4話 お下がりの身支度

 「おはようございますジオラス様!起きてください!朝ですよ!!」


 「……んっ。いてて」


 少し身体を動かすと色んな個所の筋肉がツーンと痛む。

 

 「昨日の一人稽古頑張っていましたからね!」


 疲れていたのと夕食を沢山食べたからなのか、かなり熟睡していたようで眠るまでの記憶があまりない。

 

 ジオラスがあくびをしながら目を擦っている間にルズガルは「お水をどうぞー」と机の上に容器とタオル、畳まれた服を置きカーテンと窓を開けせっせと働いている。


 「おはようルズガル、ありがとう」


 「いえいえ!今日の身支度は朝食の後にしますので、そのままでも良いですし、こちらに楽な服も用意してあります。お手伝いいたしますよ?」


 流石に寝巻きで朝食は・・・

 それに着替えは正直、もう手伝ってもらうのは恥ずかしい……


「あー、自分で着替えていくよ」


「では、朝食の準備は出来てるので着替え終わりましたら降りてきて下さいね。失礼いたしました」


 持ってきてくれた水を一口飲みながらルズガルに軽く手を振る。


 昨日あんなに食べたのにお腹が空いた。早く着替えよう。

 

 綺麗に畳まれた服一式を手慣れた手付きで着ていく。


 昨日は色々あったな・・・

 楽しい会話・・・美味しい食事・・・エセンの風撫流スロエ、昨日のことを階段を降りながら思い返していた。


 朝食が用意された広間、ジオラスの姿が見えるとエセンが深めの会釈をして待っている。


 「ジオラス様、おはようございます」

 「おはようエセン」

 エセンが椅子を引いてジオラスがそっと座る


 「いただきます」

 昨日と同じ葉野菜に味の違うソースがかかっている。とても水々しくシャクシャクとしていて美味しい。

 二口食べた後、別皿の白いパンを手に取った時、ふと思い出した。

 

 「……そういえば昨日、知らない文字の本を見つけたんだけど」

 

 「ジオラス様が知らない、文字ですか?」


 「そう、かなり古い本で……だけどメモが挟まってたから爺ちゃんが解読してたみたい」


 「そんな物が……少し気になりますね」

 

 「帰ってきたらエセンも一緒に読んでみて」


 パクパクと朝食を平らげると、エセンが空いた皿を下げていく。


 「承知しました。ではメルテムとルズガルを呼んでまいりますので少々お待ちください」


 水を少しずつ飲みながら周りの壁に複数飾られている見慣れた絵画を眺める。

 

 爺ちゃんの趣味で選んだのかな……


 《コンコン》

 「お待たせいたしました」


 カチャカチャと軽鎧を運び入れる二人、装着しやすい様に装備を脇机へ並べる。


 「ジオラス様失礼いたします」

 メルテムは手際良く脚から装着していく。


 「エセンさんが欠かさず手入れしていたので旧式の物とは思えませんね!」


 「十年前の為に帝都の名のある防具職人にあつらえてもらった一級品、まだまだ現役」


 「そうだったんですね!?……ガルド様の小さい頃って今のジオラス様に似てたり??」


 「全然似てない、背丈は同じくらいだったと思うけど、ガルド様は昔から大人びていた」

 

 「子供の頃のガルド様かぁ。少し見て見たかったです」


 【ガルド・ソイル】 

 ジオラスの10歳年上の兄。

 帝国騎士見習いの期間は僅か2ヶ月、最年少の15歳で帝国騎士団に入団し現在は帝国騎士団 帝都防衛ホグウィード部隊下級一等、四柱聖剣を除いた場合の序列は10番目だ。 

 

 騎士団に入団してからは1度も家に帰ってきたことがないため、女中期間が浅いルズガルは式典や催物などでしか会ったことがなかった。


 そうこうしているうちに身支度が済む。

 

 当時のガルドの背丈、剣導術と魔導術に合わせて創られた唯一無二の防具、ジオラスには少々緩い部分もある様だが全体的に意外となじんでいる。見た目以上に軽く、動きやすい。


「無事着れたようで良かったです」とエセンが戻ってきた。


「帝都の外れとはいえ、現在は帝国騎士選抜で少々警備が薄いはずですので、こちらをお持ちになって下さい」

 見た目の違う武器を二振り差し出した。

 

 片方はジオラスに合わせた大きさの片刃剣で、鞘は刃と背の部分のみを鋼鉄で覆い、腹が見える様な造りになっているのでかなり軽量化されている。


 もう一方は、樹木で出来た鞘に勿忘草色わすれなぐさいろの塗料が塗られ、銀獅子シゥレノの魔導金属彫刻エングレイブが施されている。鍔は防衛魔導陣を模った物が填めてあり、太すぎず細すぎない僅かに反った剣。


 母さんの剣


「エセンが一緒に来てくれるから大丈夫だと思うけど」

 僕が剣を持ったところで何も変わらない……


「見せかけでも良いのです。それにジオラス様が思っているほどジオラス様は弱くないのですよ」

 

 「ありがとう……」

 ジオラスはしぶしぶ剣を受け取り左の腰へ二振りを帯剣する。

 

 「フフッ では、出発いたしましょう」


 エセンはいつもの女中服に大き目の手持ち鞄と自身の剣を腰に下げ、玄関へと移動する。

 女中二人が扉を開け両脇に立ち「行ってらっしゃいませ」と深々とお辞儀をする。


 二人はまず客獣車に乗るため大市場シグンスへ向かうのであった。

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