第42話 環境破壊は駄目だぞ!


 ロジスタルスにやってきてから十日以上が経過した。

 依然として、双星機のパーツは見つかっていない。


 それでも先日から毎日キルレイドさんに挑んでいるおかげか、目標が見えてきた。

 だらけることなく過ごせていると思う


 森での発掘作業の護衛任務の最中にも、警戒体制のままでイメージトレーニングをしているんだ。


 でもRSカスタムに乗っているとイメージしたら動いちゃうので、脚部が小刻みに動いて、周りから見たら何やってんだと思われてるかもしれない。


「なんかダンスしてるみたいだね」


「……戦いとは時に芸術的に見えるのさ」


「うん、子供のお遊戯みたいで素敵!」


 レトさんは最近ちょっと俺に厳しい。


 やっぱり姿を見せるようになって、皆と交流するようになったからだろう。

 コミュニケーション能力の上がり方が素晴らしい。


 アルフィナが最初に姿を見せないように言ったのは、杞憂だったみたいだ。


 昼を過ぎても、発掘作業に進展はない。

 けれども森の様子が変だ。


「なんか動物がこっちに寄ってきてないか?」


 通常、装甲機人が動いているエリアに動物は近寄って来ない。

 自分よりも大きな金属の塊りが動いていたら、生存本能が拒否するからだ。

 俺だってそうする、たぶん。


「ケンセー!」

「分かってる!」


 レトレーダーに反応ありだ。

 すぐさまロジスタルスの部隊にも伝える。


「正体不明機が二つだ!」


 これまでの経緯からラヴェルサであるとは考えられない。


 となると、十中八九リグド・テランの連中だろう。

 ルーベリオ教会の追手、という線はないと思う。


「もうすぐ見えてくるよ!」


 レトの言葉通り、まもなく敵の正体が判明した。


 俺はその機人の姿を見たことがない。

 だけど特徴を見れば一目瞭然だ。

 量産機であるイステル・アルファよりも細身の黒い機人。



「アスラレイド!」



 恐らく二機ともアスラレイドの機人だ。

 両機は微妙にデザインが違うけど、高機動機の性能を存分発揮して接近してくる。


 戦闘になれば国際問題になるのは間違いないし、これを機にリグド・テランが攻めてくるかもしれない。


 アルフィナを助けることを目的とする俺としても、現時点でコイツ等と戦う準備はできていない。リスクが大きすぎる。


 それなのにアスラレイドの二機は、明らかに戦闘機動で一直線に向かってきている。


 こんなんもう迷っている時間なんてない。

 そんなことしてたら、最初の一撃でやられるだけだ。



「一機は俺に任せろ!」



 ロジスタルスの連中は新人みたいなものだ。


「なんだか初戦闘を思い出すな……」


 あの時の俺よりかは大分マシだろうけど、それでもアスラレイド相手はきついだろう。


 俺は戦闘を先輩であるロイドさんに任せて後ろから見ていたっけ。

 まさか自分がその立場になるとはな。


 でも悠長にしている時間は無い。

 一刻も早く倒して、応援に向かう必要がある。


 まずは敵を分断させなくちゃな。


 その前に相手の攻撃を受ける必要もあるし。


 後から政治的にどうなるか分からないけど、こっちが先に攻撃したなんて記録を残すわけにはいかない。


 俺は無線機をオープンにした。


「ここはロジスタルスの領土だ。速やかに引き返せ」


 ああぁぁ、もう、俺は何言ってるんだ!


 敵はきっと続く言葉をこう想像するだろう。


 引き返さないと、攻撃しちゃうぞって……


 ちくしょう、こんな大事な事を俺に任せるじゃねえよ!


 ロジスタルスの連中がやってくれよ。

 もしかしてビビってんじゃねえだろうな。


 そうだとしても、俺に助ける余裕があるかなんてわからないぞ。


「二手に分かれた?!」


 敵の狙いが分からない。

 けど俺たちにとっては好都合だ。


 俺は二機の間に入るようにして分断。

 もう片方は味方機に任せる。


 一番怖いのは二機の挟撃を受ける事だ。

 まずは目の前の機人をおびき寄せて、もう片方と距離を取る。


 敵アスラレイドは思惑通りに付いてくる。


 そのまま俺に接近して剣を振ってきた。



「あっぶね!」



 バックステップでこれを回避。



「とりあえずのノルマは達成、と」



 思ったよりも余裕がある。

 自分でもビックリするくらいだ。

 背中から剣を取りだして構えた。



 敵機の動きが一瞬止まったように感じる。



 俺は思いっきり踏み込んで前に進んで剣を振った。



 ところが敵機は木の陰に隠れながら、それを華麗に躱していく。



「ケンセー、何やってるのよ!」

「やっぱり早いな」



 敵機人の剣は通常よりも短めに見える。

 木々に邪魔されないように短く調整してるのかもしれない。


 機人自体も小型だし、こっちより小回りが利く分、森での機動性は向こうが上かもしれない。



「中々距離が縮まらないじゃないの」



 何故だか互いに距離をとって止まってしまう。



「さて、どう動いてくるか……」



 前に誰かから言われたっけ。

 アスラレイドの機人はラグナリィシールドよりも高性能だって。



 相手の機人は小型だけど、こっちよりかなりキュルキュル煩い。

 ということは、内部には多くのモーターが取り付けられているはずだ。


 高い操縦技術を必要とする、正にエースのための機人だ。



 でもいつまでもお見合いしてても仕方ない。



 仲間の状況は分からないけど、こいつらの実力を考えれば、早く支援に向かった方がいいだろう。



 ここは強引にでも主導権を取りに行く!



