第17話 にゃん歴979年11月②
ヘイスティングさんやキャシーさんが作戦本部より出された009部隊の任務について、ところどころぼかしつつ説明されるのを聞いて、僕には教えられないことでもあるのかという思いもあったがおおむねの流れは理解できた。
009部隊の初任務としては、近々合衆国が新兵器を導入した何らかのテストを基地周辺で行われるので偵察とできれば新兵器を強奪すること。ただ、今回ソフィーさんが立案して作戦本部によって認可された作戦では、009部隊として出動するのではなくエルウィンとして任務を遂行していてたまたま現場に鉢合わせるというシナリオらしい。その為、装備は新兵用の標準装備であったり、部隊員が直接バックアップすることが難しい。かろうじて、最新の試作通信装置で状況の確認や指示の受け取りだけはできる。この装置は、肌に貼るだけで使用できるが、使い捨てなうえに稼働時間に問題があるのでポイントについて、動きがあるまでは使用できない。もし、本格的な交戦が起こるようなら、基地に救援の連絡が入りアルベルトさんが来てくれる手はずになっている。しかし、それまでは一人で対処しなければいけない。今回の任務で優先されるのは合衆国側の企みを阻止することと、敵味方共に009部隊について秘匿することにあり、周辺地域や同じ場所に行くであろう味方兵には全くの配慮がなされていない。同行することになるだろう味方のリストを見た僕には、命令書には書かれていないが、むしろ味方を盾にして時間稼ぎをしあわよくばアルベルトさんと合流する前に目撃者となる可能性がある味方は全員処分されている状況になるよう調整されている感じがした。
「なんとも、悪意のある人選だな。作戦にかこつけて掃除までしろってか。ウィル坊、本部の思惑にのる必要はねえけど、無理してお前がやばい状況に陥るのもなしな。慎重に行動して、守るべき大事なものに順番を決めて割り切れよ。俺もできるだけ急いで現場行くからよ。」
「今回は、軍も対合衆国にむけて内部を掃除する作戦が進んでいる一環です。帝国軍は、良くも悪くも一定の周期で新陳代謝をおこないますが、今回はさしずめ特務部隊が1から9までそろったのを契機に始めたのでしょう。」
「先輩は、掃除作戦に参加するため今回の作戦には直接的なサポートができない
のです。私も今回は、この基地から帝都にいるフランちゃんと一緒に情報面での調査にあたりますので、そちらをサポートできないのですよ。」
「全体の指揮はソフィア副隊長が本部から行います。今回は敵の狙いもあまり分かっていないですが、新兵器を事前に奪取することで合衆国の出方と新生009部隊の実力を知りたいというのが本部の思惑でしょう。ウィリアム隊長なら大丈夫だと思いますが、未知の状況であまり無理をなさらないでくださいね。」
「皆さん心配ありがとうございます。出来る限りのことはしてみようと思います。」
ブリーフィングが終わったあと、僕はなんとなく射撃訓練場に足を向けた。会議自体終わったのが遅い時間なのもあり、都合よく誰もいなかったので009部隊向けのメニューをこなしつつ考え事をしていた。
まず初めに頭に浮かんだのは、今回はじめに同行するメンバーたちであった。基本新兵は所属があるわけではなく任務にごとに組むメンバーが変わるのである。半年間の訓練やこの任務にあたる態度や結果によって、適性を見極めて正式に各部隊に配属されるのである。ただ、2か月目で切り捨てられるということは本人に適性がないか問題が多いかだろう。今回のメンバーは問題が多いパターンである。ウィル自身は新兵という身分を隠れ蓑にしているところもあり、新兵部隊内で特に親しくしているものはいない。それでも、今回のメンバーが、規律を破って遊んでいるところを目撃されていたり、任務を平気でさぼっている噂を耳にしている。普通なら、指導官から厳重注意や罰則があってしかりだが何もなかったのはこういうからくりかと思いいたったのである。軍としては今回で使い潰してもいいし、よしんば生き残って更生するなら良し。それすらしないなら別の任務で使い潰すのだろう。ウィル自身超人でもないので、物語に出てくる主人公みたいにすべてを救ってうまく任務を達成できるのなら見捨てることを良しとはしないだろうが、あいにく自分の手はそこまで大きくない。ウィルは、彼らの優先度を下げることとした。積極的に排除はしないが任務の邪魔になるようであれば切り捨てる覚悟をしながら、動力銃の引き金を引くのであった。
他にも、今回の任務について改めて思い直すと不明瞭な点が多すぎると思った。普通、作戦本部から回ってくる任務などは来る頃には決着までの道筋が出来上がっているものである。成功率が低い作戦は却下され成功率が高いものが採用されるから当たり前である。しかし、今回ウィルが目にした命令書には、作戦目標ですらあいまいで現場の判断で動けとは聞こえがいいが要は行き当たりばったりである。一瞬ウィル自身も捨て駒にされているのかと疑ったが、仲間たちの口ぶりではそうではないみたいであった。わからないことだらけであったが、分からないことを今うだうだと考えても仕方がないと割り切ったところでちょうど訓練が終了した。
命中率などの項目が90%の訓練結果を見てウィルは、やはり自分には昔憧れていた物語の英雄みたいな力はないんだなと思った。
とある貧乏貴族の話(仮) @blumugi
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。とある貧乏貴族の話(仮)の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます