第二曲 第八楽章 銀河 黒野家地下一階リビングにて

 「さて、帰るか」

 「あのっ…ソウルレッド!」

 ソウルタクトを左腰にしまうと、風雅ふうがが声を震わせながら勇気を出して俺の名を呼んだ。

 「?」

 「…そのっ…おっ…」

 彼は俺に言いたいことがある様だが、今にも息が詰まりそうになっている。

 「何だ?用が無いならさっさと帰るぞ」

 ソウルイエローは先程の戦いのせいでストレスがまり、決断力が無くもじもじしている彼にほんの少し苛立いらだっていた。

 「まあまあ落ち着いて下さい。ちゃんと彼の主張を聞きましょう」

 と、ソウルブルーが静穏せいおんにソウルイエローをなだめた。ピリピリとした状況の中、風雅は恐る恐る大きな声で俺等に言明した。






 「俺とっ!とっ、友達になって下さいっ!!」






 風雅は少し不安げな表情をし、赤らめながら息を切らした。

 「「「「………」」」」

 四人は唖然あぜんとしながら顔を見合わせた。

 「ふぅ、何が言いたいのかと思ったらそんな事か!」

 「えっ?」

 俺は安堵あんどして風雅の目線に合わせてしゃがみ頭を撫(な)でた。

 「俺等とお前は出会った時からとっくに友達だ。だろ?」

 と、ここで四人にいた。

 「勿論です!ヒーローが好きな子に悪い子はいません!」

 ソウルグリーンが胸を張って確言した。

 「そうそう!あたし達は何時いつでも風雅君の味方!」

 ソウルピンクも風雅と握手しながら言った。 

 「もしまたアルマイナに襲われそうになったら俺等を呼んでくれ!」

 ソウルイエローが彼の背中を叩きながら莞爾かんじした。

 「その時は早急に駆け付けます。僕達ソウルジャーは何時でも君の心の中に居ますから」

 ソウルブルーも微笑しながら彼の肩に優しく手を乗せた。

 「そういう事だ。日も暮れるから俺等が家まで送ってやる。俺の背中に乗れ」

 風雅に背を向けると、俺等の言葉に胸を撃たれた風雅はここ一番の満面の笑みを浮かべ、すぐに俺の背中にしがみ付いた。

 「あっ、そうだ。良い事教えてやる」

 「?」

 「お前が言ってた近所に住んでる眼鏡のお兄さんなんだけよ、ソウルレッドのファンなんだ。結構親しみやすいと思うから仲良くなれると信じてるぞ!」

 それを聞いた風雅は益々笑顔になり、強くうなずいた。

 「よし、親が心配するからさっさと行くぞ!家まで案内してくれ!」

 俺等は夕日に向かって飛び立って行った。











 …と此処ここまでは昨日の話。俺等はいつもの様に居間でのんびりしている。

 『音楽は、いつもあなたのそばに。 AOBARA』

 「そういや風雅の奴、大丈夫か?今日が初登校日らしいけどよ」

 ソファで寝転んでテレビを見ていた彼方かなたは頭にあるリモコンに手を伸ばし、先程まで見ていた番組がCMに入ったので、別のチャンネルに変えた。

 「あの子なら大丈夫でしょう。ギンがあれだけ勇気付けましたし」

 宇宙そらはパソコンで今回の事件についてSNSやネットニュースを閲覧して情報収集しながら返答した。

 俺はヘッドフォンを付けながら、バッハが作曲した『G線上のアリア』を有名な指揮者が奏でる動画をタブレットで鑑賞していた。

 「只今帰りましたー」

 「ひかりんおるー?いつものアレ買って来たでー」

 買い出しを終えたセイちゃんと月夜つきやが重い荷物を持ちながら部屋に入って来た。

 「やったー!激安のプリンとイチゴとバナナチョコクレープの詰め合わせだ!これが食べたかったんだんだよね~!」

 ひかりが地下二階から急いで駆け上がり、物欲しそうに買い物袋の中身を見た。

 「プリンは夕食のデザートな。ほれ。あ、セイちゃん。ウチ手洗ってくるさかい、これしまってくれへん?」

 月夜が買い物袋から二種のクレープの詰め合わせを輝に差し出し、残りの荷物をセイちゃんに渡して洗面台へと消えた。

 「それにしても奇妙ですね。銀河さんが特定のワードを口にした途端『トッカータとフーガ』と『G線上のアリア』の二曲が戻て来たなんて…」

 セイちゃんがスーパーで買った食料品を冷蔵庫に入れながら呟いた。

 「お陰で店頭のCDや書籍、動画や音楽配信サービスとかこの二曲が戻って来たくらいでネットや報道陣が大騒ぎしてるしな」

 彼方が起き上って気怠けだるそうに返答した。

 「被害は此処だけかと思ったけど、まさか世界中でそんな現象が起こるなんてね~」

 ソファに腰掛けた輝は貰ったクレープを美味しそうに頬張ほおばった。

 「しかし俺等ソウルジャーまでこの二曲以外他の曲を思い出せないとか、かなりやべえじゃん!!俺等の知らない所で他のアルマイナがクラシック曲を消し炭にしたって!!クソっ!!よくもやってくれたなアルマイナ!ぜってー許さねえ!!」

 弟妹等の話を聞いていた俺も黙っていられず、掛けていたヘッドフォンを外した。

 「ギン落ち着いて下さい!他の曲が思い出せず腹の虫が納まらないのは僕達も同じです!ここは一先ひとまず状況に応じながら作戦を練って少しずつ曲を取り戻しましょう」

 宇宙が机を叩きながら立ち上がり叱責すると、再度ゆっくりと腰を下ろした。

 「せやで。大変な状況でも焦ったらあかん。音楽を愛し、皆の力を合わせて立ち向かうのがソウルジャーってもんやろ?」

 月夜が洗面台から出て来て話題を丸く収めた。

 「そうだな。ネオ・マイナリーを浄化して出て来たこのソウルレコードの様に、他の物もいっぱい集めて名曲思い出そうぜ」

 彼方が胸ポケットから『Ⅰ-Ⅲ』と記された紅色のソウルレコードを取り出し、俺に投げながら言った。俺に向かって飛んできたソウルベルは俺の頭上で上手く捕らえた。

 「確かに、こうやって不満ぶちまけても何もならねえ。宇宙の言う通りにするか」

 この話題は終わり、またこうして何気無い一日が過ぎていく。

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