 俺は一直線に敵機に向かった。



「ちょっとケンセー! それじゃあ木にぶつかっちゃうよ!」

「いいんだよ! 環境破壊剣ッ!」



 周りの木々を巻き込んで剣を振る。



 俺の行動が意外だったのか、敵機は一瞬反応が遅れた。

 僅かに装甲を抉った感触が伝わってくる。



「やっぱり、リグド・テラン製は装甲が薄い」



 一太刀で何本もの木を切り倒し、攻撃を繰り返すことで、どんどん見晴らしが良くなっていく。


 俺の方が射程が長いから、中々懐に飛び込んで来ない。

 相手は明らかに俺の事を警戒してる感じだ。


 RSカスタムは俺用にラジウスを変更済みだし、モーターも増設してる。

 反応速度は以前より大幅に上がってるんだ。


 だから反応は引けを取らないし、装甲も悪くない。

 ここまでの戦いでそれは確信できた。



「このまま一気に行くぞ!」



 相手の進路を限定しながら追い詰めて行く。


 Kカスタムに乗っていたからこそ、戦いの技術もついた。

 これまでの経験が俺に力を与えてくれてるんだ。



「これでもう逃げられないぞ!」



 俺達の間に遮る物は何もない。

 もはや身を隠すことはできない。



 決着をつけるべく、機人を進めた。



 敵機は意を決したのか、剣を構えて動かない。



「喰らえ!」



 敵機は俺の剣に合わせて、受け流してくる。



 それでもパワーはRSカスタムが圧倒的だから、強引に弾き飛ばせる。



 休む間もなく剣を振ることで、敵機のバランスは崩れている。



 俺はその隙を見逃さずに突っ込んだ。



「ケンセー! ちょっと待って。何かが――――」

「今は後にしろ!」



 確かにレトレーダーには反応がある。

 でもだからこそ、ここで決着をつけるべきなんだ。



 俺の剣はようやく敵機を捉えた。



 でもギリギリのところで、剣によってガードされてる状況だ。



 ガリガリと何かが削れる音が聞こえてくる。

 俺はその音に聞き覚えがあった。

 なにせ、初めて命をかけて戦った時に聞いた音だからな。


 敵機の剣がチェーンソーみたいにグルグル回転してるんだ。


 でもそんなの無視して押し込んでいく。


 RSカスタムは、あの時乗っていたイステル・アルファよりも遥かに硬い。



 パワーと装甲で強引に押しつぶす!



「ケンセー! 危ない!」



 レトの声に反応して横を向く。

 まだ時間があると思っていた。


 だけど、近づいてきていた機人はすぐそこまで来ていたみたいだ。

 俺は後退して距離を取った。


 そして俺とアスラレイドの機人の間に入ってくる。



「そこまでだ!」

「どうしてあなたが……」



 声の主はキルレイドさんだった。

 全然意味が分からない。


 もしかして俺を騙してたのか?

 リグド・テランと繋がっていたのか?


「剣星、すまなかったな」


 謝ったのはどういう意味だ?

 裏切ったことに対してか?

 それとも俺の疑問に答えてくれるというのだろうか。


「全く、あんたの情報のせいで死ぬところだったわ」

「いや、すまんな。俺の見立てより遥かに強かったみたいだ」

「まあいいけどね。コイツの強さは確かめられた」


 キルレイドさんと話してるのは、低い声の女の人だ。

 状況的に考えて、目の前にいるアスラレイドなのだろう。


 いつの間にか、分断したはずのもう一人のアスラレイドもやってきていた。


 そしてソイツと戦っていたはずのロジスタルスの機人もぞろぞろと。

 しかも、どの機人も傷一つない。


 もしかして戦闘していなかったのか?

 だとしたら、俺を嵌める為に仕組んだってことになる。


「……俺のことを試してたんですか?」


 ちょっと怒りを込めて質問した。

 俺と戦わせるためだけに仕組んだのかよ。

 正直こんなやり方は好きじゃない。


「それだけ、君の強さが知りたかったのよ。双星機に乗るに値するのかをね」

「彼女たちは双星機のパーツを所有している。剣星がそれを預けるのにふさわしいかを見極めていたんだ」


「なんだって!」


「剣星、お前が不審に思うのは理解できる。だがとりあえず場所を変えよう」

「……分かりました」



 俺達はアスラレイドの二人を連れて、ロジスタルスの拠点に戻ることになった。

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