後編 悪霊の正体


「君ならば、俺を消し去ることができるかも知れないと思ったんだがな」


 そいつは残念そうに言った。それはどういう意味だ? そして、なぜ攻撃して来ない?


「俺は生まれてから今までの、いつの時代のどの場所へも行ける。過去を変えることもできる。だが、この能力を誰かに引き継がなければ、俺は永遠に成仏することができない。たとえ人類が滅亡したとしても」


 こいつは何を言ってるんだ? そんなバケモノが、この世に存在するというのか?


「君が俺を消滅させることができないのなら、責任を取って、俺の能力を受け継いでくれないか? そしたら俺は、すぐに成仏できるから」


「・・・あんたとそんな約束をした覚えはないぞ」

 死ぬのとその条件を飲むのと、どっちがかなんて、つい考えてしまったじゃないか。


「そうだな・・・それじゃあ、これでおさらばだ」


 来る。遂にヤツの攻撃が。俺に受けきれるだろうか? いや、かわすことも考えなければ。そうだ、居合抜いあいぬきで受けきれば何とかなるかも・・・。



 えっ?


 そいつは俺に背を向けて、去ろうとしていた。

「ちょっと待て!」

あっ、つい呼び止めてしまった。何やってるんだ、俺?

「どこへ行く気だ? 何を企んでる?」


「企むって、俺は何も悪いことはしないよ。むしろ人のために色々と助けてやってるんだ。金は貰うがな」


 そしてヤツは振り向いて言った。

「いいか、覚えておけ。俺の名前は沢木さわき憂士ゆうし。別名は『世界一有能な探偵』、『冥府めいふ魔道まどうに堕ちた男』、『愛のためにバケモノになった男』、殺人事件じゃなくて成功報酬を全額受け取れるときは『ダークサイド・ヴァンパイア』と名乗ることもあるが、この世界で最も通った呼び名は『闇の探偵』だ」


 『闇の探偵』だと? そういえば、ダークウェブで聞いたことがある。どんな事件も解決してしまう探偵がいると。


 でもそいつは、闇の世界で何十年も前から存在していて、都市伝説だと言われていた。まさか本当に存在していたのか?


「またいつか会おう。それまでに、俺を成仏させられるように腕を磨いておけ」


 俺は、去って行くそいつを呆然と見送っていた。すると、今度は後ろから、

「やはり河童界最強のおぬしでも無理であったか」


「総大将!」


 現れたぬらりひょんは、暗い表情で続けた。

「あやつは全てを超越しておる。妖怪、妖精、幽霊、怪物、その他あらゆる魔のもの、全てをじゃ。怖ろしいことに、あやつは過去へ飛んで過去を変えてしまう。そんなことが許されてはいかんのじゃ」


「でも、あいつは成仏したがってましたよ? そんなに悪いやつではないんじゃ?」

「人間の基準ではそうなるのかのう。人間界には『必要悪』などという言葉もあるしのう。ともあれ、ご苦労であった」




 目が覚めると、桜子が心配そうに俺を見つめていた。

「タッキー、うなされていたよ。大丈夫?」

「ああ、何でもない」


 桜子は、ほっぺを膨らませて怒った。

「この間から私に何か隠してるでしょ! 夫婦の間で隠し事はダメだって言ったでしょ?」

「・・・そうだな、ごめん」


 俺は妖怪総大将が俺の心象世界に現れたこと、悪霊退治を頼まれたこと、戦って敗れたことを正直に話した。


「そんな危ないことになってたんだ」桜子のほっぺはますます膨らんでいた。「私に黙って戦うって、信じられないんだけど!」

「ごめん。君を巻き込みたくなかったんだ」

「気持ちはわかるけど、私だって河童のはしくれなんだから。今度から一緒に連れて行ってよね!」


「でも君、心象世界にダイブできないよね?」


 あっ、と桜子は『てへぺろ』をした。それを見て、俺は笑ってしまった。



 はぁ。俺にあいつを倒せる日は来るんだろうか。それは無理筋だな。


 だけど、あいつはこのままだと未来永劫『闇の探偵』として働かなきゃならないのか。それもかわいそうだ。


 いろんな怪異あやかしに聞いてみるしかないか。何か良い知恵があるかも知れないし。


 いつか、何とかしてあいつを成仏させてやりたいな。



     (終)



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

オカルトダイバー4 最強の悪霊 @windrain

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