9話 剣の墓場

「――!? 手を離せ!」


 ジオラスは即座に状況を把握し、メルテムの胸倉を掴んでいる男に捨て身の覚悟で突撃した。


「ぐぁっ!?」

 男は突き飛ばされ背中から床に倒れ込む。

 

 メルテムは力が入らないのか真下へ ドサリ と落ち、蹲った。

 

「メルテム!大丈夫!?」


「ごほっ……っけほ……ありがとう……ございます」

 メルテムは苦しそうに肩を上下させ、無理に声を出して感謝した。


「よかった……メルテムさん」

 ルズガルは安堵し服の袖で涙を拭う。そしてメルテムの元へ駆け寄る。


「このクソガキ!」

 完全に頭に血が上ったサバト四等は起き上がり、乱暴に抜剣する。


 それを見たジオラスも思い切り剣を引き抜く。

 

 僕が戦わないと二人が……!


「あぐっ!!???」


 横から来たもう一人の男がジオラスを思い切り蹴り飛ばした。

 

 ジオラスの身体は食卓のある部屋の扉を突き破る勢いで吹き飛び、中央テーブルに激突した。テーブルは跡形もなく割れ、ジオラスは頭から血を流す。


「何かでかい音がすると思ったら、もう一人武器を持った子供がいたとはな!」


「……何が?」


 意識が朦朧としながらも立ちあがろうとするが右腕の感覚があまり無い。


 ――痛い…………稽古場は……


 ――知らない文字……エセン……メルテム、ルズガル!


 意識が段々と戻ってきたと同時に自分の負傷した箇所の痛みもはっきりとしてしまう。


 頭と腕が痛い……この装備のおかげでギリギリ折れてはいないとは思うけど……剣が……くそっ!


「おい!クソガキ!」

 ジオラスが突き飛ばした男が自分の剣を投げ捨て、こちらへ近づいてくる。そしてメルテムと同じ様に胸倉を両手で掴み上げた。


「さっきはよくもやってくれたな!?」


 ジオラスの浮いた身体を掴んだまま絵画の飾られた壁に思い切り押さえつけ、片腕を離し、ジオラスの顔面を何度か思い切り殴った。


 すると絵画と壁がミシミシと音を立てて崩れ去り、ジオラスとサバト四等はほぼ真下へ落下していった。







************************************







「……うぅっ……こ こは?」

 

 薄暗く一瞬自分は死んだのだと思ったが、先程まで自分を殴っていた帝国騎士らしき物が横に転がっているのを見て、まだ生きていると確信して涙が勝手に流れた。

 

 痛い、辛い、怖い、苦しい、いっそさっきので死んで楽になれたら良かった・・・


 負の感情で満たされた心は俯いたまま、前が向けない。


 


 ――?……声が聞こえる?


 意識が朦朧としている所為なのか、殴られ過ぎた所為なのか、声のする方へ顔を上げる。

 

 幻聴の次は幻覚が見える。

 

 薄暗い謎の場所・・・こんな所に淡く光る大きな剣が刺さっているなんて・・・


 一見剣の様に見えるは、よく見ると祖父や母の墓標と同じ様にも見える。

 

 まだ動く左腕と足を動かし、這いずりながらその剣までゆっくりと近づいていく。


 剣の手前までくると下には何故か綺麗な芝生、見たこともない美しい花々、吹くはずもない暖かくとても気持ち良い風・・・さっきまでの負の感情が少しずつ薄れていく。


 左腕を上手く使い、仰向けに寝転ぶと真上には巨大な根が、この空間を作り上げていた。


 ここは大樹の根の中……?


 そして淡く光る大きな剣を見る。

 

 またこの知らない文字……。


「こんな地下へ続く階段があるとはな、奴らはここから逃げたに違いな……おい!?サバト四等!!大丈夫か!?……嘘だろ首が……」

 

 こんなところまで追ってくるのか……

 そりゃそうだよね……


 ジオラスは頭の血を左手で拭い、うつ伏せになり最後の力を振り絞り、右肩から地面に刺さっている剣に体重を預けながら立ち上がる。


「貴様!そんなところにいたのか、よくもサバトを!!」


 メルテム、ルズカル、ガルド兄さん、ミネザ姉さん……エセン……父さん、みんな……無事でいてくれ……


 ――僕……は……

 

 ジオラスは完全に意識が途絶えながらも、倒れまいと、崩れ落ちる脚を支える様に左手で剣を握り、家族を護るため敵の前に立ちはだかり続けようとするのだった。

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