【短歌集】 五月／西山博雪

セザンヌも愛したうつろいの空が明日へと続け茜いろの雲

G線上のアリアをインスタで聴く明日は新月 三十日（みそか）月だね

バターロールもぐもぐごくと朝ご飯ドリップ珈琲へ五月のミルク

風薫る五月雨（さみだれ）いろの王子駅運ばれてゆく紫陽花が虹

生まれ飛ぶ

　どこからともなく

　　タンポポの

　京浜東北

『つぎは〜しながわ～』

更科のメロンが蕎麦に涼もとめ地上げ話しが緑陰と茄子

やわらかな若葉のような麦わら帽白いニットが初じめての君と

五月の風が似合う自転車の君

僕は後ろからスーと追い越す

玉ネギ派と青ネギ派と味噌焼が格闘技と化す我が家のホタテ

縦書きの連作短歌スルスルとキシメンのような味がいいね

ソース焼きソバ するするすると昼ご飯シーザーサラダにヨーグルトソース

柱時計のネジを巻く五月（さつき）風 葉影がジルバのステップ踏みつつ

伊賀一輪 月見窓より風をいれ

今宵一献 バスタブのボク

太め蕎麦ズルズルズルとぼっち食

明日も一日メン麺とかっこむ

摩天楼のテラスを照らす月天心

見上げるボクもキミは見下ろす

鉛のように動かないエンピツと短くうすい影がわれわれ

３年前からオリンピックで消えたホームレス臭と街のビニ本

毎日違うから夕日もあなたも染まっていたい君の夕陽に

潮風の黄昏（たそがれ）色が浜に舞う砂は夕暮れ素足もカニも

夕暮れに明日の天気聞きながら

子猫のように〈君〉とつぶやく

セザンヌも愛したうつろいの空が明日へと続け茜いろの雲