中編 VS悪霊


 再び灰色の荒野。


 ということは、ここはまた俺の心象世界か? 何でこんなに荒廃しているんだ? 私生活は充実しているというのに。


 再び正面から近寄ってくる黒い影。また『ぬらりひょん』か?


 だが今度のそれは、違うシルエットだった。全身を黒いマントで覆い、フードで顔を隠している。


「君が除霊師の飛島とびしま高雄たかお君か?」


 そいつは言った。俺の名前を知っているのか。いやその前に、こいつも心象世界に入ることができたのか?


「そうだが、あんたは悪霊か?」

「そういう存在だ」

「わざわざそっちからはらわれに来るとはな。覚悟はいいか?」

「・・・お手並み拝見といこうか」


 俺はそいつに相対あいたいすると、右手から電撃を放った!


 電撃はそいつを直撃したが、そいつは逃げも隠れもせずに電撃を受け止めてしまった。しかもノーダメージのようだった。


 俺は少し焦った。『ぬらりひょん』が言ったとおり、この悪霊はとてつもない力を持っているのか?


 次に俺は、胸ポケットからシャープペンシルを取り出して、ペン回しを始めた。そしてシャープペンシルを回したまま、悪霊の上に放った。


 イメージはハンマー!


 回転したシャープペンシルは、悪霊の頭の上に落ち、ゴンッという鈍い音がした。だが、悪霊は直立不動の姿勢を全く変えない。


「・・・効いてないのか?」

俺は恐る恐る悪霊に聞いてみた。


「君の力はこんなものか?」


 俺は背筋が寒くなった。今まで、これほどの強敵には出会ったことがない。しかも、やつはまだ俺に何の攻撃も仕掛けて来ていないのだ。


 だが、今のブーメラン・ペンシル攻撃でわかったことがある。当たったときに音がしたということは、やつは実体としてそこにいるということだ。


 妖怪にならともかく、普通、悪霊にはブーメラン・ペンシル攻撃は効かない。実体がないからだ。


 悪霊には電撃こそ有効なはずなんだ。物理学的にどうなのか、難しいことは俺にはわからないが、少なくとも今まではそうだった。


 ということは、『ぬらりひょん』は『悪霊』と言ったが、こいつはむしろ妖怪に近いのではないか?


「あんた、本当に悪霊なのか?」


「本当のところ、俺にはわからない」

そいつは意外なことを言った。

「俺は元々人間だったが、死んでしまった。その時、ある者からこの永遠の命を受け継いだんだ。考えてみたら、俺は自分を『悪霊』と名乗ってきたが、俺に命を引き継いだ者は、自分を悪霊だとは言ってなかった。結局、俺は自分が何者なのかわからない」


 こいつがたとえ悪霊でも妖怪でも、まだ修行中だけどやってみるしかない。


 俺は背中にくくりつけていた木刀を引き抜いて、居合いあいの構えに入った。全ての妖力を木刀に流し込み、そして抜刀ばっとう


 まばゆいばかりの光の筋が一閃したかと思うと、そいつの体は真っ二つに切り裂かれた!


 やった! 俺の勝ちだ!


 ・・・あれ? 二つに分かれたあいつの上半身が、空中に留まっている。下半身も、そのまま立った状態で崩れていない。


「お前の武器は、それで全部か?」


 何てこった。あいつの体は消滅するどころか、再びくっついてしまった。

 俺の攻撃が全く効かない。そして今度は、あいつのターンだ。俺はここで死ぬのか? 冷たい汗が背中を流れ落ちる。


 嫌だ。せっかく桜子と幸せをつかんだのに、こんなところで死ぬなんて。俺は、まだ死ぬわけにはいかない!


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る