踊る

わたくし

雨の中で

 貴女との想い出の始まりは、消し忘れた煙草の様に私の心の中で燻り続けている。


「雨の中、傘をささずに踊る人間ひとがいてもいいわ」

「それが自由というものじゃない?」

 そう言って、貴女は傘を持たずに雨の中でクルクルと回り出す。

 私は傘を持ったままそれを見つめ続ける。

 そんな無邪気な貴女に私は魅かれていた……


 私が貴女を追い続けたから、貴女は私から逃げていく。

 そう思っていたが、それは間違いだったと今は感じる。

 貴女は人目を気にせずに自由に踊っているだけだった。

 私はその踊りに参加する資格が無かったのだ。

 私自身が貴女との距離を開けていたのだ。

 そして、私の前から貴女は消えていった……


『人生』と言う名の先の見えない道を

「右か?」「左か?」

 と迷っている時に、私は貴女の姿を思い出す。

 踊る貴女の幻影を追いかける様に、私は進んで行く。



 今も貴女は雨の中で自由に踊っているのだろうか……

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踊る わたくし @watakushi-bun

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