第13話 にゃん歴979年9月⑥

 フランソワ少尉の思い付きで部隊コードが決まったので、続いてナンバーをきめることとなった。


 「こういうのは隊長が若い番号になるのでしょうか?」


 「厳密な決まりはありませんが、通例ではそうかと。」


 「それは良くないかもしれませんわ。昔はそれでよかったのですけれども、最近だと気を付けないといけないことがありますの。」


 「もしかして、盗聴か?俺も詳しいわけでないが軍内で通信が漏れているかもしれないという噂を聞いたことがある。」


 「アルベルト軍曹も耳に入れたことがあるのですか。これは少し調べる必要があるかもしれませんね。」


 「教導に行った先の基地で、出撃した部隊が待ち伏せに合ったという話があったくれいだけどな。」


 「そうなのですか?僕は軍に入ったばかりなのでわからないのですが、この動力伝達装置は軍の最新の技術を投入されている機械じゃないのですか?」


 「ウィルちゃんが知らないのも無理ないわ。そもそも動力伝達が盗めるということが確認されたのも最近なのよ。わたしみたいな技能は知られていなくてね。そういう対策が全くされていないの。だから今は盗み放題なのよ。」


 ここで、今まで黙っていたフランソワ少尉がわが意を得たとばかり話し始めた。


 「そもそも、動力伝達装置自体帝国の技術じゃないのです。これは、先の大戦で我が帝国が合衆国の基地を強襲した際に押収した中にあったものです。私も当時のことは知らないのですけれども帝国軍は合衆国が空飛ぶ船とこの通信機器を手に入れたことが大戦に踏み切った要因と分析されています。何が言いたいかといいますとこれらの技術は残念ながら合衆国のほうが先に行っています。現在は私の研究室がキャサリンさんの協力を得て防御システムを開発しているのですが、結果は芳しくありません。新しい防御システムができてもすぐに対応されてしまいこれといった効果を見込めないのですよ…。」


 「ストップ。ストップ!フラン坊に話させると夜になっても終わんねえよ。」


 「ムムム。これからというのに。仕方ありませんね。要は完全に防ぐのことは現状では不可能ということです。ちなみに私は0という数字が好きなので0がいいです。」


 「フラン少尉が言っていることが本当なら基本は聞かれていることを前提にするべきですね。使わないということは昔と違ってもう無理でしょうから。」


 「そういうことですわ。ウィルちゃんが1である必要はないわ。むしろこの部隊の隊長を隠すならそうじゃないほうがいいかもしれませんわ。一見しただけならペアを組んでいるであろう、アルベルトかソフィーちゃんが隊長に見えるでしょうから。ヘイスティング先輩はそもそも敵に姿を見せないでしょうから論外だわ。」


 「ソフィーちゃんって。まあ、情報部の人の年齢なんて当てにならないしいいわ。キャシーが言ったようにしましょうか。私が1。アルベルトが2。ヘイスティングさんは3。キャシーが4。ウィルが5。そして、ソフィーが0でいきましょう。」


 「オーケーだ。なら今日の本題でもあるウィル坊の偽名を考えようぜ。」


 「そうですね。ウィリアム隊長が少なくても3年は使用する名前になるでしょうし。経験上、訓練していないものが元と違いする名前を使ってもとっさに反応できないでしょうから、いくつか候補を出して考えましょうか。」


 それからはというかここでも僕を置いて皆さんがああでもないこうでもないと話し合うのを眺めていた。いきなり偽名と言われても思いつかないので先に遺書を書くことにした。


 これは、特務部隊のというわけではなく帝国軍の伝統であった。入隊したらとりあえず、遺書を書く。この行為で普通の生活と決別して軍隊の一兵士として使いつぶされても文句を言わないという誓約書みたいなものらしい。といっても、普通は家族に向けて書くらしい。そしてご丁寧なことに何種類かの定型文がすでに用意されている。配偶者や婚約者がいる人用もあれば僕みたいな独身の人用などもある。本当なら明日来る人たちと一緒に説明を聞いて書くはずなのだけど、一応僕は特務部隊所属だから他の人よりめったなことは書けないし、今日中に大丈夫かどうかの検閲が入るらしい。明日いきなり書いて検閲でダメでした書き直しなさいだと悪目立ちするので仕方がないとのことであった。ちなみに合格だと今日書いたウィリアムの名前のところが特殊な細工で空欄となっており、明日再度今日決まった偽名を書いて提出する流れである。

 遺書を書きおえて、皆さんに再度合流した際に僕の偽名がたくさん書かれたボードが目の前にあった。


 「みて、ウィル。この中で気に入ったものがありますか?」


 「ウィル坊、ちなみに俺はこれがお勧めだぜ。」


 「私は、ウィリアムさんにはこれが似合っていると思います。」


 「そう?わたしはウィルちゃんにはコレが似合うと思うわ。」


 「ウィリアム隊長、この中にこれはというものがなければご自身で考えた名前で問題ありません。」


 なんだか、皆さんが僕に着せる服を選んでいるような状態にびっくりしてしまった。その中で一つ僕の目に留まった名前があった。


 「それならば、僕はこれにします。ただ、ファミリーネームはレイラ叔母さんの実家のやつにしたいのですが問題ありませんか?」


 「それくらいなら問題ありません。わざわざ許可を取らなくても大丈夫でしょう。」


 情報部の一員でもあるヘイスティングさんの許可も出たので、この基地にいる間お世話になる名前が決まった。


 その名前は、「エルウィン=シャード」である。

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