第41話 レベルが高すぎる? そんなの関係ねぇ!


 発掘作業に同行するようになってから五日が経過した。


 双星機のパーツはまだ一つも見つかっていない。

 欠けたパーツは全部で三つ。

 右脚と左右の腕だ。


 胴体部分を回収した場所から、そう遠くない場所を探しているけど中々に大変。


 まず、金属反応自体が少ないことが挙げられる。

 埋まっているラヴェルサの機人が少ないから反応も少ない。

 単純なことだ。


 次に手際の悪さだ。


 日常的に発掘作業をしている連中と違って、ロジスタルスでは百年以上前に発掘作業を終えている。じっくり見学する暇があった訳じゃないけど、その差ははっきり見て取れる。



 個人的にだけど、いくつか問題もある。

 それは余りにも暇すぎることだ。


 金属探知機の性能が向こうの世界のものと比べて低い。それでも教会勢力圏内だったら、大きさの問題はあっても金属反応自体はすぐに見つかる。


 ところがここでは、反応が少ないし、たまにあっても小さな物だったりで成果が無さすぎる。



 それに望んではいけない事だけど、ここには敵が全く出ない。


 ラヴェルサの機人なんて全然埋まってないから当たり前なんだけど、本当に護衛が必要なのか疑問が大きくなってくる。


 もちろん双星機の重要性を考えれば、発見したところを横取り……なんて事態が考えられないわけじゃない。


「それでも暇なんだよな~」


 レトも最初は張り切っていたけど、二日目からだらけきってたし、今日の任務中なんて完全に睡眠時間と割り切っていた。


 その代わりに夜、朝とうるさいんだけどな。


 まあ、今の状況を打破したいと考えているのは俺自身だから、レトに文句を言うような事ではない。それにいざという時には頼りになるし。


 レトから情報が送られてこないって事だから、本当なら、より周囲に気を配る必要がある。だけど一日何時間も変わらない景色を眺めているだけってのは結構堪える。


 一緒に来てるキルレイドさんの部下たちは森で模擬戦を繰り返しており、これがリフレッシュになっているのではないかと思う。


 もともと現地で演習をして、発掘作業をカモフラージュするという狙いがあるからだ。


 だったら俺も、といきたいところだけど、イオリから借りているRSカスタムはロジスタルスの機人と比べてかなりの高性能機だ。


 それに模擬戦くらいしか経験の無い連中と比較したら、ラヴェルサの領域奥地で戦った操者なので経験が段違い。


 おかげで、なんだか他の操者から一目置かれてるような印象を受けている。

 そのせいで俺に対して模擬戦の申し込みはまだない。


 まあ俺まで参加したら、誰も警戒する人間がいなくなってしまうんだけどな。



 そんな言い訳は置いといて、問題の原因がなんだといったら、結局は俺の意志のブレブレなことだけなんだ。


 俺は帝都にいた時、傭兵として足りないことが沢山あったから、それを補うためにそれなりに努力してきたと思ってる。日本にいた時とは比べ物にならない集中力を発揮したし、頭と体をいじめてきた。


 目的が明確になってからは特に気合を入れた。

 毎日大変だったし、疲れ切っていた。

 それでも充実した日常を送ってきたと思う。


 それが今はどうだ。


 なんとなく生きてきた人生とさよならして、何をするべきか自覚できた。。

 具体的な方法はまだ分からないけど、アルフィナを助けて世界を救うと決意した。


 それなのに、溢れ出てくるやる気は空回りするばかりだ。

 目標に向かって、進んでいる実感がないから不安になるんだ。




 最近なんとなく分かってきた。


 じっとしてるだけだから、駄目になってしまうんだ。

 だったら、無理やりにでも動かすしかない。


 予定ではキルレイドさんは今日の午後には帰ってくるはずだ。


 そこを待ち伏せて、修練場に誘うことにした。




 やっぱりロジスタルスの隠れエースなだけあって、彼に挑もうとする若者は多い。


 キルレイドさんは帰ってくるなり、周りを取り囲まれていた。

 そして対戦要求を嫌な顔一つせずにそれを受ける。

 普段から、そんな感じなんだろうな。


 俺も負けてられない。


 挑む実力のない者も周りを取り囲んでるけど、彼らを押しのけて前に出る。

 日本にいた頃の俺だったら、絶対しなかっただろう。


「俺にも稽古をつけてください!」

「いいぜ」


 皆して、ぞろぞろと移動する。

 見学する者が丸くなって並んで、即席の闘技場をつくりだした。


 戦いの合図なんてものは無い。

 頭を下げることなく、各々間合いを取っていく。


 挑戦者たちはなんとか隙をつくりだそうと動いているけど、キルレイドさんはまるで意に介していない。


 その場からほとんど動かずに剣を振るう。


 一撃であっけなく倒されていく若者たち。


 並んでいた列がどんどん短くなっていく。


 キルレイドさんも出張帰りでさっさと休みたいのだろう。

 休む間もなく、挑戦者を迎え撃っている。

 それでもキレのある動きに変化は全くない。



 俺は若者たちがキルレイドさんにやられるのを見ながらも、それをどこかで他人事のように感じていた。


 もしかしたら、一泡吹かせられるんじゃないかって思ってるんだ。



 先日のラヴェルサや副長と戦った時にも、俺はそこそこ反応できてたと思う。


 初めて乗った時のような感覚頼りではなく、しっかり自分の目で捉えることができた。


 だからこそ今ここにいるのだし、決して機人のスペックと才能だけで生き残ってきたわけじゃない。



 装甲機人での戦いは、現実の人間の動きよりも断然速い。


 だから多くの訓練を経て、場数を踏んだ今の俺なら生身でもやれるって自信が自然と沸いてくるんだ。


 俺の番がやってきた。

 前に進み出て、剣を構えて対峙する。


「お願いします!」


 気合を入れるように大きな声を出す。

 キルレイドさんがじりじりと近づいてきた。



 剣の射程までまもなく……



 上から振り下ろされる!



 見える!



 俺にも動きが見えるぞ!



 これを躱して一撃をいれてやる!



 …………あれ?



 体が全然動かねぇ。



 全部見えてるのに、体が動かねぇええ!!




 ――――――――――――――――




「ケンセー、大丈夫?」

「うん、多分問題ない」


 どうやら俺は気を失ってしまったらしい。

 鼻とか目が濡れてるのは、レトが水をぶっかけたからだろう。

 小さな水差しが見える。


「なあ、俺はどうやってやられたんだ?」

「普通に上からボーンって一発。ケンセーってば、全然動かないんだもん。びっくりしちゃった」


 どうやら、俺の記憶と同じみたいだ。

 これはどういうことなのか。


「見えてはいたんだけどな……」

「でも体は付いてこなかった?」

「たぶん、そんな感じ、なのかな?」


 もしかして実際に見えていたのは初動だけで、全く反応できなかったのかもしれない。


 そうだとしたら、後の動きは俺の想像に過ぎなかった?


 レトは俺の鼻の上に座って、足をバタバタさせている。


「ちょっとレベルが高すぎるんじゃないの?」


 イオリの言い様だと、キルレイドさんは騎士の中でも相当な強者だ。

 剣を始めて、まだ少しの俺が対応できると思ったのがおかしいのか。


 でも俺自身はともかく、機人に乗っていたら別の結果になっていたかもって気はするんだよな。


 同じ機人と仮定するなら、一瞬動きが遅れたとして反応の良さで巻き返せるんじゃないかって。


 ……いつまでも悩んでいても仕方ない。


 考えても分からないなら、体を使うのみだ。


「また明日もお願いしてみる」

「(イオリに頼んだ方が絶対いいよ)」


 こんな時、レトは結構気を使ってくれる。

 修練場にはイオリが来ることもあるから、こっそりと心の中での会話だ。


「(今はまだ距離を取った方がいい気がするんだ)」

「(だったら、チラチラ見るのを止めなさ~い!)」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る