冒険者とソロ仲間

 ロゼアの酒場にて、レニーとルミナは飲んでいた。依頼達成後の、祝杯である。


「いやぁ、まさかドナティーリが兄弟だったとは」

「ボクらで受けて良かった」


 他の賞金首がいたこと、ドナティーリが兄弟であったことで難易度が見直され、報酬の額が二倍ほどになってくれていた。

 子どもたちはまだ奴隷にされる前の無傷な状態だったため、村に帰された。ドナティーリ一味は無論牢獄行きだ。いずれ処罰が決定されるだろう。


「オレひとりじゃ厳しかったかもね」

「ボク、頼りになった?」

「勿論」

「ボクも。レニー頼りになる」

「そりゃどうも」


 ジャイアントキリングは己より巨大な敵を相手にしたときに大幅なバフがかかるスキルだ。相手が巨大なだけでも恐ろしいほどのバフがかかるが、己よりも強大な相手であればさらに補正がかかる。

 ルミナより弱いゴーレムの相手など、赤子の手をひねるようなものだった。レニーではこうはいかない。さすが、ルビーの冒険者といったところだろう。


「お待たせしました、ギガントステーキです」


 どかん、と。

 レニーの頭でも入りそうな、大きな器に山盛りのステーキが入っている。ルミナの注文だ。


「食べれる?」

「平気。余裕」


 表情は変わらないものの、目の前のステーキの山に心底喜んでいるようだった。早速、フォークとナイフを持って食べ始める。レニーはエールを飲んだ。

 ルミナは感情の起伏が少ない。レニーの記憶を辿ってみてもあからさまに感情を表に出したことはなかった。

 それでも知り合った当初よりはいろいろな感情を読み取れるようになったのは、レニーがルミナと親しくなれているからだろうか。


「ボク。レニーの支援課の話を聞いたとき、不安だった」

「不安? 推薦したのに?」

「恋人のフリ、聞いてなかったから。ソロじゃなくなるかもって。でも良かった」

「パーティー組んだら絡みづらいかい?」


 レニーが聞くとルミナは首を振った。


「レニーはいつも話しやすい」

「そか」

「でも、ソロのほうがいい」

「なにそれ」

「わからなくていい」


 答えは教えないとばかりに、ルミナは肉を頬張った。


「でも、オレもルミナがソロで良かったと思う」

「どうして」

「ソロ仲間って大事でしょ」


 ソロはあくまで、単独での活動をメインとする冒険者だ。孤独であるわけでも、他人を求めていないわけでもない。こうして依頼を共にする相手がいることも珍しくはない。

 共感できる相手がいることは安心に繋がる。


「ソロ仲間……」


 ルミナはステーキを頬張ると、俯いた。一瞬口角が上がっているように見えたが、気のせいだったかもしれない。


「ボク、レニーとなら……でもいい」


 ぼそりと呟かれる。


「うん? なんて言った?」


 レニーの耳にはほとんど聞こえなかった為、聞いてみる。


「ソロ仲間。大事」


 ルミナはエールの入ったジョッキを掲げて一気に飲み干す。


「いや、絶対違うこと言ってた」


 レニーもジョッキを傾けて飲み干した。そして店員を呼んで追加を頼んだ。ルミナも追加を頼む。


「で、なんて言ったの」


 ルミナは首を傾げた。


「忘れた」

「一瞬で忘れるわけないでしょ」

「酔った。忘れる」

「……それじゃ、仕方ないね」

「うん。仕方ない」


 若干楽しげに頷くルミナ。

 絶対覚えてるでしょ、と。レニーは内心突っ込んだ。

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