第14話 にゃん歴979年11月①

 エルウィン=シャードとして基地に配属されて早2か月が過ぎようとしていた。この2か月は特に変わったこともなく、新しい生活になれるための日々であった。


 009部隊が発足した次の日、ヘイスティング曹長は次の任務地に向かうと出ていき、ギルモア大佐とフラン少尉、ソフィー少尉、キャシー伍長は、帝都での仕事があるとのことで来た時にも乗った輸送機で帰っていたのである。ついでに僕をやってくる新兵たちとの合流ポイントに置いて。その際、呼び方が固いのがきになるとのことで身内しかいない場では、愛称+姉さんで呼ぶように誘導されそうであったのを、さすがに恥ずかしいのでさん呼びで許してもらった。


 アルベルト軍曹は、そのまま基地に残っておりやってくる新兵たちに地獄の特訓を課している。もちろん僕もこれに参加しており目立たないように周りと同程度の結果になるように調整はしている。ただ、周りの目がない夜間に行われる訓練は日中の地獄の訓練が天国と思えるものに変わっており、夜間の巡回当番の日がむしろ休みに感じられるほどであった。


 学生たる本分の学業に関しても、訓練の合間や軍の任務が休暇の日に固めて行われる。これは軍の先端技術である画像付きで通信を送る技術のおかげで、遠隔地でその時間に受けていなくても後日同じように受けられるという、僕的にあまりうれしくもないが特務部隊に所属していることで受けられる特権であるらしい。もちろん、この技術は秘匿されているため、少ないが存在している普通の学生兵は、10~12週間は軍で任務が終わった後に渡された課題をこなし2~4週間は学園に帰って授業やテストを受けるらしい。


 そして、もちろん009部隊の仕事もあるのである。といっても今は情勢が安定しているらしく、書類整理や支給品の申請などの雑務がほとんどである。他の隊員は籍のある部隊で使うものはその部隊で支給されているため、実質稼働していない009部隊からの申請は少ないから仕事は少ないはずと、当初の僕は思っていた。ところが、ふたを開けてみたらびっくりすることに多くの申請書がたまっていくのであった。申請の一例で、明らかに私物と思われる子供が買うことができない他国のグラビア雑誌がある。普通の部隊ではまず通るはずがないが009部隊の性質上、任務地の情報集と申請すると不思議なことに取ってしまうのである。申請者のアルベルトさんに事情を聴こうとすると、


 「あ、やべえ。紛れ込ましとけばすんなりととおると思ったんだけどな。ウィル坊、お前も男だったら気になるだろう?よろしく頼むよ。」


 「なりません!この申請書ソフィーさんも見るのですよ。通しちゃったら僕が何を言われるか…」


 ということもあれば、女性陣から明らかに私物だろうと思われるしんせいもあるのだ。皆さんが言うにはこの部隊なら公費で何でも買ってもらえるしとのことであった。それとは別だけれども、破損が理由で帝都にある兵舎の椅子や机の申請が定期的に来るのは謎であった。


 大量にある申請書を可否で分類しながら、頭を悩むすのが部隊の行動計画書や報告書、いろいろな部署に提出する書類であった。普通はこういうものは部隊の内勤の隊員と協力して処理するものである。なぜ内勤の隊員かというと実働部隊のほとんどの人が脳筋であり、まともに書類を作れないからである。ここで問題なのは、こういった書類は大抵隊長や上役の決済印が必要なのである。ソフィーさん、フランさん、キャシーさんの女性陣なら頼めば手伝ってくれる…きっと手伝ってくれるはずだ。しかし、009部隊の大半は帝都におり書類はここで作らねばならない。必然、僕がやるしかないのだ。仕事でヘイスティングさんが来たときは、忙しい中でも手伝ってくれるのですごく助かるのであった。ヘイスティングさんの何気にすごいのは、書類がたまるタイミングで基地に来てくれて手伝ってくれるである。僕の中では、アルベルトさんはいろいろとフォローしてくれる戦闘面の兄さんで、ヘイスティングさんは陰からこっそり助けてくれる事務仕事の兄さんという感じだ。女性陣は、弟の世話好きなお姉さんかな。


 次の通常任務が終われば、カモフラージュの為に3週間ほど基地の任務が免除されるということでたまった書類の整理でもしようとしているところに、顔は笑顔なのに目が笑っていないヘイスティングさんとキャシーさんがやってきたのである。この二人が感情を表に出すことはめったにないので余計に怖かった。


 「ヘイスティングさん、キャシーさん、いつも忙しいのに書類仕事の手伝いありがとうございます。」


 「いえいえ、後の2人はなかなかこちらに来れないでしょうから。そうそう、隊長の周辺で何か変わったこととか悩みとかはないですか?」


 「うーん。偽名での生活はやっぱり緊張しますね。あとは、仕事が思った以上に多いことでしょうか?」


 「ウィルちゃんは、卒なく何でもこなしちゅうから。他の部隊が甘えて仕事を押し付けてくるの。私たちも目はひからしているのだけれども…。そうそう、今回私たちがここに来たのは、書類仕事の手伝いだけじゃなく任務についてなのよ。」

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