8話 新たな主人
「大樹と屋敷が見えてきましたぜ!」
エセンは身を乗り出し屋敷周りを確認する。
「……やはり遅かった」
屋敷の前に帝国騎士が騎行してきたであろう4頭の
「ジオラス様は客獣車で待機をお願いいたします。もし私たちがこちらに戻らなかった時はそのままお逃げ下さい!」
エセンは走行中にもかかわらず客獣車の扉を開け飛び降りた。
「……!?エセン?待ってよ!エセン!!!」
エセンは屋敷へ最短で向かうために街道を勢いよく飛び出し、客獣車以上の速さで雑草の生い茂る屋敷前の野原を疾走する。
屋敷の前に着くと4頭の
帝国騎士団 帝都
「……そこで何をしていらっしゃるのですか?」
エセンは柔らかい口調で問いつつ腰の剣へ手を添える。
男は左足を軽く引き、半身だけゆっくりと振り向く。
「――エセンか……久しいな」
エセンはその男の姿に驚愕する。
「……ガルド様!?」
「そうか、お前は屋敷の中には居なかったのか・・・だが丁度良い、お前に聞けば手間が省ける。ジオラスの居場所を言え」
「……どうしてです?」
「どうしてだと?帝王が悪と定めたその全ての有象無象から帝国を、帝王を死守するのが帝国騎士の務めだ」
「そうではありません! 私はあなた自身がどうしてしまったのかと問いたのです……」
ガルドの無表情だった眼が少し苛立つ
「――居場所を言えと言ったんだ」
感情の無い低く恐ろしい声と共に一瞬にして空気が重くなる。周囲の草花も踏み潰されたように首を垂れる。
「――っ!?」
こんな威圧……!
エセンは瞬時に
10年前とは比べ物にならない…… あれは……ガルド様ではない。
「その流れる様な動きも……」
ガルドがゆっくりと一歩踏み出そうとすると、近くにいた4頭のうち3頭の
「久しい……だが」
ゆっくりと確実にエセンとの距離を歩み、詰めていく。
「俺の質問にも答えず、それを抜いたということはお前も、我々の敵か」
くっ……このまま戦えば中の二人が……
****
客獣車の小窓からジオラスは操縦士にお願いをする。
「なるべく屋敷の近くまで行ってください!」
「さっきの女中さんといい、なんか訳ありかい!?……まぁ代金は頂いてますから!!」
屋敷まで走り続けると誰も乗せていない帝国の
前方には戦闘体制に入っている自分が乗せていたであろう女中と、蒼黒い外套を羽織った男が見えた。
ありゃやべぇぞ!
「
操縦士はそう言うと
「おじさん!ありがとう!」
ジオラスは停車と同時に母の剣を握りしめ、少し遠いエセンの後ろ姿へ向かって全力で駆け寄る。
「エセーン!!」
聞き覚えのある声にエセンは不意に後ろを気にかけてしまう。
――しまった!!
その一瞬を見逃すはずもなく、悠々と歩いていたはずのガルドが一瞬で詰め寄る。
いつ抜いたのかもわからない剣をエセンに向けて横へ振り抜こうとする
が、エセンもその剣の軌道に間一髪で合わせ、防いだ。
ギィィン!!!!!
無茶な体制で防いだエセンの剣は刃の根元から粉々に砕け散り、身体は後方へ弾き飛ばされた。
冷静に空中で体制を整え、手元に残る剣だった物をガルドへ投げつけ、追撃を警戒し着地を狙われぬ様にガルドを視界に留め続ける。
ガルドは羽虫を払い除けるかのように軽く、投げつけられた物を切り払った。
「エセン大丈夫!?」
「何故来たのですか!!?」
「――何故って……僕は……」
どうして来てしまったのか、ジオラスには分からなかった。(何かを、エセンを失ってしまう気がしたから)、それを言葉にできず。視界に入った物を咄嗟に答えた。
「エセンの、剣が……ごめん……」
エセンはその言葉に何故かとてつもない優しさを感じた。自分の指示を聞かず、自分が追い込まれ、感情をぶつけてしまったことを悔いた。
あぁ……このお方は……ジオラス様は、ガルド様とは違う。私のただ怒りに任せた問いにさえ懸命に答えようとしてくれる……。
「……エセン、この剣を! 僕がメルテムとルズガルを!」
今できることを全力でやろうとするジオラスの言葉に、エセンは柔らかな笑みを浮かべる。
「――少々お待ちくださいませ」
エセンは風を纏い、右腕を敵に向け、烈風を放つ。放った風はガルドの蒼黒い外套を跳ね上げ続け、動きを封じた。
纏っていた風は二人を優しく包み込む。
女中は振り向き、剣を差し出す主君に跪き、今一度、剣を授かった。
「ジオラス・ソイル様、ありがとうございます。我が身とこの剣はあなた様に……」
エセンは剣を帯刀し立ち上がり、ジオラスの行手を阻む者と向き合う。
お力をお借りいたします……
滑らかな鞘に、輝く
「二人をお願いいたします!」
ジオラスは頷き、屋敷の扉まで全力で駆け寄ると勢いよく扉を開けた。
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