第25話 制圧、スライムマンは変装名人!!
とある地方都市の高級マンション。最上階のワンフロアを占める広大な室内にも関わらず、むせかえる様に濃い酒と情事の匂いが籠ったリビングルームには、二十人以上の男女が寝転がっていた。
「ふあぁ……もう朝かよ」
僅かに開いたカーテンの隙間から届いた日の光によって、床の上で寝ていた金髪の若い男が目を覚ますと、ぼんやり室内の退廃ぶりを見回してから呟いた。
「あ〜、毎日こんなことしてたら、絶対早死にするな……」
すると、近くのソファーで寝ていた無精髭が生えた別の男が、フラつきながら起き上がって応えた。
「……マジ、ヤバいって。最初は役得とか思ってたけどよぉ、何か最近、自分が薄っぺらくなっている様な気がする」
「んあ? 何だ、お前も起きてたのかよ」
「昨日は昇天したまま寝たら、そのまま死にそうな恐怖があったんだ……」
「おい、冗談でも笑えねぇぞ?」
「冗談じゃねぇからなぁ……」
何処か遠くを見ている無精髭の男をよく見ると、その頬がげっそりと痩けている。
金髪の男は己の頬を手で撫でてから、嫌そうな顔で頷いた。
「……あぁ、色んな意味で、自分が薄っぺらくなったってのは言えてるかもな。
ここ最近の俺なんて、店への送迎が終わったら、昼は常にボウっとしてるわ」
「分かる。身体を動かす時は飯食うか、ヤルかの二択しかねぇもんな」
「……真面目に体力回復しねぇと腹上死するから仕方ねぇだろ。
はぁ、マネージャー組はスカウト組よりも絶対勝ち組だと思ったんだがなぁ──リアル酒池肉林がここまで身を削られるとは知らなかった件」
「淫魔ちゃんに誘われると我慢できんから、仕方ねーべ?
店の売り上げもエゲツないらしいじゃん」
「偉いおっさんがエロいおっさんなのは、この世の真理だからな。
どう考えてもヤバいのに摘発される気がしねぇのもウケるぜ」
「淫魔ちゃん達も一人暮らしか、家出したのが大半だし、家族がいても頭の中をピンクにしちまえば、メール一通でサヨナラしてくれるもんな」
「そもそも魔薬を取り締まる法律なんてねぇんだぜ?
合法万歳、俺達はクリーンなお仕事です」
「俺らが言うことじゃねぇが、世の中終わってるよな……つーか、壊れて廃棄された女とか何処行ったと思う?」
少しだけ声を潜めて無精髭の男が尋ねると、金髪の男は首を振って応えた。
「やめとけって。ヴォイドの連中に目を付けられたら洒落になんねぇだろ」
「……ちっ、分かってるよ。俺だって無理矢理バトル組にされるのはゴメンだからな」
「あ〜、ゴブリン軍団ね。まともなのが殆どいねぇし、結構な人数を女と一緒にヴォイドが回収してるらしいって噂だな」
「それを出世だとか言ってるヤツは頭がイカれてるぜ」
「同感だな。幹部候補の鬼頭がスカウト組のままな時点で、ゴブリンモドキのバトル組が捨て駒なのは確定だろうよ」
「鬼頭? あぁ、スカウト組の現場リーダーか? なんか凄え強いって聞いた気がする」
「この前、どっかと抗争した時も殴り込みに参加したらしいぜ?
それこそ鬼みてえに強くて、殆ど一人でヤッちまったって話だぞ」
「はあ? マジかよ?」
無精髭の男が驚いて素っ頓狂な声を出すと、金髪の男は頷いた。
「ああ。アイツも魔薬の使用者らしいが、ゴブリンじゃないとか言ってたぞ」
「え? 魔薬って、女は淫魔、男はゴブリンになるんじゃねぇのか?」
「さぁな? 特別な薬を手に入れたのか、相性みたいなのがあるのか……ファンタジー過ぎて分かんねぇよ」
「くく、確かにな。魔法の薬だとか、ラノベかよって思ったけど……淫魔ちゃん達の世話してると人間じゃなくなってるって、嫌でも感じるんだよなぁ」
「それな。……人格もどんどんエロくなってくし、アッチの具合も良くなるけど、俺らよりパワーがあるのは勘弁してほしいわ。
押し倒されると、搾り取られるまで動けねぇのがヤバい」
「なんか戦闘力がゴブリンモドキより上って噂も聞いたけど、高級ソープやコールガールにしか使わないのはいいのか?
視察に来る幹部が何か変な道具で定期的に命令してるんだよな?」
「あぁ、あの怪しげな魔法の腕輪か?
