18話 マメな探究心

 メルテムとルズガルが用意する食事は、移動しているこの2日間でも在り物で作ったとは思えない程のしっかりとした料理を朝晩と毎回作ってくれている。理由としては思いの外、屋敷から運び出した食料が多く、ヴィスカム王国に到着した時に余ってしまうと荷物になるので、なるべく尽きる様に調理した結果らしい。


 それでも運ぶには大変な程の食材が余るので、操縦士の方が買い取ってくれるそうだ。なんでも帝国内行商資格を持っているらしく、帝国内であれば様々な国で輸送物を売買できるのだが、窃盗にあった経験が多々あったようで数年前から客獣車の仕事に変えたらしい。


 ヴィスカム王国は帝国の従属国の中でも最東端に位置する関係でこの有り余った食材達はいい値段で売れるそうだ。特にジオラスたちが毎日何気なく食べている保存食の油豚アジークの燻製は肌寒くなってくるこの時期だと上手くいけば帝都付近で取引されている額の約2倍の価格で取引できるらしい。

 皆んなで焚火を囲い、"2倍の価格"という言葉で興味を持った女中達は行商関連の小難しい話をしている。


 ジオラスはそんな話は余所に、焚火で温めた油豚アジークの燻製にかぶり付き、乾燥させた紅瓜アッレと3種類の散豆ネイブが一緒に煮込まれた出来立てのスープの具材を頬張ると、ハフハフと口の中を冷ました。

 熱々の煮込んだ散豆ネイブは種類によって食感が異なり、噛むと楽しいが熱過ぎるせいで味の違いがよく分からない。

 

 もう一度、沢山の散豆ネイブを掬い上げ今度はよく冷ましてから口へ運ぶ。

 火の通りやすいクア散豆ネイブは外皮が黒く内部は白い、まろみのある味とムニっとした食感。

 飛跳ウィン散豆ネイブは対照的に全体的に白くゴツゴツしている。火が通り難くポクポクした食感で、淡白だが良く噛むと甘い。

 アテン散豆ネイブは赤茶色で皮が厚く調理する際は最初に炒めて火を通すのが一般的、少し焦げた焼き目がとても美味しい。


 乾燥紅瓜アッレの酸味とピリリとした辛さはこの前の華蜜鶏フランティートの煮込み料理を思い返せさせる。あのトロトロでホロホロの鶏肉が恋しくなるが、この散豆ネイブ達もいつでも美味しい。


「今日の料理も凄く美味しいよ!」


「ジオラス様、散豆ネイブのスープ好きだから沢山作りました――あむっ」


「いっぱいおかわりして下さいね!」


――さっき身体を動かした感じ、頭と右腕も大丈夫そうだし全身のピリピリした痛みも特に無いからほぼ全快したかな


『毎日しっかりと食べて寝ていますし、エセンさんの治療と回復術の腕がいいので、すぐに良くなりましたね。――しかし今回のお食事も、とても美味しそうです……

――もしや今、身体の感覚を共にしたら味が分かるのでは!?』


――確かに、やってみても良いよ!


『ありがとうございます!――では早速……』


 ジオラスは目を閉じ俯くとアルメニアが代わりにモグモグと散豆ネイブ油豚アジークの燻製を噛んでみる。


『――悲しい……食感は分かりますが味がしませんね……』


 味は僕が味わってしまっているからかな――匂いはするの?


『そういえば、香りはしますね……』


 呼吸とかは確かに無意識だよね――


 恐らく前例のない人間に憑依した死霊という関係性を2人は特に恐れることなく、むしろ楽しんでいた。試せることは試し、出来ることと出来ないことを解明していく、まるで未知の世界を探検し、見たことの無い物を発見している様でとても快感を感じている。

 

 この感覚を重ねた状態をしばらく続けて、慣らしていくのも面白いかも――

 あと僕が寝ている間とかどうなるか気になるし、無事にヴィスカム王国に入って宿に泊まれたら試そうよ!

 

 『それは確かに気になりますね――まだまだ沢山試せることがあって、どうなるか楽しみです』


 ジオラスは傍から見れば美味しそうに黙々と食べ続けているだけだが、彼の中では色々な事で盛り上がっているので妙に楽しそうな表情をしている。


 エセンは気付かれない様に時折りジオラスを見ているが、表情を見るに大丈夫そうなうえ、先程の稽古の動きは、身体も回復したと思って良いだろうと安堵していた。


 全員食事を済ませ片付けを始める。超大狼レ ニオ フォロゥも餌を食べ、毛繕いや伸びなど一通り一休みをし終え、夜行性だからか昼間より元気な様子で客獣車を引きたがっている。操縦士は2匹と客獣車の準備を済ませると声を掛ける

 

「こっちはいつでも出発できますんで!」

 

 エセンとジオラスはしっかりと装備の準備をしてから客獣車へ乗り込み、

 ルズガルは蛙駝リィモフの胃袋を使った大きな水筒の水をたっぷり焚き火に掛け消火し、その場の後始末をすると、メルテムへ使い終わった器具などを渡していく、メルテムはそれらの道具や調理道具、身軽になった最低限の荷物を1つにまとめ、直ぐに降りれる様に荷台から荷物を背負ったままルズガルと客席に入っていく。操縦士が扉を閉め、操縦席へ跳ねる様に勢い良く座る。


「よっしゃ!それじゃ出発しますぜ!」

 

 客獣車はゆっくりと街道へ戻った後、徐々に速度を上げていく。

 ジオラスは野営を挟んだ長旅をした事が無かったが、快適な客獣車と女中達のお陰で追われている身ながらも無難にヴィスカム王国へ向かうことが出来るのであった。

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