冒険者とジャイアントキリング
膨大な魔力が渦巻き、ソレは姿を現した。
積み上げられた岩の体。
岩の巨体は、見上げるのが精いっぱいで全貌がわからなかった。頭があるか確認が取れない。
その気になれば、教会などすぐに壊してしまえるだろう。ただ、ドナティーリの仲間も教会にいる。手出しはしないはずだ。
岩石で構成された人型ゴーレム。
それが、ドナティーリの切り札なようだった。
「どうだ! これが俺の、ゴーレムだぁあああ!」
もう見えないほど高いところまで行ってしまったドナティーリが叫んだ。恐らくゴーレムの頭部あたりにいるのだろう。あるとすれば、だが。
「おぉー」
ルミナは両手を叩いた。相変わらずその表情に変化はない。
ドナティーリ側では、ルミナがどこにいるかぐらいしかわからないらしい。先ほどまで怒りのリアクションを繰り返していたドナティーリだが、ルミナの拍手には無反応だった。
代わりに轟音を響かせながら、重厚な拳が振り上げられる。
「ぶっ潰れろ、女ァ!」
まるで天地がひっくり返ったかのような錯覚に陥るほど、巨大な拳がルミナに落ちてきた。
「大物。久々」
ルミナは逃げなかった。あまりにも巨大な敵にも、動じず、堂々と対峙した。
大剣の柄に手をかけ、抜く。鞘はそこらに放り投げた。どうせ戦いには使わない。
地面に平行になるように、下段に構え、剣先を後ろへ向ける。
風がルミナの髪をかき上げた。その中で、ルミナは真っすぐ、敵を見る。
「えいっ」
降ってくる拳と間合いが合致した瞬間、ルミナは大剣を振り上げた。
剣圧と拳がぶつかり、轟音を響かせる。
そして。
「何いぃいい!」
ゴーレムの片腕、肘から先が砕けた。
衝撃でゴーレムのバランスが崩れ、砕けた破片が、教会の建っていた丘を越えて海に落ちる。
そして水しぶきを上げた。
「フンス」
ルミナは胸を張って、大剣を地面に突き立てる。
――ジャイアントキリング。
己より巨大な敵を相手にしたとき、己の身体能力を大幅に向上させる。さらに相手が己より強ければ更なるバフをもたらす。
ルビー等級になったルミナが持っている「称号スキル」だ。
称号スキルとは平たく言えばスキルの成長度に関わらず、付与されるスキルだ。特別なスキルによって「授けられるスキル」。
スキルの取得難易度は恐ろしいほど高く、まず称号スキルを与えられる人物に出会わなければならない上に、称号スキルを得る条件を達成しなければならない。称号スキルはホイホイと付与できるものではない、英雄級の活躍をして厳しい付与条件を乗り越えることで初めて付与可能となる。そして、付与可能となったスキルを、授かるのだ。
故に、称号スキルの効果は絶大である。称号スキル一つで一人分のスキルツリーに匹敵する効果を持つ。その代償に発動条件が厳しいことがほとんどだ。
ゴーレムはただ巨大なだけであるから半分ほどしかジャイアントキリングの効果を発揮できていないが、それでもこのくらいは余裕だった。
「おぉい!」
教会からレニーの声がした為、ルミナはそちらへ目線を移す。
「瓦礫自体は降ってきても守れるけど、丘ごと崩されたら正直厳しいから早めに倒してくれる!?」
レニーの言葉にルミナが頷く。
「ぐっ、クソ。なんなんだお前はっ! 化物か!」
ルミナは姿勢を低くすると、大剣を上段に構えた。そして、大きく跳んだ。
その跳躍力はゴーレムの巨体を軽く超える。
月を、背にする。
ゴーレムの額部分、そこにドナティーリがいた。下半身がゴーレムに埋まっている。
魔力をベルトに注ぎ、帯を伸ばす。そして、ドナティーリの体に巻き付けた。
「うわっ! なんだこりゃ」
今度は帯を急速に縮め、急降下する。
魔力で生成された物質は形が維持できぬほどのダメージを与えると魔力に還る。
その為ルミナの攻撃方法はシンプルだ。
「や、やめろ、来るな!」
大剣に魔力を込める。帯をドナティーリから外し、そして斬った。
込められた魔力が、大剣に宿る「斬撃の範囲増加」の効果を発生させ、ゴーレムの頭に叩きつけられる。斬らないように避けたドナティーリが、真横で白目を剥いた。
そのまま、大剣を押し込む。
崖を滑り落ちていくように、ルミナはゴーレムの頭から胴体を斬っていった。魔力を込めて斬撃を強化した為、最初の加速が残ったままスムーズに切断する。
そして、一刀両断。
ルミナの大剣はゴーレムを真っ二つに割った。
「大、成、功」
着地したルミナは教会に振り返り、レニーに向けて人差し指と中指を立てたハンドサインを見せる。
後ろで、ゴーレムが魔力の粒子となって消えた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます