第16話 にゃん歴979年10月

 元帝国の密偵が、部屋から出ていったのを見計らって局員は、声をかけた。


 「ドクターお疲れ様でした。いつ見てもほれぼれする手草ですね。」


 「うふふ。ありがとう。やっぱり女の子はいいわね。それも自分は大丈夫と思っている子なんて最高よ。」


 「では、あのチワワに持たせる情報はこちらで用意します。」


 「頼んだわよ。女の子もいいけど、まだ成長しきっていない青い果実もいいものよね。まずは、男を知ってもらうかしら?身も心もずたずたになってから、私が慰めてあげるのもいいわね。私に依存させて最後は家族の前で首を切って収穫してあげるわ。うふふ。早くいらっしゃい。ウィリアム=レイ。」


 復讐の炎を宿らしている瞳の中に、ほの暗い情欲が混ざる姿はとても妖艶であった。ドクターに引き込まれそうな心に戦慄しながら、本気で迫れば逆らえないと考える局員であった。



 こうして、裏切者によって、帝国にもたらされた情報は幾重にも合衆国の情報局による加工がされていることまでは分かっても情報部や003部隊では解読できなかった。それならばと、キャシーのもとに仕事が回ってきたのである。情報に施されていた罠自体はすぐに解除し中身を解読できたが、その内容がどうもきな臭かったのでさらに奥を探った。そうして、ドクターたちが会話している画像と音声データに行きついたのである。そして、情報の確認を始めた瞬間ぶちぎれたキャシーが、確認を終えりと共に拳を振るった。振るわれた先の机は、見事に真っ二つに破壊されたのであった。物にあたって少し冷静になってから、情報部に子細を報告し、同じものを009部隊のウィル以外にも転送するのであった。

 送った瞬間に、帝都から地方に出張中のソフィーから返信があった。


 「キャシーさん。この情報は本当なのですか?本当ならすぐにでも集まる必要がありますね。こちらで予定を調整します。来週頭には帝都に戻りますのでそこで詳しく対策を立てましょう。」


帝都近郊009隊舎


 「皆さん、忙しい中お集まりくださりありがとうございます。大佐から言われていたあのふざけた任務に取り掛かる前から、ウィルに悪い虫が飛んできたみたいです。アルベルトさんは既にウィルの身辺警護のレベルを上げてもらっているのと、ヘイスティングさんは調べ物があるとの一言残して出張に出られたのでこの場にはいません。」


 「ヘイスティング先輩のあんな顔初めて見たかもしれません。」


 「ソフィーさん、キャシーさん。ヘイスティングさんからたった今連絡が、黒とのことです。」


 「ありがとうございます。これで今回のターゲットは2匹。年増の毒婦と裏切者のチワワです。誠に遺憾ながら、毒婦については殺害の許可が出ませんでした。」


 「何を考えていますの上層部は?ウィルちゃんを狙う淫売なんて抹殺に決まってるでしょうに。」


 「キャシーさん。落ち着くのですよ。あんな年増ですけども悔しいですが動力学においては大陸一の頭脳の持ち主です。できれば手に入れたいと上層部は考えているのでしょう。」


 「仕方ないですわ。まず最初にこれから例の画像をお二人にも見せます。が、はやまって物にあたってはいけませんわよ。」


 画像を見終わったあと、“3人”の拳によって新調した机はまたも破壊されたのであった。


 「やっぱり、事故に見せて殺してしまいましょう。ウィルにあの毒婦の存在すら知られてはいけません。」


 「激しく同意したいのですけれども、残念ながら難しいわ。あの年増、記録を調べてみたところ外に出て来ることがほとんどないみたいなの。あの女のところまでたどり着くにはそれ相応の準備が必要だわ。」


 「くっ、仕方がないわね。それならまずは些末なことから片付けましょう。司令部からのオーダーは、裏切者の始末とこのノイズというコードネームの兵器の実態をつかむことと、可能であれば奪取することよ。」


 「裏切者については、情報部が対処すると思うわ。ただ、人選は100%先輩だろうから、そのノイズというものに対処するのはウィルちゃんとアルベルトになりそうね。フランちゃん、ノイズの詳細は分かりそう?」


 「すいません。あの年増博士がかかわっている以上。合衆国の新型動力兵器だと思うのですが、情報が少なすぎてわかりません。ただ、あの研究ラボの記録を見せてもあった感じだと、巧妙に隠されていましたが魔物の死体の破棄が多かったのでもしかすると魔物が関係しているかもしれません。」


 「ありがとう、フラン。あの年増がテストとも言っていたことを考えると、裏切者がウィルを誘導したがっているポイントが怪しいわね。キャシー、それについて何かわかっていることはない?」


 「う~ん。ウィルちゃんがいる基地のギリギリ哨戒範囲で、辺りは森が広がっているみたいなの。あと、近くに開拓村があるわね。」


 「なるほど、それを踏まえて作戦を考えてみるわ。」


 3人よる会議は翌朝日の光が入ってくるまで続けられたのであった。

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