第43話 急展開すぎるでしょ!
森の拠点に戻ってきた。
俺は機人をハンガーに停止させ、アスラレイドに視線を向けた。
まず機人から降りてきたのは大柄な男。
190cm以上はありそうだし、筋骨隆々で威圧感がある。
年齢は四十歳くらいだろうか、落ち着いた雰囲気だ。
その男はキルレイドさんに歩み寄り、手を差し出した。
「久しぶりだな、キルレイド」
「前に会ったのは七年前だったか。随分老けたな、ドゥディクス」
「お前と違って、苦労続きだからな」
二人は皮肉を言いあってる。
どうやら昔からの関係のようだ。
「ちょっとケンセー、女の方がこっちに来るよ」
その女性は腰まで届く長い髪で右目を隠してる。
機人の操縦に視力は必要ないから問題はないんだけど。
肌の感じは二十代後半だろうか、どことなくミステリアスな印象を受ける。
「君があの機人の操者?」
俺に人差し指を向けて聞いてくる。
「そうですけど……」
やっぱり美人相手だと気後れしてしまう。
「それで名前は?」
「ケンセーよ!」
何故か後ろから飛び出してきたレトが答えてくれた。
というか、なんだか苛ついているように感じる。
まるでアルフィナと初めて会った時みたいだ。
「ふ~ん、聞いていた通りだけど……」
女性にしても、レトのような生物を見るのは初めてなのだろう。
興味深そうに観察を始めて、レトの周りをグルグルと回っている。
「それであなたのお名前は?」
「あんたに名乗る名前はな~い!」
何故か俺に対してより丁寧だったのに、レトはいつもの調子で回答を拒否した。
「連れて帰ってもいい?」
「私をなんだと思ってるのよ!」
「まあまあ、セイレーン。ここに来ればいつでも会えるさ」
キルレイドさんが会話に入ってきた。
少しだけ顔が緩んでいるのが気になる。
やっぱりこの人は美人に目がないんだろう。
でも、ある意味信頼できる要素でもある。
「この子のこと、何か知ってるのかしら?」
「い~や、さっぱりだ。本人に聞いても何も出てこないぞ。なにせ一番一緒にいる剣星だって知らないんだからな」
「ふ~ん、そう。まあいいわ。案内して」
「ああ、ついて来な」
ってなわけで、またもや会議場に集合。
集まったのは前回同様のメンバーに、アスラレイドの二人だ。
彼らは一応ロジスタルスにとっては、敵国の人間のはずだ。
護衛もつけずに二人でやってきたのは信頼の証なのか。
イマイチ関係が分からない。
「まずは簡単に説明しておこうか。アスラレイドのセイレーンとドゥディクスだ。俺達とは共犯関係にあたる」
「共犯?」
「そうだ。だがこれから話すことを正しく理解するためには、リグド・テランの情勢について知らねばならない。聞いた事はあるか?」
リグドテランは大陸中心部に位置する大国で、教会勢力とは睨みあいをしているだけで、南側のロジスタルスとは緊張状態。西側の国家と戦争を継続中と聞いた。俺は傭兵の時に得た情報をそのまま話した。
「概ねその通りだ。ただ違うのは俺達ロジスタルスとは実際には戦っていないってことだがな」
その言葉に驚いたのはイオリだ。
満足そうに頷くとキルレイドさんは話を再開した。
「俺達にリグド・テランと戦う体力はない。一時的に凌げても戦力差は如何ともし難い」
「ところが、我々の方にもそれほど余裕がないのが実情だ」
ドゥディクスが話を引き継いで語る。
「我々は西のエリステル王国との戦争のために戦力を集めなければならない。南で戦っていては西に送る戦力が少なくなる。そこでキルレイドと一芝居打つことにしたのだ」
「全く何を言ってるのかしら。あなたたち二人は思う存分戦っていたでしょうに。実際に停戦したのは、七年前に私が南側の担当になってからでしょ」
「そんなことはない。俺とコイツの一騎打ちで決着をつけると決めていたからな。だから俺の他に被害はなかっただろ?」
つまりはリグド・テランとの間に密約が出来ていたってことだ。ロジスタルス側がこれを知ってるのかは分からないけど。もしかしたら模擬戦を繰り返しているのは戦闘したと上層部に報告するためかもしれないな。
「まあ、前提条件はその辺りでいいだろう。ここで問題になってくるのがリグド・テランの派閥争いだ。具体的には三つの派閥がある。一つはアスラレイド筆頭のジレイドを中心とした、昔から続く貴族たちの派閥。彼らは教会からの資金援助を受けていて、現状維持を望んでいる」
「次が私達の派閥で、現体制に不満を持っている者の集まりね。内部から切り崩しているわ」
