5話 近くて遠い旅
ルズガルはこんな道のりを大きな
出発してから1時間程歩いている。
街道とはいえアルゾワールの外れはかなり田舎で、道があまり整備されていない。
ガタついた道が歩く度に疲労した筋肉に響く……かなり歩き辛い。
ジオラスは生まれて初めて自分の脚で
本来は事前に自宅の古屋敷前まで獣車を手配しているからだ。
いつも寝ていればすぐに辿り着く場所なのに歩くとこんなに大変なんだ……。
周囲には転々と納屋があり様々な作物が育つ畑が延々と広がっている。
横にいるエセンは出発した時から顔色一つ変えず、ジオラスの歩く速度に合わせた歩幅で歩きながら、たまに視線を左右に振り、通り過ぎる人がいれば軽い挨拶をしながら両手で持っている鞄を片手に持ち直し、いつでも剣を抜けるように警戒している。
僕は歩いているだけなのに……エセンは凄いな
ジオラスがチラリとエセンを見るとエセンもこちらを向いてくれた。
「えっと、あとどのくらいで着くの?」
「もう少しです。前に見えるアルゾワールの林を抜ければ
徐々に野鳥や羽虫の鳴き声と木々が近づいてくる。
[アルゾワール樹林]
少し苔生した看板が立ててあり、横には簡易的な休憩所が設けられていた。
エセンはジオラスを座るよう促し、鞄から取り出した水筒を丁寧に手渡す。
汗を拭くためのタオルも取り出し、飲み終えるのを待った。
「こんなに疲れると思わなかった……」
勢いよく水を飲む、適度に冷えた水が火照った身体に沁みる。
「ここから先は木陰が続きますので多少は楽になるかと思います。」
「エセンは大丈夫なの?」
水筒とタオルを交換しながらエセンは答える。
「私は大丈夫です。昔はお爺様と夜通し歩いたこともありました。また冒険者になって旅をしているようで楽しいです」
旅、か……
顔の汗を清潔なタオルで拭う。
ジオラスは書物庫で読んできた数々の冒険録を思い返す。
そして本を読んだだけで大冒険している気になっていた自分を少し恥じた。
ただお墓まで行くだけ、それ以前にお墓まで送迎してくれる客獣車に乗るために歩いているだけ……
僕は……今まで何を、何も……
「ジオラス様、大丈夫ですか?」
「あ、うん!平気だよ」
「では、そろそろ参りましょう」
ジオラスは立ち上がりアルゾワール樹林へと足を踏み入れる。
エセンの言った通り、木陰はひんやりと涼しい。様々な野鳥の鳴き声が四方から聞こえ、
「この林は街道を通っていれば昼間であれば特に危険などはございませんので、ジオラス様は前と足元に気を付けて歩いて下さい。」
そうは言いつつもエセンは腰の剣に手を添えながら歩いている。
先程までは開けていた道、今は見通しが悪く薄暗い、いつ襲われてもおかしくはない。だが田舎とはいえ街道なので危険が殆ど無いのは嘘ではない。
エセンの仕草は体に沁みついた冒険者の癖なのだろう。
特に何もなくひたすらに歩いていると出口が見えてきた。
視界が一気に開け、近づいていくとそこには沢山の獣車が客横列し客待ちをしている。奥には大市場というだけあって先が見えない程、低い建物が立ち並んでいる。
「……やっと、着いた」
「お疲れ様でした。直ぐに良さ気な客獣車を探しますので私の傍から離れないようにお願いいたします。」
こうしてジオラスの近くて遠い、初めての旅が無事一段落したのであった。
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