第24話 調査、スライムマンは伸びすぎてヒモになりかける!!

 蘭香の部屋に滞在すること三日目の夜。


 〈ヒューマンフォーム〉で人間化した来夢が、すやすやと眠る三人の美女達に挟まれながら頭を抱えていた。


「おいおい、俺よ。これじゃあ、完全にヒモ男だろうが!?」


 なぜか外見が若返ったとはいえ、一回り以上も年下の女を三人も侍らしている状態は、人間化状態の来夢を酷く苦悩させていた。


(ヤバいな。何がヤバいかと言えば、スライムの能力がヤバすぎる。

 やむを得なかったとはいえ、やり過ぎた感がハンパねぇぞ……。

 まさか、〈スライムヒール〉にここまで劇的な効果があるなんて──三人娘の目が怖すぎるぜ)


 この三日で分かったことだが、最初の〈スライムヒール〉だけでは、魔薬を飲まされた女達の身体を完治させることできていなかったのだ。

 かなり改善していたのは確かだったが、それでも一部がモンスター化したままの身体から、僅かな魔力が放たれ続けていた。


 故に来夢は医療行為を続ける必要があったのだが、〈スライムヒール〉には尋常ではない副作用もあったのである。


(健康にも限度ってモンがあるだろうが!?

 三人とも美人度五割増しは確実だぞ!?

 不可抗力だとしても、世間にバレたら不穏過ぎる能力だよなぁ……それとも俺の身体がスライムマンになって若返ったんだから、予想しておくべきだったのか? いやいや、それは理不尽だろ……。

 まぁ、まだ若い三人だから誤魔化しも効くけどよ……ただ、淫魔化の影響なのか、身体つきまで、少しずつ変わってる気がするんだよなぁ。

 これってあのヤリサー野郎共とヤッてること変わらないんじゃねぇか?)


 チラリと目線を動かすと、キングサイズのベッドに眠る三人の女が見えるが、身体の歪みが矯正されたのか顔つきが整って美しくなり、胸や腰のくびれがグラマラスになり始めている。


(これ以上は駄目だな……多分、今日で完治したと思うし、〈スライムヒール〉はもう使用禁止にした方がいいだろう。

 まぁ、ラン達は喜んでたし、滞在させてくれた三人への礼だと思えばいいのかもしれねぇが……流石に別人状態になったら、支障があり過ぎて恩返しにならねぇぜ)


 蘭香のマンションに滞在できたことは、来夢に次の行動を精査する余裕を与えていた。

 キャンプ場での尋問と、この三日間に調べた情報によって、来夢の状況把握が劇的に進んでいたのだ。




 まず、一日目にキャンプ場で奪ってきた現金の大半を使って、来夢の服装や靴などの外見を最低限ではあるが整えた。その際、基本的には〈インキュバスフォーム〉のサイズへ合わせて品物を購入している。

 よくよく考えると、〈スライムマンフォーム〉で戦えば、服装が無事で済むはずがないことに気づいたのだ。


 ワゴン車に乗って赴いたショッピングセンターで纏めて済ませた買い物は、蘭香達が協力したことでスムーズに済んだが、彼女達は自分達の服を選びながら、来夢にずっと疑惑の眼差しを向けていた。




 そして、二日目に来夢の自宅であった賃貸アパートや勤めていた会社を確認してきた。

 幾つかの県を跨いでいたが、一日目の夜中から移動することで早朝に到着できた。


 残念ながらアパートは解約されていた。また身内がいなかったため、私物もほとんど処分されていたが、銀行通帳や印鑑などの貴重品に関しては大家が保管してくれていた。

 更に来夢は若返ったことで本人とは名乗れずに困ってしまったのだが、なぜか大家である老婆が、来夢の言葉を簡単に信用して貴重品を渡してくれたのだ。


 流石にオカシイと感じたので、来夢が魔力感知によって調べた結果、〈インキュバスフォーム〉の魔紋から放たれた妙な魔力が、老婆に纏わりついて影響を与えていた。

 その魔力の性質が淫魔化した女達から放たれていたチカラと酷似していたことから、恐らく、【スキルコピー】された魅了か催眠の類いであろうと推測できた。

 慌ててその場を辞した来夢は、すぐに身体からチカラが漏れないように変化させたが、そうすると身体能力が著しく下がることも判明する。

 淫魔にとって魅了のチカラはパッシブスキルとでも呼ぶべき生得能力なのだろう。


 その後、勤めていた会社を訪ねたが、個人情報を得ることは難しかった。だが、元同僚を見つけて会話することで、須藤来夢が三年前に失踪して解雇になったことがハッキリと分かった。