アレを使っても簡単な命令しかできねぇんだってよ。まぁ、本当にそうなのかは知らんけどな」
「アレもヴォイドから渡されたんだっけ?
はは、やってることは完全にヴォイドの下請けだよな」
「おいおい、あんまり本当のことを言うと睨まれるぜ?
確か今日も幹部の
「けっ、あの変態成金オヤジは遊びに来てるだけじゃねぇか。
毎日搾り取られる苦労も知らねぇで、いいご身分だよなぁ」
「酒池肉林の俺達が言うことじゃねぇ気もするが、事実なワケで──んっ? 誰か外出てたのか?」
金髪の男がリビングルームの先にある玄関のドアが開いた音に気付いた。
そして、玄関からリビングルームに繋がる廊下を歩いてくる足音が聴こえてきた。
「コンビニでも行って来たのかね?」
「俺は気付かなかったな。ってか、こんだけ人数いると、スマートロックってセキュリティがガバガバだと思うわ」
「あー、最初の頃は俺もビクビクしてたのに、最近は監視とか適当になってるな」
無精髭の男が苦笑いした時、リビングルームのドアが開いた。
「お邪魔しまーす。
……うわぁ、凄いことになってるね。
あ、おはよう。換気しないの?」
そう言って惚けた声で挨拶したのは、ラフなジャージ姿の優男だった。
「は? 鬼頭? 何でお前が此処に来てんだよ?」
「あ、そういやスカウト組の納品があっただろ? 確か大学のサークルに紛れ込んでお持ち帰りするとかって話じゃなかったか?」
「え? こんな朝っぱらに来たのか? いつもの納品は日が暮れてからだろ」
金髪の疑問に鬼頭は室内を見回しながら、適当な様子で答えた。
「納品? あぁ、キャンプのアレね。
なるほど……まぁ、それはそうとして、マネージャー組だっけ? 君らこの部屋に全員いるの?」
「何だ? 誰かに用事があるのか?
え〜と、昨日は全員参加で騒いだから、そのまま寝てると思うぜ」
「何人かは個室も使ってただろ? あ、ヤベぇな……根鳥さん来るなら個室のベッド綺麗にしないとキレるかも」
「面倒くせえな。まぁ代えはあるんだし、使ったヤツにやらせるか」
「根鳥さん? ん〜と、あぁ、脂ぎったおっさんの幹部だよね? そうか、今日は幹部の視察があるってことか……」
鬼頭が何かを思い出すと、唸りながら考え込み始めた。
「ははは、脂ぎったおっさんね……いいのかよ? 幹部候補様がそんなこと言っちまってよ」
「いやいや、あの変態オヤジが相手なら、仕方ねぇと思うぜ。
それに鬼頭はこの日に合わせて納品に来た理由が分かったわ。
あの変態は新しい淫魔ちゃんが大好きだからなぁ……根回しに来たってことだろ?」
「あ〜なるほど。なら接待係のヤツを探してるワケだな。あれ? 誰だったっけ?」
「今月のシフト表見りゃ分かんだろ。鬼頭、ちょっと待ってろ……」
金髪の男が動き出そうとした時、考え込んでいた鬼頭──来夢が決断する。
「よし、幹部が来るなら、下っ端のお前らはいらねぇな。
魔薬関連は警察に通報しても難しいみたいだし、モンスター以下の外道共は化け物の俺が始末しといてやるぜ。
そんじゃあ、
ズリュリュリュン!!
「なッ!?」
「どういうッ!? お前ら、起きろ!!」
異常事態を漸く察した二人の男が叫ぶが、その判断は致命的に遅かった。
無数に枝分かれした半透明の触手が、広々とした室内を埋め尽くす勢いで、床を這う様に住人達へ向かって伸びていく。
「「「ッ!? うわぁ!?」」」
「「「あ、アアァァン!!??」」」
半自律化された無数の触手は、寝惚けている男達を呑み込む一方で、魔紋が刻まれたグラマラスな女達を縛り上げていく。
「リビング制圧完了。残りの個室もさっさと終わらせるとして──このパターンって、淫魔化した娘さん達の治療もしなきゃいけねぇのか……?」
「「「アァッ!?」」」
「え? ライチ……? いや、アレは医療行為だよな……」
いつの間にか、ジャージの中から出て淫魔化した女達に触手を伸ばしているライチを、来夢は気にしないことにする。
「さぁ、お掃除を続けるとするぜ」
そして、鬼頭の姿を借りた来夢は、両腕を無数の触手に変化させたまま、犯罪グループの拠点を制圧していくのだった。
魔造人間スライムマン 〜どうやら異世界侵略の尖兵を造る実験体にされたらしいけど、余りにも弱すぎて魔王軍にポイ捨てされました〜 仮面ライター @kamen_writer
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