第31話 エピローグ
「有能な
ここは聖華学習院のとある一室。
「 "理事長" 。大日本国警察隊の方がすでにお見えになっているようです。お会いになりますか?」
理事長と呼ばれた男は、机上のモニターから部屋扉へと目線を移す。
「いや、君がもてなしてくれ。私はこれから長男と会議なんだ」
「承知いたしました」
執事の足音が部屋外から遠ざかった後、男は再びモニターを見やる。画面には若い男女が何やら怪しげな笑みを浮かべ、優雅にワルツを舞う様子が映っていた。
「彼らがこれほどに親しくなるのは予定外だったな」
男は立ち上がり、執務机の後方にある窓側へと移動する。窓外の下方へと視線を向けると、そこには先日に仮面舞踏会が行われていた建物が在る。
「だがどんな人間であれ、
男は振り返ってモニターの電源を切る。そして机上にある一枚の写真を見つめた。
そこに写っているのは、優しげに微笑む一人の美しい女性。
「三大悪妖の一人、妖狐が死んだよ。残るは一体…… いや、"二体" だ。早く、早く貴女に会いたい」
男がそう呟いた時、再び部屋扉がノックされた。
「父さん、俺です。入ってもよろしいですか?」
男は視線を上げ、ふっと一度息をついてから「どうぞ」と答えた。
彼の執務室へとやって来たのは、その女性の面影を残しつつも、いつも眉間に皺を作っている青年だ。
「頼まれていた資料を作成してきました。あと、相談……というか、報告がありまして」
「分かっているよ。あの子と彼のことだろう?」
「……やはり、すでにご存知でしたか」
「はぁ」とため息をつく青年を見つめながら、男はくすりと笑った。
「二人の今後が楽しみだ。君もそう思うだろう?」
「……少しの安心と己の不甲斐無さが入り混じっています」
「ほう」
「あの人なら、あいつのことを悪いようにはしないと思って託しました。でも本音は、弱い自分が情けないという思いでいっぱいです。自分の身は自分で守るべきなのに」
「なるほど。逆に言えば、それほどに彼を信頼しているんだね」
「……あの人は、あいつの素顔を受け入れてくれましたから」
「ふむ」
拳を握りしめている青年を見つめながら、男は顎下へと右手を添える。
「まあ、その話はまたおいおいにしようか。早速、作成した資料を見せてもらえるかな」
「ああ、はい。でも正直、俺はあまり気乗りはしませんよ。聖華学習院役員らとの親睦会なんて」
「妖狐の件があったからね。今までの低級妖魔らではなく三大悪妖が姿を現した。しかも彼らの子女たちが通っている学校に。当然、親御さんたちは不安に苛まれている」
「……仕方ないですね。我が家主催のパーティーになることですし、必ずご満足いただけるよう全力を尽くします」
再びため息をついた後、青年は切り替えるようにしてふんっと鼻息を鳴らし、鞄から資料を取り出していた。
「……彼が、あの子を見限る日が来なければいいね」
「? はい? 何かおっしゃいましたか?」
「いや、今夜の月は三日月だったかなと思ってね」
「? どうでしょうね?」
沈みかけた夕日を、男は目を細めて見やった。
(互いの "真の素顔" を知り得てしまった時でも、君たちはそうやって笑っていられるだろうか?
……ねえ千理、東郷君)
そう思いつつ、男は口元に弧を描く。
今夜昇るであろう、三日月形のような。
刺客な令嬢は今日もあやかしの血の中屍の中 〜 有能な妖退治屋の正体は実は放蕩息子を演じている公爵「令嬢」でした。美丈夫クールな警察隊副官のカレと共に令嬢な私に迫り来る妖たちの秘密を暴いていきます!〜 カヤベミコ @kayamiko
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