 自分の後始末が全て済んだことを確認した来夢が、再び車を走らせて夜半に蘭香のマンションへ戻ると、獲物を待ち構える目をした三人娘が待っていた。

 しかも、寝室には前日のショッピングセンターで組立付き配送依頼をしたらしいキングサイズのベッドが設置されていたのだ。

 蘭香達にも魅了がバッチリ影響していることを悟った来夢は、医療行為をすることになり、身体の異変に気づいていた三人娘へ、ある程度の事情を明かすことにもなった。

 とは言え、明かしたのは来夢にヒーリング系の超能力があって、魔薬の治療をした副作用で肉体のバランスが整ったことで若干スタイルが変わったという、かなりグレーゾーンな説明ではあったが。




 最後の三日目に犯罪グループの情報収集を済ますことができた。

 一日目と二日目の間、服の下にライチを隠してひたすら魔力を注ぎ込んだことで、三日目の午前中にはオーガ魔人の吸収が終わったからだ。


 オーガ魔人を吸収したことで、スライムマンの筋肉は大きくならなかったが、質が急激に高まり、強靭且つしなやかな鬼の筋力による強大な身体能力が再現できる様になった。

 更に鬼頭という男の"記憶"をある程度覗くことができた。また、鬼頭の姿に化けられることにも気づいた来夢は、その姿を使ってヤリサー男達の住所を回ると、〈スライムテンタクル〉などの能力を使って侵入した。


 そして、侵入した部屋の中で犯罪グループに関わる証拠だけ確保すると、残りの痕跡を全てライチに溶かさせた。

 この隠滅行為は撹乱を目的としており、全ての住所で侵入を繰り返した後は、人目がない場所でキャンプ場から乗って来たワゴン車も一気に溶かしてしまった。


 その後は全てを終えた来夢が、鬼頭の姿から〈インキュバスフォーム〉へ戻って、遠回りをしながら蘭香のマンションへ戻ったことで、犯罪グループやヴォイドが鬼頭達の行方を追うことは不可能になった。




 マンションへ戻ってきた来夢だったが、淫魔化していた時よりも貪欲に美しさを求める女達に美容品代わりとして搾り取られることになった。激しい医療行為によって三人娘が眠った後、状況を整理するために人間化して現在に至る。


 因みに銀行口座を取り戻した来夢は、生活費やベッド代を支払おうとしたが、蘭香達は一円も受け取らず、金より医療行為をしてくれと迫って来た。完全にヒモ男の状態である。


(とは言え、この娘さん達と関わること自体が、今日で最後かもしれねぇのか……。

 明日以降はマンションに戻らず、犯罪グループの拠点を潰していくことになるからな。

 鬼頭の"記憶"が正しければ、残りの戦力でオーガ魔人を吸収した俺に勝てるヤツはいなさそうだが、ヴォイドから淫魔化した女を回収しに来る予定があるってのは問題か?

 ……流石にそいつらを倒して情報を奪うのは苦労しそうだよな。

 まぁ鬼頭の顔を使って安全優先で始末していけばいいか。……人間化してても随分と物騒な考え方をするようになっちまったぜ。

 うーん、俺って客観的に見ると、かなりヤバい人喰いの化け物だよなぁ?

 だけど、普通の人間じゃあモンスターなんてどうしようもねぇんだ。結局、魔王軍とやり合うつもりなら、化け物くらいの在り方で丁度いいんだろうな……)


 そうして、来夢は犯罪グループとの戦いに備えて休息すると、明け方に書き置きだけを残してマンションから出ていくのだった。



 

 


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る