20話 味方

「――これは?」

 ロウは羊皮紙を手に取り開き始める。


「2人の帝国騎士から、何かあった時はその場所へ行けと」


「――まさか……知らなかった。あのお方がこの近くに身を潜めていらっしゃるとは」


 ロウは隅々まで読み通し「なるほどな」と何度か頷いて、立ち上がると壁のヴィスカム王国周辺地図を指差し、羊皮紙に書かれた場所を示した。


「この森はヴィスカム王国が統治している訳ではないが、魔獣が稀に出没する危険がある事から、普段なら警備部隊スベインが周辺を巡回している。だが今は俺達騎導部隊オベイロンの管轄になっている」


 ロウは羊皮紙を折り目通りに折り直し、ジオラスに返すと鎧兜を手に取る。


「俺がここに居たのも何かの縁、少しだけ手を貸してやる。今後動きやすい様に森から1番近いリドヤ町へ案内しよう」


「――そんな……バレたら貴方も」


 ロウは鎧兜を装着し白々しくジオラスへ言葉を返す。


「――バレる?何を言ってるんだ?――ロザレスさん、俺はあんた達を町まで案内するだけだぜ?ようこそヴィスカム王国へ」


 鎧兜で分からないはずの表情、その声からは少し悪知恵を働かせそうな元冒険者の顔をしているのが見て取れた。




 ――同刻、マンチニール城 一階大廊下

 

 騎導部隊オベイロン上級二等マリア・ライラックは四柱聖剣ニル・ソニア=オベイロンとの対談を終え、部屋を後にし、古めかしい甲冑が等間隔にずらりと並ぶ、弓張り月の明かりが灯る廊下を1人歩いていた。


 ――ソニア様ですら何も……どうやってかアイツガルドを退けたエセン達もヴィスカムまで速くても後2日で無事に辿り着けるかどうか。

 

「随分とぉ、長いお話をされていた様で」


 ――うわぁ、厄介な奴……


 古めかしい甲冑の間に1人、マリアの左肩から下がるマントやガルドと同じ上級二等の証である紋章が入った蒼黒い外套を羽織り、そして自信のある豊満な胸を張り、下から支えるかの様に腕を組む女性が、窓際に寄りかかっていた。

 対魔部隊ウィッチア上級二等ラヴラニー・ドルテニア


「――えぇ……騎導部隊オベイロンの今後に関わりますので」


「そうよねぇ……このままいけばマリアちゃんが実質、騎導部隊オベイロン上級一等だものねぇ」


「……何が言いたいのかしら?」


「別にぃ?親子揃って上級一等なんて凄いじゃない?――と、思ってぇ」


「――ハッキリ言ったらどう?」


「そんなに睨まないでよぉ、私はライラック家がソイル家を陥れようとしてる。なんて事ぉ、これっぽっちも思って無いわぁ」


 本当はそうとしか思っていない事を、どこか嬉しそうに上から目線でラヴラニーはライラック家自体を煽る。


「私の……私達一族を侮辱するかドルテニア……!」


 マリアのライラック家特有の紅い瞳が自身の魔導力に反応し、月明かりの薄暗い廊下の中、淡く灯る。


「アァン……だからその眼で睨まないでよぉ……ゾクゾクしちゃう……///」


「またふざけた事を口走ってみなさい、帝国騎士としてではなく"マリア・ライラック"として貴女を斬るわ」


 マリアは視線を前に向け、静かにその場を立ち去ると、ラヴラニー・ドルテニアは何故かとても嬉しそうに去って行くその後ろ姿を眺めた。


 ――いつ見てもほんとぉにあの眼は最高ねぇ・・・ウフフ

 ――でも良かったぁ少なくともマリアちゃんは敵じゃないみたいだしぃ、次はガルド君を突っついてみようかなぁ


 火照った頬に手を添えながらマリアとは逆の方へ歩き出し、帝国の一大事を楽しんでいる彼女は不気味な笑い声を廊下に響かせ、闇へ消えていくのであった。

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