツリー確認時も利用されている。レニー自身、ここでスキルツリーの鑑定を受けるのは初めてだが。
ソファが二つ。中央のテーブルを挟むように置かれている。壁際には何かの資料などが入れられた棚が設置されていた。
ガーイェはソファに座り込み、腰にあったマジックバッグから資料を取り出した。おそらく前回鑑定してもらった分のスキルツリーが書かれているのだろう。
「ほれ、隣に座れレニーくん」
「じゃ、失礼して」
「フリジットちゃんは向かい側じゃな」
「はい」
レニーがガーイェの隣、フリジットがレニーの向かい側に座る。
「さて、どんなスキルツリーしとるかね」
ガーイェは指を握ったり開いたりしながら、意地の悪そうな笑みを浮かべた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます