第23話 送迎、スライムマンの深夜ドライブ!!

「やっぱりマッチョな身体の方が、触手にもパワーがあるなぁ。

 それに〈スライムテンタクル〉が、腕とか肩からも出せるのが分かって安心したぜ」


 スライムマンとしてのマッチョな身体に戻った来夢は、の後に眠ってしまった三人の女達を、肩から生やした触手を使ってワゴン車まで運んでいた。

 複数の触手が女達の荷物にも巻き付いて、全てを軽々と持ち上げている。


「ほいっと。そんでシートベルトを着けとけば、準備オーケーだな。

 ライチ、出発するから戻ってこい」


 後部座席に女達を座らせた来夢は、必要なくなったテントを溶かして処分させていたライチを呼び寄せた。


 ポヨン、ポヨン。


 弾みながら戻ってきたライチを肩に乗せると、来夢は少し考えてから淫魔化した姿に変化する。


「うーん、この淫魔化した姿を〈インキュバスフォーム〉、マッチョな姿を〈スライムマンフォーム〉、人間化した姿を〈ヒューマンフォーム〉ってことにするか。

 そんでもって、この魔紋をホイッと」


 淫魔化状態になって浮き上がった魔紋が、肌の色に染まって消えていく。

 魔紋の上に〈スキンペイント〉を重ねることで紋様を隠したのだ。


 そうして魔紋が消えた来夢の姿は、妖しい色気のある美青年となっていた。


「よし、これで普通の人間に見えるだろ。

 須藤来夢の姿を晒すのは怖えが、流石にパツパツのジャージを着たマッチョマンじゃ怪しすぎるからな。

 そんじゃあ、後始末も完璧に終わったし、行くとするか」


 キャンプ場内を見回した来夢は、そのままワゴン車の運転席に乗り込むと、後始末の際に男達から奪った鍵でエンジンを始動した。


(さて、娘さん達を送った後で、俺の家を一度確認してみるか。

 ちょっと無駄な気もするがな……。

 まさか、あの日から三年も経ってるとは思わなかったぜ)

 

 そして、ワゴン車がゆっくりと加速しながら出発すると、男達の痕跡が一切消えてしまった不人気キャンプ場は、例年通りの静寂に包まれるのだった。

 



「う、ん……ここは? あれ、車の中?」


 カーナビに従って二時間程度進んだ頃、後部座席の方から女の声が聴こえてくる。


「ん? お嬢さん、起きたのかい?」


 来夢がチラリとバックミラーを見てから応えた。


「え? あ、はい。私、何で車に……」


「なんだかんだで夜中の三時だからな。まだ寝ててもいいんだぜ?

 一応、お嬢さん方が通ってる大学の近くで降ろすつもりなんだが、必要なら家まで送っても構わねえよ」


「大学? 家? ……もしかして、キャンプ場から帰ってるんですか?」


「ああ、そうだぜ。道が空いてるから三十分くらいで着くんじゃねぇかな」


「え〜と、鬼頭さん達は……あの、貴方はどちら様でしょうか?」


「俺か? 俺は……ライムって呼んでくれ」


「ライムさんですか……サークルの方ですよね?」


「いいや、違うぜ。というか、何も覚えてねぇのかい?」


 来夢が尋ねると、女は不思議そうな顔をしながら直近の出来事を思い出そうとした。


「え? ……あれ? ッ!?」


 そして、顔色を急激に青ざめさせながら、未だに眠っている友人達を揺り起こした。


「ランさん、レナさん、起きて!?」

「んぁ? どうしたのルリ?」

「うーん? なんだか凄く身体が軽いわね」

「二人共、しっかりして!!」

「なッ、何!? どしたの?」

「ルリちゃん落ち着いて!?」

「私達、キャンプ場で鬼頭さん達に襲われたんです!!」

「「ッ!?」」

「え? ……ああッ!? あのクソ野郎共が!!」

「そうよ!? 思い出した……絶対許さないわ。早く警察に通報しないと!!」

「そうね。あのクソ共に襲われて……襲われてどうなったんだっけ?」

「怪我とかはしてないね? そういえば、何か変な人に助けられたような……」

「うーん? 確かに誰かが鬼頭達をぶっ飛ばしてた気がするわね……」

「あの、多分、あの方が助けてくれたんだと思います」

「「あの方? ……誰ッ!?」」


 賑やかな女達の会話に来夢は苦笑する。


「ハハ、俺はライムだ。まぁ、成り行きでお嬢さん達を拾ってな。

 キャンプ場に放置するワケにもいかねぇから、車に乗せて連れてきたんだ」


 それから、来夢は都合の悪いことを隠しつつも嘘にならない事実を三人に伝えた。


「鬼頭さん達が、犯罪グループのメンバーだったんですか……」


 中澤瑠璃と名乗った大人しそうな女が、顔を強張らせて呟く。


「ヤリサーの可能性は考えてたけど、本当にクスリを使うとはね……迂闊すぎたなぁ」


 上原蘭香と名乗った強気なギャル風の女は、悔しそうな表情で反省していた。


「絶対許さないわ。二度と表を歩けないように潰してやるから……」


 下村玲那と名乗った派手な印象の女の恨み節が、ブツブツと聴こえてくる。


 それらを確認した来夢は、言葉を選びながら本題を告げた。


「鬼頭だったか? アイツらの関係者にはできるだけ関わらない方がいいぜ。

 テニスサークルとやらは当然だが、大学にも暫く行かない方が安全だ」


「あの、警察には……」


「ちょっと言い辛いんだが、アイツらが所属してたのは、かなりヤバい犯罪グループの下部組織らしいから、警察に通報するのは逆に危ねぇかもしれねぇぜ。

 ただ、アイツらが現れることはもう二度とねぇだろうよ。

 近い内にサークルなんかも消えるんじゃねぇかな?」


「まさか、鬼頭さん達……」

「えぇ!? 怖いんだけど」

「そんな……報復できないなんて……」


「まぁ、その犯罪グループも結構な化け物に目を付けられてるから、すぐにお嬢さん達へ関わる余裕もなくなるだろうがな……。

 というワケで、俺としてはできるだけ外に出ないよう、家で大人しくしてるのをお勧めするぜ」


「化け物? ……そういえば何か凄いモノを体験したような」

「何かよく分からないけど、確かに警察が動いても私達を守ってくれるとは限らないよね」

「悔しいわね。幸い、大学は暫く夏休みだから、引き篭もっても問題ないけれど……」


 危険な犯罪グループに再度狙われる可能性を知って、女達が警察への通報を悩んでいる間に、車が目的地付近へ到着する。


「ん? ここら辺か……上原のお嬢さん、あのマンションでいいのか?」


「え? あ、そうよ。それと私のことはランって呼んでね」

「あ、私もルリと呼んでください」

「仲間外れは嫌だから、レナでいいわよ」


「はいよ。んじゃ、ランのマンションにルリとレナも降ろすぜ?」


「はい。ランさんお邪魔しますね」

「迷惑かけるわね」

「ルリとレナは実家だから、キャンプ期間を誤魔化すのが面倒でしょ?

 正直、私も一人じゃ怖いから、お泊まり会は歓迎だよ」


 そして、マンションの前に車が到着する。


「よし、到着だ。荷物は纏めてトランクに入れておいたから、すぐ出してやるよ」


 運転席から降りた来夢がトランクから荷物を出していると、後部ドアから降りてきた三人がその姿を見て声を上げた。


「ライムさん、ですよね?」

「うわ、何か凄いフェロモン男だね。ちょっと身体が熱くなってきたかも」

「何か見覚えがあるわ……何処かで会ったかしら?」


「ん? どうしたんだ? 早く荷物を確認してくれよ」


「あ、はい。分かりました」

「え〜と、私の荷物は全部あるね」


 瑠璃と蘭香が荷物を確認していると、


「あのクソ共が全部準備するとか言ってたから、そんなに持って行かなかったけど……ちょっと運ぶのは大変かもね」


 玲那がチラリと来夢を見ながら言った。


「……はぁ、だったら俺が部屋の前まで持ってくか?」


 それに対して、女達に負い目がある来夢は、ため息を吐きながらも応じるのだった。


 すると、三人が顔を見合わせて、


「「「お願いしま〜す」」」


 と、笑顔で告げる。


「…………まぁいいけどよ」


 図太い女達に呆れながら荷物持ちとなった来夢だったが、結局、お礼を名目に蘭香の部屋へと連れ込まれる。

 更に襲われそうになった恐怖を忘れるために酒盛りを始めた女達が暴走したことで、再び三人とに励むことになった。


 それから三日が経過しても、来夢はマンションに滞在していた。

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