イチョウになったあなた

青いひつじ

第1話



10年前の今日、私の妻は亡くなった。



脳梗塞だった。

亡くなる前、毎日のように頭が痛いと訴えていた彼女に、鎮痛剤でも飲みなさいと冷たく言い放った。



彼女は行ってきますと声をかけ、私は、あぁと返事をした。

そのまま出先で倒れ、帰らぬ人となった。




いつも少し遅れて大切なことに気づく。

私はつくづく馬鹿な男だ。


25年前のプロポーズの時、彼女は下を向き、両目に涙を浮かべていた。

指輪をはめようとしたその時初めて、彼女の左手の薬指が少し曲がっていることを知った。


サイズを変えようと話す私に、入りきらない指輪を月にかざし、このままがいいですと言った。




彼女が亡くなった後、この公園で散歩をするのが日課になった。

家に1人でいると頭がおかしくなりそうだった。 



一周忌の時も、私はここに来た。

その日、公園には新しくイチョウの木が植えられた。

私はどういうわけか、その木が彼女の生まれ変わりだと思った。

夏の緑葉が黄色になり、散っていく姿に彼女を思い出していた。




今日であの日からちょうど10年になる。

私はベンチに座り、いつものようにイチョウの木を眺める。



そこへ、赤いボールを追いかけて小学生くらいの少女が走ってきた。

私は、ボールを拾い上げ少女に渡した。




「おじさん、ありがとう」



「どういたしまして」



「ここで何をしてるの?」



「イチョウの木を眺めているんだ」



「でも、なんだか少し悲しそうな顔してた」



「今日は私の大切な人が亡くなった日でね」




「おじさんは、その人のこと好きだったの?」





「馬鹿みたいかもしれないけれど、このイチョウが、彼女の生まれ変わりなんじゃないかって思うほど、それほど愛していたんだ」




「もしかしたら、そうかもしれないね」




「初めましてだね。君は、この辺に住んでるのかい?」




「そう。でも明日引っ越すの。隣街に行くの。最後にどうしても来たかったの」




「そうなんだね。あそこは素敵な街だよ。元気で、いってらっしゃい」




少女は、帰っていく私の後ろ姿をずっと見つめていた。

私は何度か振り返り手を振った。




彼女は左手を後ろに隠すようにして、ひらひらと手を振り返した。




































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