45 編集者を雇ってみた⑧
しばらくすると光は収まりリリアは目を開けた。
周りを見るとお姉さんも眩しかったのか目を瞬かせている。
まずいかもしれないとリリアが思ったそのとき、
「わぁ、初めて見ました」
とお姉さんが言った。
「あまりにも大きな魔力を有している場合、登録時にプレートが強い光を発すると聞いたことがあります。しかし、強い光を発する魔力量の水準が高すぎるため、滅多にこんなことは起こらないそうです。私も初めて見ました……」
珍しいものを見て感動したといった顔でそう説明してくれた。
自分が登録した時とは全く違っていて魔族ということがばれてしまったかと思ったが、大丈夫だったようだ。何とか危機を回避することができてよかった。
リリアはそう思って胸を撫でおろした。
「あっ、すみません。少しぼーっとしてしまいました。こちら冒険者カードです。冒険者カードは冒険者としての証明書になりますので無くさないようにしてくださいね」
「…ああ、ありがとう」
そう言って渡された冒険者カードをカルミアは受け取った。
「登録は以上になりますが、冒険者の説明はお聞きになられますか?」
「いや、いい。…仲間がすでに冒険者だからそいつから聞く」
「承知いたしました。当ギルドの依頼書掲示板はあちらになります。依頼を受ける場合は張ってある依頼書をカウンターに持ってきてくださいね。それでは本日はありがとうございました」
「ああ。……おい、行くぞ」
「あっ、はい」
カルミアに呼ばれてリリアは伴にギルドの出口へと歩き出した。
あまりに突然心配が来てからの安堵だったため、しばらく心を落ち着かせる時間がありぼーっとしてしまっていた。一時は焦ったものの、危惧していたことが起こらなくて本当に良かった。
「そう言えばプレートが光ったとき何か言いかけていなかったか?」
ギルドから出るとカルミアが聞いてきた。
そう言えばさっき魔力をこめようとしたときに制止するために声をかけたようとしたのだった。
「いえ、ちょっと心配事がありましたが問題ありませんでした」
「そうか」
そう言えば、なぜ魔族だとばれなかったのだろうか。
最近の魔導具の開発に伴い、魔法の研究も進んできた。その研究で人によって魔力が違うということも分かってきたのだ。
聖女は基本的に一人だから聖力の研究は全くと言っていいほど進んでいない。そもそも特別な個人にしか使えず、一人使えれば国全体が安泰となるという力なのだから進めていないという言い方も正しいかもしれない。
だからこれはリリア自身の考えではあるのだが、聖女のつくる結界というものは魔族や魔物特有の魔力というものを判別してその侵入を防いでいるのだと思っていた。
しかし、今回の冒険者登録が問題なくできたことから、魔族であるカルミアと人の魔力はそれほど違いはないのではないかということが分かった。
それではいったいなぜ結界は魔族や魔力の侵入を防ぐことができているのだろうか。
そんな疑念がリリアの中に生まれる。
「おい、どうかしたか?」
カルミアが疑問を少し顔に浮かべながらこちらを見てくる。
まあ、冒険者登録ができてカルミアの身分証となるものも手に入れることができたのだ。心配事は杞憂に終わったのだし、とりあえずそんな疑問は頭の片隅においておこう。
そうリリアは考え、こちらを見るカルミアに笑顔を向ける。
「いえ、なんでもないです。さて、冒険者登録も無事済んだことですが、今日したいこととかってありますか?」
「いや、特にはない」
「そうですか」
リリアはふと空を見上げる。
太陽はほぼてっぺんに上っていた。
今日は朝早くクラケスに入って宿探しと冒険者登録をしたのみなので、まだお昼になったばかりといったところだ。
「それでは、せっかくなので食べ歩きでもしませんか?ちょうどお昼の時間ですし」
「私はそれでも問題ないが、あの狐もつれてこないと怒るんじゃないか」
「確かにそうですね…。まあ、でもメイスイさんはきっと宿から出たがらないでしょうし、二人で先に食べ歩きしちゃいましょう。メイスイさんにはお土産を持って帰れば大丈夫だと思います」
リリアが少しいたずらっ子っぽい顔をしてそう言った。
「せっかくですし動画も撮っていいですか?」
「好きにしろ」
カルミアに同意を得て、魔導撮影機を鞄から取り出し起動する。設定は自分の顔の横を自動で着いてくるようにした。
「さて、行きましょうか。楽しみですね」
「…そうだな」
そう言葉を交わし、二人は露店のある方へと歩き出したのであった。
ちなみに、宿に帰ってからメイスイに怒られたのはまた別のお話。
元聖女、動画投稿者になる 蒼鳥 霊 @aodorirei
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。元聖女、動画投稿者になるの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ネクスト掲載小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます