その罪を許したまえ

……………………


 ──その罪を許したまえ



 世界を構築する神々の協定が無効化されたことで崩壊を始めた世界。


「カーウィン先生! やめてください! どうしてこんなことを!?」


「神々は私から多くを奪った。ずっと奪われてきた。だから、だよ。どうして私たちから奪い続けた存在が許され、そして今もなおその罪を償うことなく存在している?」


「奪われたって何をですか」


「……エリオット。私の子供。旧神戦争という神々の醜い争いの中で失われた私の子。愛していた。私はあの子を愛していた。なのに神々は……」


 アレステアの問いにルナがそう答える。


「カーウィン先生。あなたは奪われたかもしれません。でも、それなら奪われた側の気持ちは分かるんじゃないですか? それなのに他の人から奪うんですか!?」


「では、君が止めろ。その勇気があるならば」


 アレステアが叫ぶのにルナはそう返した。


「私は人から奪う覚悟を持ってここに至った。そう、私は奪われたから奪われるということを理解している。奪われるのがどれだけ理不尽かを知っていて、なお私は覚悟と決めて奪うことにしたんだ」


「そんなの……!」


「私が奪うことを覚悟した。だが、君はどうなんだ、アレステア君。君は私を止め、私から奪うことができるのか?」


 ルナはそう語っている間にも世界は崩壊しつつある。


「……やります」


「……そうか」


 アレステアは“月華”を構え、ルナはアレステアの方を向いた。


「カーウィン先生。あなたを止めます!」


 アレステアはルナは必ず攻撃を防ごうとするはずだ問い思った。強力な存在としてそう簡単にアレステアに殺されないだろうと思っていた。


 だが──。


「よく、できたね……。君は、ちゃんと覚悟できたんだ……」


「カーウィン先生……?」


 ルナは全く抵抗しなかったのだ。


 アレステアの握る“月華”の刃が深々とルナの胸に突き刺さり、ルナは力なく笑っていた。そして、そのままアレステアをそっと抱きしめる。「


「アレステア君。止めてくれて、ありがとう……」


「先生、先生!」


 ルナはそう言い残すとそのまま力尽きた。


「カーウィン先生……。ごめんなさい……」


 アレステアはルナの死体を前に何度も何度もそう繰り返す。


 そして、この異常事態を止めようとルナが握っていた世界協定書に手を伸ばした。


 だが、そこでアレステアが背後から刺された。


「なっ……!」


「よくもルナを……!」


 アレステアを刺したのはアザゼルだ。アザゼルはアレステアを指すと彼を引き裂き、それから世界協定書を拾い上げた。


「新たな神と契約を登録。神の名はアザゼル。その契約内容な全てを滅ぼすこと、だ」


 世界協定書にアザゼルが唯一の神として登録されしまう。


「何をしているんですか!」


「ルナが果たしたかったことだ。お前こそよくもルナを。殺してやる……!」


 アザゼルは嫌悪をむき出しにした表情でアレステアを睨みつけると右手に握った大剣を振り上げた。


「カーウィン先生はそんなこと望んでません!」


「黙れ! お前にルナの何が分かる! ルナを殺したくせに!」


 アレステアが叫び、ルナが大剣を手にアレステアに襲い掛かる。


「あなたにとってカーウィン先生はどのような存在だったんですか!?」


「友だ! 本当に友だ!」


「なら、どうして止めてあげなあかったですか!? こんなことをしたって無意味だってことは分かっているんじゃないんですか!友だと言うならば止めるべきだった!」


「ルナにとっては復讐だけが生きる理由だったんだ! それがなければもう彼女に生きる理由などなかった! 息子を生きたまま焼かれた彼女には!」


 アレステアとアザゼルが何度も衝突する。


「一緒に考えてあげればよかったじゃないですか! 生きる理由を! 生きるための目的そ! どうして間違った目的のままで進んできたんですか!


