第15話 ワン歴329年10月 ???

 事の始まりは、情報部に合衆国に潜伏している密偵からある一つの情報が送られてきたことによるという。その情報は、秘匿性が高い上に重要とみられてキャシーさんに暗号解読する仕事が回ってきたそうだ。


わんこ合衆国とある企業のラボ


 厳重なセキュリティを抜けた先にある研究室に、一人の女性がとあるファイルを眺めていた。この女性は、抜群のプロモーションを誇っており10人が10人とも美人だという容姿だけではなく、頭脳も大陸でもトップクラスを誇っている天才科学者である。ファイルを見るその姿だけでも絵になるし、同性であってもその魅力にあがなうのが難しいとファイルを渡した情報局の局員は思った。


 「これが、お願いしていたものなのね。」


 「はい。ドクターのオーダー通りの品物かと。いまさら、この子供たちを調べて何をなさるつもりですか?」


 「うふふ。それはね。世界で一番楽しいことよ。7年前に世界で一番大切なこの私を傷つけたあの男のことですもの。あいつは死んだと聞いた時はほっとした自分が今でも憎いですわ。男に子供が居なかったのは、ひどく残念だけどこの甥姪に責任をとってもらいましょう。罰は一族郎党が受けるべきよね。」


 女の目の奥にほの暗い闇の炎が燃えているのを見て局員は身震いをするのであった。


 「さようですか。ドクターお遊びもいいですけどこちらのお願いしていたものは?」


 「うんうん。まずはこの子がよさそうね。ついでに泥棒猫を調教してノイズのテストもやらせれば文句ないでしょ?」


 「はい。ではあの猫をこちらに誘導しますね。」


 といった局員は、端末の先にいるであろう部下に短い命令を伝えたのであった。


 「あ、そうだ。あなたもぜひ参加して頂戴な。そっちもいけるでしょ?」


 「了解しました。こちらも顛末は見届ける必要があるので。手が必要ならお貸しします。」


 局員は、本当は嫌だけれども上からはドクターの機嫌を損ねないよう言われているためあきらめの境地で待つことにしたのであった。


 そして数分後。


 「ドクター。お呼びと聞きましたが何かありましたか?」


 この女性は、帝国が合衆国の調査の為にはなった密偵の一人である。研究員としてこのラボに立てるだけの技術を持った優秀な駒であったが、そんな彼女をしてもこの呼び出しが何か察知することができなかったのである。その一つの失策が彼女の運命を狂わすこととなる。


 「最近ね。わたしの周りに、わる―い泥棒猫がいるのよ。困ったことよね。あなた、どうしたらいいと思う?」


 女は、目の前の笑顔なのに目が笑ってない対象をみて自分がばれたことを悟った。この場をどのように切り抜けようかと、素早く眼を動かしていると逃げ道をふさぐようにもう一人女が立っていることに気付いたのであった。


 「そこで私考えたの。泥棒猫にお仕置きして私にしっぽを振るチワワにすればいいのだと。猫と違って犬は主に忠実に尻尾を振る生き物でしょ?ねえ、あなた。泥棒猫は男に対しては免疫あるでしょうけれど、こっちはどうだと思う?」


 妖しい目をして近づいてくるドクターから距離を取るため後ずさりするが、衣服を脱ぎながらすぐに距離を詰めてくる彼女から逃げることはできなかった。自分のブラウスのボタンを外されながらきめ細かなきれいな手が自分を撫でて首筋に息をかけられるだけで、お腹のあたりがキュッとして熱くなるのに戸惑ってしまった。


 「あら、あなた案外うぶねえ。これだけで感じていってしまうなんて。しょせん男なんて適当に合わせて声出してれば満足するから耐えられるとでも思った?あなたみたいな泥棒猫は昔からこちらのほうの耐性がないと相場が決まって者よ。どれだけもつかみものね。」


 その言葉を最後にいつの間にか背後にいた女性に体を拘束されて抵抗することもできない状態にされて、最後の抵抗にと声をかけるのであった。


 「こ、こないで。私は何のことかわかりません…」


 「あらあら。あなたのここは何か言いたいみたいだわよ。」


 そのあとどれくらいの時間がったのであろうか、床には帝国の密偵だった女の愛液で水たまりができており、当の本人は焦点の合わない瞳で上目遣いにドクターを見上げて、ハアハアとした息遣いで尻尾を振るかのようにお尻を振っている立派な犬が出来上がっていた。


 「あらあら。立派なチワワになったこと。そんなチワワにお願いがあるのよ。いうこと聞いてくれたらご褒美にもっと気持ちいことしてあげるわよ。」


 「ハアハア。私は卑しい卑しいチワワです。どうか、ご主人様のお情けを。」


 「そう?ならね。この男が国境付近にいるらしいのよ。周りを処分して後腐れなく連れてきてくれない?」


 「わんわん。承知しましたわん。」

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