7話 女中達の忠義

 大旦那ラベナル様、リザンテラ様……しっかりと挨拶できず申し訳ございません。

 必ず……必ず私がお護りいたします。

   

 エセンは会いに来た二人に想いを伝え、俯き続けているジオラスを連れ、急いで客獣車に乗り込む。


 「お帰りなさい!ずいぶん早かったですね!?もう宜しいんで?」


 「この獣車で出せる最大速度かつ最短距離で、アルゾワールの外れ、大樹の麓の屋敷へ向かって下さい!」


 アルゾワールの大樹の近くの屋敷というと……


「あんたらの服装からただ者じゃないと思ってはいたが、ソイル家の……こ、こりゃ今までご無礼を」


「良いから出して下さい!一刻を争うのです」


「し、承知いたしました!!」


 獣車は徐々に速度を上げ、ここへくる時以上の速度で来た道を戻る。


「ジオラス様、この速度であれば日のある内に屋敷へ戻れます。メルテムとルズガルを連れてこの客獣車で帝国外までとはいきませんが、なるべく遠くへ・・・ジオラス様??」


「――帝王様は……自分を衛っている帝国騎士ですら、嘘かもしれないのに……簡単に切り捨てるんだね……。昔、読んでもらってた児童書に出てくる王様はそんなんじゃなかった……」


「……今回の事件は帝国騎士団を二分するかもしれない大きな事件です。旦那様は四柱聖剣を除けば帝国騎士の中でも序列が二番手に当たるお方、そう簡単には……」


 墓前から握り続けていた母の剣はいつの間にか温かく感じる。


「僕たちはこれからどうすればいいの……?」


 エセンはその問いに答えることができなかった。


 そして二人は沈黙したまま屋敷に到着するのを待った。


 

 ****



 勢いよく古屋敷の扉が開かれ、3人の男が詫びれもなく入ってくる。


 音に驚いた女中2人が慌てて玄関へ顔を出す。


「どちら様でしょうk」

「グリブ三等は2階をくまなく探せ!俺は1階を見る。サバト四等はそこにいる女中共を外に出せ!あのお方が尋問される!」


「了解しました!」

「了解ですキュイル二等!!」


 

「……っ!放してください!何がどうなって・・・痛っ」

「抵抗するんじゃない!」

 ルズガルは手錠をかけられ強引に外へ放り出されそうになる。


「これ以上ルズガルとお屋敷に手を出すのは許さない」


「お前もこれ以上抵抗するのであれば命はないと思え」


「……そんな脅しには屈しない」

 メルテムは大きく右足を引き、低く構える。左足のこむら辺りに仕込んでいたナイフを素早く取り出し、勢いよくルズガルを取り押さえている帝国騎士に向かって切りかかった。


「なっ!?貴様!!」ギィン!!

 くそっ!ただの女中だと思い油断した……!


 サバト四等は不意の攻撃で鎧に傷ができる程度だったが、女中如きに傷をつけられ取り押さえた女中を逃がしたことを焦り怒った。


「お前達になんかに教える事は何一つ、ない」

 

「この女中風情がぁ!」

 メルテムの持つナイフを籠手を装備した手の甲で強引に弾き飛ばす。

 ナイフはへたり込んでいるルズガルの近くへ落ちた。

 

「っ……!?」


そして躊躇なくメルテムの胸倉をつかみ、投げ飛ばす。


 ドンッ!「っ!……あ゙っ……ぐっ」

 体の小さいメルテムは思い切り壁に叩きつけられ、一瞬呼吸ができなくなる。


 ダメだ……恐らく騎士の下級、この人は四等って言われてた……それでも私じゃ守り切れない。

 

「ゲホッ……なんで、旦那様の……帝国騎士上級一等バルサ・ソイル様の屋敷を荒らす?」


「なんだ?何も知らないのか?誰もいないってことは知っていると思ったんだがな!!」


 「やめてっ!……メルテムさんが死んじゃう!」

 ルズガルは何もできず腰を抜かし大粒の涙を流す。

 

 サバト四等はそんな声には耳を貸さず、起き上がろうとしているメルテムの胸倉を再度掴み上げ、床に叩きつけようとした……その時!

 

 屋敷の扉が勢いよく開くのであった。



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