「そして最後が剣星、お前が殺したグルディアスの姉、マグレイアを中心とした独立派だ。もう一人のアスラレイドのウィーベルトを加えた最大派閥で、彼らは教会との縁を完全に斬り、叩きのめすつもりだ。グルディアスの死が切っ掛けになったのは間違いないが、それでも時間の問題だっただろう」
そんなこと言われても、自分の責任じゃないなんて考えられるはずないだろ。
「根本的な問題として、リグド・テランの特性があるんだ。彼らはラヴェルサの攻撃を受けないが、その分大きな制約を抱えている。そのため他国に比べて赤光晶の活用が少なく、発展が遅れている。それを打破しようとしているのが俺達やマグレイアだな」
彼らが素直に話すのはキルレイドさんがいるからだろう。恐らくこれまで何度も話し合っているに違いない。
「それであなたたちは何を望んでいるんですか?」
「俺たちは原因の大本であるラヴェルサの地下プラントを破壊するつもりだ。だが仮に全戦力を投入して破壊できても、それではエリステルの脅威に対抗できなくなる。だからこそ圧倒的な力が必要なんだ。教会勢力に関してはラヴェルサという共通の敵がいなくなれば、まとまらないだろうと考えている。地下プラントがなくなれば傭兵は少なくなるのは間違いないし、俺達が教会と繋がっていたことをばらせば求心力を失うだろうしな」
圧倒的な力というのは、間違いなく双星機のことだろう。
それにラヴェルサが暴れ出したら、リグド・テランだって無事じゃすまない。
それでも、この人たちは破壊しなくちゃって思ってるんだ。
「剣星、こいつらはな、お前に双星機を任せても大丈夫かどうか、その目で確認したかったんだ。セイレーン、実際に戦って見てどう感じた?」
「ちょっと待ってください。俺も地下プラントを破壊するのには賛成します。けどその前にアルフィナの無事を確認してからでしょ。そうじゃないと俺達は協力できない」
そうだ。俺はその為に戦うと決めたんだ。これは絶対に譲ることはできないんだ。
「それなら大丈夫よ。聖女様は私の一族がお世話しているからね。平穏に暮らしているわ」
セイレーンの言葉はどこか引っかかる。
確かにアルフィナが一人で生きて行くのはできないだろう。
「だがアルフィナ様はラヴェルサの領域にいるはずだ。何故貴様らが世話をできる?」
イオリの疑問はもっともだ。それができたらイオリは全てを捨て去ってでもアルフィナに付いて行っただろう。
「私の一族は特別なのよね。ラヴェルサから敵判定をされてないから、代々聖女様のお世話をしているの。でもそれも限界が近づいてきてる。時代が進む連れて、ラヴェルサに殺される者がどんどん増えていってるわ」
いずれは世話をするものがいなくなるってことか。
食べ物が運ばれてこなければ聖女は生きていけないだろう。
そうなれば聖女はラヴェルサの元にいっても、すぐに死んでしまう。
休戦期間がなくなり。戦いが続いてしまうということだ。
科学が発展して地下プラントを破壊できるようになるまでは。
俺達にはそれを悠長に待っている余裕は無い。
考え事をしていると、突然会議室の扉が開いた。
入ってきたのはリグド・テランの戦士だ。
セイレーンとドゥディクスに何やら耳打ちしてる。
二人はそれを聞いて、苦虫をかみつぶしたような顔になった。
「どうやら事態は悪化しているようだな」
キルレイドさんがそう判断するのも当然だ。
俺ですらそう思ったのだから。
「独立派にやられたわ。あいつら独自に動いてエリステルとの講和に成功したみたい。そうなると教会勢力との全面戦争になるでしょうね」
西の脅威がなくなれば、ほとんどの戦力を東に向けられる。南の戦力はキルレイドさんを除けばそれほどでもない。無視されるかもしれない。それで全面戦争か。
「すぐにでも俺達の所に指示が来るだろう。ここにいるのがばれたらまずい。悪いが話はここまでだ」
「そうね、でも双星機のパーツは預けることにするわ。ロジスタルスじゃなくてあなたにね。あなたのこと、少しは理解できたし。状況が変われば一緒に戦う事もあるでしょう。あっ、どさくさに紛れて地下プラントを破壊してくれちゃってもいいのよ?」
んな無茶な。
そう思ったが、口には出さずに苦笑いで二人を見送った。
恐らく俺がロジスタルスや教会の政治的な部分と関わって来なかったから、認めてくれたんだと思う。
俺の目的はアルフィナを救って、世界を平和にすること。
彼らと共通するところは大きいはずだ。
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