第12話 小さな小さな疑問の種


 暗くなった天井に小さな橙色の照明。

 さっきまでは気にならなかった通路から小さく聞こえるヴゥーという空調の音。

 家とは違う石鹸の匂いに、いつもと違う毛布。


 外の様子は見えないけれど、輸送機の中でも夜になると明かりが少し暗くなるようで、今はもう寝る時間だ。

 長椅子に渡された毛布に包まって横になって天井を見ている。


 薄暗くなって天井以外見るものがない状況で色々考える。


 今の所乗り物酔いにはなってないないし、体調も問題ない。


 夜ご飯もきちんと食べた。

 夜はスープ、甘じょっぱいお肉と葉菜類を薄いパンで巻いたものだった。

 軍人用の味付けと量だったのでちょっと味が濃かったし、量も多かった。

 美味しかったけれど一つ食べたらお腹が苦しくなってしまった。


 無理に全部食べる必要はないとは言われたけれど、食べ物を残すのは勿体無いし子供の頃にしっかり食べないと体も成長しない。

 子供の頃にはよく食べてよく寝ることで体は成長するので、この世界では父のようにムキムキな体になってみたいものである。


 それと相変わらずトイレは毎回ついてこられた。

 隠しても音を聞かれるのがすごく恥ずかしい。



 シャワー浴びる時もまさか一緒に入るのかと思ったけれどそんなことはなかった。

 ちょっと期待もしたけど、ホッとしたのが本音だ。

 シャワー室が大型の獣人も使えるサイズとはいえ二人だと体を洗いにくいし、一緒に入ってると警備しにくいからという理由だったのは聞いた。


「一緒に入りたかったですか?」と聞かれて鼻の下を伸ばさずに、首を横に振った自分を褒めたい。

 決して真面目キャラを目指しているわけではないけど、ちょっとの時間でもいいから一人になる時間が欲しかった。


 ちなみに扉の前でタオルを持って待機してたエーキノさんに体を拭かれたので結局恥ずかしかった。


 エーキノさんがシャワーを浴びる時は別の教会関係者が二人、私のいる個室に来て見張られていた。

 覗きになんて行きませんよと心の中で呟いたけど、改めて常時見張られているんだなぁと感じた。


 今、私は毛布に包まって横になっているけど、エーキノさんが対面の椅子に座って薄明りの中で本を読んでいる。




「暗いところで本を読むと目が悪くなっちゃうよ?」

 まだ眠れそうにないのでちょっと話しかけてみた。


「ノア君は暗いところで本を読んじゃダメですけど、私は大人なので大丈夫なんですよ?ノア君は寝れませんか?」


「ちょっとだけ眠いです」

 

 正直なところ眠くはない。


「ふふふ、きちんと寝ないと大きくなれませんよ?」


「魔法がいっぱい使えるようになりたいです」


 魔力を増やしたい、これは本心だ。

 私は魔法で火を起こしたりはできないけど、せっかく魔法が使えるのだし、使えるものは増やしたい。



「魔力を増やすには子供の頃にきちんと寝てないとダメなんですよ?それに体を鍛え過ぎないことも大事です」


「鍛え過ぎちゃダメなんですか?」


 これは初めて聞いた。子供の頃に筋肉をつけ過ぎたらいけないとかそういうことだろうか。



「男の子より女の子の方が魔力を増やしやすい理由は、男の子が成長期に魔力を増やすことより体を鍛えて体を大きくする方に夢中になるけど、女の子はそこまで体を大きくするために鍛えないからなんですよ」


 ??ムキムキになると魔力が増えない?

 意図的に体を大きくする方法がある?

 ムキムキでガタイのいい魔法使いになるのは難しい?