「私たちは間違ってなどいない! 間違っているのはこの世界だ!」


 アレステアが“月華”を振るい神となったアザゼルと戦う。


「間違っているなら全て滅ぼすんじゃなくて世界を変える努力をすべきだったんです! こんな八つ当たりみたいなことをしたって誰も幸せになんてなりません!」


「うるさい! 私はルナが生きる理由でルナが私の全てだったんだ! お前は私から全てを奪った!」


「僕にとってもカーウィン先生は大事な人だった!」


 アレステアの胸にアザゼルの剣が、アザゼルの胸にアレステアの刃が突き立てられた。それぞれがそれぞれを刺し、そして倒れる。


「ル、ナ……。すまない……」


 アザゼルはそういうとその体が粒子となって消滅していった。


 アレステアは暫く地面に倒れていたがゆっくりと起き上がる。


「やあ。ゲヘナの眷属君」


 そこで現れたのはラルヴァンダードだ。


「あなたは確か悪魔の……」


「そう、ボクはラルヴァンダード。悪魔さ。で、今も世界は滅茶苦茶なままで滅ぼ始めているよ。どうする?」


「そんな。どうすれば……」


「まあ、任せておきなよ」


 ラルヴァンダードはそう言うとちょいちょいと指を振った。


「はい、元通り。これで世はこともなし。じゃね」


 そういってにやりと笑うとラルヴァンダードは去った。


「終わったんだ……」


 アレステアは崩壊していた空が元に戻り、全てが正常になった世界を見渡す。


「アレステア少年!」


「シャーロットお姉さん、レオナルドさん!」


 アレステアたちに元にシャーロットたちがやってきた。


「偽神学会は?」


「壊滅したよ。あたしたちの勝利だ!」


「そうですか」


 シャーロットが歓声を上げるのにアレステアがルナの死体に視線を向ける。


「……カーウィン先生は残念だったね」


「ええ。残念でした」


 アレステアはシャーロットの同情に頷く。


「アレステア」


「ゲヘナ様」


 そこで一度は神としての権限を奪われたゲヘナの化身が現れた。


「“煉獄崩壊”は阻止できた。これで世界は安定する。よくやったな」


「ありがとうございます、ゲヘナ様。ところでカーウィン先生はどうなりますか?」


「これだけの罪を犯したのだ。すぐには冥府に移れぬが、いずれは」


「よかった……」


 ゲヘナの化身の言葉にアレステアが安堵した。


「それよりアレステア。お前の役割は終わった。これから私と冥府に向かうことになる。準備はできているか?」


「はい」


「では、行こう」


 ゲヘナの化身がアレステアを導く。


「アレステア少年! 待ってよ! まだお別れがちゃんと済んでないよ! あたしたちも皇帝陛下も!」


「ごめんなさい、シャーロットお姉さん。みんなとお分かれるすると思うと決意が鈍りそうですから。僕はもう行きます」


「そっか……。じゃあね」


「ええ。さようなら」


 そして、アレステアは去った。




「あなたに穏やかな眠りがありますように」


 それから数年後、アレステアはゲヘナの司る冥界の墓守になっていた。


 大勢を出迎え、歓迎し、その安らぎを願う日々。


 アレステアがそれに慣れて来たその頃──。


「アレステア君」


「……カーウィン先生!」


 ルナが冥府を訪れた。ついにルナが冥府で眠れる時が来たのだ。


「君はここでも頑張っているんだね」


「はい。頑張っています!」


 ルナはアレステアを褒め、アレステアがはにかむような笑みを。


「では、これからよろしく頼むよ」


「任せてください。僕は墓守ですから!」


 アレステアはルナにそう請け負った。




 これは墓守の少年が英雄に至った物語。




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冤罪で追放された墓守はそれでも頑張る! ~冥界の竜神様に祝福された不死身の英雄物語~ 第616特別情報大隊 @616SiB

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