オカルトダイバー4 最強の悪霊

@windrain

前編 妖刀


 灰色の荒野。朽ち果てた木々。薄紫色の太陽。


 見慣れた場所ではない。俺は今、どこにいるのだろうか?


 訳もわからず立ち尽くしていると、前方から近づいてくる黒い影。なんだあれは?


 影は近づいてくるにつれ、人の形になってきた。背の低い老人か?



 それが誰なのかわかったとき、俺の背筋は途端にピシッと伸びた。


「妖怪総大将!」


 俺は人間だが、俺には河童の血が混ざっている。だから『ぬらりひょん』は、俺にとっても総大将なんだ。


「久し振りじゃのう。元気にしておったか?」

『ぬらりひょん』は、俺に語りかけた。


「はいっ!・・・あっ、そうするとここは・・・」

『ぬらりひょん』は頷いた。

「おぬしの心象世界じゃ」


『ぬらりひょん』も、俺と同じように心象世界にダイブできるのか。


「今日来たのは、ほかでもない。おぬしに頼みがあるんじゃ」

「俺に、ですか?」

「そうじゃ。おそらくおぬしにしかできんことなのでな」


 俺にしかできないこと? 総大将にもできないことなのか?


「妖怪相手なら、おぬしの手を患わせるまでもない。じゃが相手が悪霊となるとな」

「悪霊?」

「そうじゃ。幽霊のたぐいとなると、わしの管轄外なのでな」


そういうものなのか?


「じゃが、心してかかることじゃ。あやつは、とてつもない力を持っておる。おぬしの力でもかなうかどうか・・・」

「そんなに強い悪霊なんですか?」

「うむ。まあ、健闘を祈るとしか言えんかな」


 どうやら俺は、とんでもないことを任されてしまったようだ。



 目が覚めた。俺のアパートだ。あたりは薄明るくなっている。時計を見ると、午前4時だった。


 隣では桜子が眠っている。俺は彼女を起こさないように、そっとベッドを抜け出すと、この間河童の里へ行ったときに長老から貰ってきた木刀を持って、外へ出た。


 近くの公園で、俺は木刀を振った。始めは中段の構えからの打ち下ろしを練習してみたが、どうもしっくりこない。


 そこで、居合いあいの構えから抜刀ばっとうして、真一文字まいちもんじに空を切り裂いてみた。


 うん、こっちの方がしっくりくるな。


 でも、これでどうなるものでもないんだよな・・・。


「タッキー、朝早くからどうしたの?」


 桜子が起きてきて言った。俺は誰かいないかとあたりを見回した。他人ひとがいるところでは、恥ずかしいから「タッキー」って呼ぶなと言いつけていたからだ。幸い、近くに他人ひとはいなかった。


「長老から貰ったこの木刀、本当に武器として使えるのかなと思ってさ。強い敵が現れたら、俺の電撃とブーメラン・ペンシルだけじゃ厳しいかも知れないからな」


「長老は、いにしえから伝わる妖刀だって言ってたけど」

「妖刀ったって、木刀だぜ? 何も切れないじゃないか」


「その木刀が発する妖気を感じ取れニャいニョか?」いつの間にか猫又のクロもやって来ていた。「稽古台にニャってやるキャら、気合いを入れて振ってみるニャ」


 そう言ってクロは、2メートル以上もある人形ひとがたに化けた。


 妖気か・・・。それを感じ取れない俺は、まだ未熟者なのかな?


 俺はクロの前で居合いあいの構えに入った。そして握る木刀に気合いを込めると、心の中で『全集〇の呼吸!』と唱えながら、素早く抜刀ばっとうした!


 すると、切っ先が当たったわけでもないのに、クロは後方へすっ飛んでいった。そして大きな木の幹にぶつかって止まった。


「風だニャ」

クロは猫の姿に戻り、素早く駆け戻ってきた。

「今オレは100キロ以上ある人間に化けたニョに、いとも簡単に飛ばされたニャ。抜刀によって発生する風と妖気に、高雄たかおの妖力が乗ったせいだニャ」


 しかし、とクロは言う。

「この程度では天狗の大団扇おおうちわと同じレベルニャのだよ。もっと妖力を乗せられるようにニャれば、『かまいたち』を超えて大木たいぼくでもスパッと切ることも可能だニャ。精進することだニャ」


 そうなのか。さすが妖刀、信じられない威力だ。

 つーか、『妖力』って何だ? それ、俺にもあったんだ。



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