 今まで魔力を増やす方法は、魔力を使い切らずに、よく寝てよく食べることで魔力を増やす、ということしか知らなかったのでこれはすごく気になる。

 

思わず体を起こしてエーキノさんの方に向いてしまった。



「お父さんみたいに大きくなったら魔法いっぱい使えないの?」


「ノア君のような魔人種の男の子が体を大きくするには、魔力を使い切った状態で体を鍛えるんですよ。そうすると魔力があまり増えずに体が大きくなるんです。魔力を増やしたいなら、魔力を使い切ることはせずにあまり体を鍛え過ぎないことが大事よ」


「そんなに魔法を使える量が変わっちゃうの?初めて聞いた」


「男の子は体を大きくしたがりますからねー、女の子は魔力を使い切って体を鍛えても大きくなって欲しいところが成長するわけじゃないので…。とにかくノア君も魔法がいっぱい使いたいなら夜はちゃんと寝ましょうね?」


「わかりました、寝ます」

 男女でも増え方が違うのか、これは後でタイミングを見てもう少し詳しく聞き直した方が良さそうだ。



「いい子ですね」


 彼女はくすくすと笑ってこちらを見ていた。




 すごい気になることが聞けた今の状況で、ものすごく聞きたいことがあるけど、これ以上会話を長引かせることはせずに撤退。

 本当は今すぐ聞きたいことがいっぱいあるが、今の状況で色々聞くのは違和感を持たれそうだからだ。




 もし私が五歳じゃなければ、色々疑問に思ったことを聞いてもおかしくない年齢だったなら、この世界で疑問に思っていて今まで聞けなかったことを聞いていたと思う。

 まず魔法のことでも軍人がどんな魔法を使っているのか、その威力、効果範囲等を知りたい。

 そして可能であれば見たい。

 私が使えない種類の魔法もどんなものがあるのか知りたいし、知らなければ対処のしようがないので正直怖い。



 なんで?なんで?と子供が使う質問攻撃を使ってもう少しだけ聞いてみてもいいかもしれないけど、質問する内容が漠然とした内容ではなくなっていきそうで絶対にボロが出そうだ。


「魔法で水を生み出し続けたらこの星の水の総量はどうなるんですか?」とかすごく聞きたい、聞いてみたい。

 エルフの夫婦に魔法でいっぱい水を生み出したら海作れるの?と聞いてみれば良かったと今になって思う。


 聞きたいことや知りたいことが沢山あり過ぎて、油断するとすぐ子供っぽくないと思われそうで怖い。

 今も五歳にしては物分かりが良い子とは思われているだろうし、前世での人生経験、この世界以外の知識とかいう爆弾は可能な限りしまっておくに限る。



 それ以前に知らない言葉や文字がまだまだあって、もし説明されても理解できる自信がない。

 あとは言語チートというものが欲しい、初めて聞く単語があると非常に困る。


 前世で覚えていた言語のせいで、外国語を一から覚えている感覚がしてたまに一瞬理解が追いつかなくなる。

 母国語でも使わないと忘れるというけれど、まだ忘れるほどじゃない。


 これもまた今後の課題だ、今はまだなんとかなっているけど前世の知識や常識が邪魔をして、緊急時でも理解や行動が遅れることも絶対あると思うし、とにかく知識を蓄えて理解できることを増やしたい。



 とにかく今後どうなるかがわからないので今は寝て体を成長させることにする。

 わからないことをいつまでも一人で考えるより、成長期のこの体をきちんと成長させるのが一番効率がいいはずだ。




 ところでどこまで輸送機で移動するんだろう。

 すごい気になってきた。

 これくらいなら流石に聞いてもおかしくないだろうし聞いてみることにする。



「エーキノさん、あとどれくらいしたら付くんですか?」


「うーん、遅くても明後日にはこの輸送機から降りて、目的の場所に着きますよ」


 読んでいる本からこちらに顔を向けた彼女が少し考えた後教えてくれた。



「わかりました、おやすみなさい」

 このまま起きているとどんどん知りたいこと、気になることが増えてきてしまうので頑張って寝ることにする。

 



「はい、おやすみなさい」

 彼女は少しの間私の方を見ていたけどまた本を読み始めた。





 まだもう少しの間この状況が続くらしい。

 毎日のように魔法の練習をしていたので、明日はシャワーの時にほんのちょっとだけ魔法の練習をしたい。


 輸送機の中で魔法を使っても良いのかわからないけど明日起きたら聞いてみよう。

 とにかく魔力を増やすために早く寝よう。




 おやすみなさい。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

原初は宇宙を見る かいわれだいこんぶ @renkonkon

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