44 編集者を雇ってみた⑦

 街の中に入るとそこには建物を中心とした街並みが広がっていた。ソクルと比べ規模は大きく人も多い。しっかり栄えた街という印象を受ける。

道では朝ということもありお店の準備をする人々が忙しそうに働いている様子が見えた。

 ふと横を見るとカルミアがキョロキョロと珍しいものを見るように辺りを見回していた。


「コレスティア王国の街はどうですか?」


 尋ねるとカルミアがふと我に返りすぐに少し恥ずかしそうな顔になる。

 物珍しそうにしていた様子を見られて恥ずかしかったのだろう。思わずかわいい一面が見れてしまった。


「い、いや、人間の街にくるのは初めてだが、想像していたより人間がたくさんいて驚いた。それに建物も多いしな。もっと簡素なイメージだったんだがな」


「そうなんですね」


 魔族にとって人間の街はそんなに栄えていないという認識だったということは初めて知った。旅を始めて自分もしばしば思うことではあるが、実際に見てみると聞いたり想像していた内容とは全然違うということもある。きっとそう言うことなのだろう。

 そういえば魔族の国はどういう感じなのだろう。

 王宮では混とんとした場所ばかりで安全なところなんてないというように教わった。しかし、それも誰が見てきたものかわからないし、実際は違うのかもしれない。


「カルミアさんの住んでいた場所は――」


「おい、危ないぞ」


 カルミアに住んでいた場所の様子を聞こうとしたところで、声をかけられると同時に道の端に引っ張られる。

 何が起こったのかと思うと、さっきまで立っていた場所を馬車がゆっくりと通り過ぎていく。馬車を運転する御者が帽子をとって会釈をしてくれた。


「ぼぉっとしてると危ないぞ」


 どうやら馬車の存在に気付かなかったところをカルミアが道の端に引き寄せてくれたらしい。


「ありがとうございます」


 少し恥ずかしそうな顔をしながらリリアはお礼を言う。ぬけているところを見られ今度はこっちが恥ずかしい思いをしてしまった。

 そういえば、まだ街の入り口なのだ。ここにいても邪魔だしそろそろ移動しよう。


「さて、じゃあまずは…ギルドにカルミアさんの冒険者カードでも作りに行きませんか?」


「えー」


 冒険者ギルドに行こうと提案したところでメイスイから不満が出る。


「やっと街の中に入ったんだからさ、早く宿屋にいこうよ」


「でも、まだ朝ですし宿は探さなくてもいいと思いますが」


「だって、ずっと外で寝ないといけなかったし僕は一刻でも早くベッドで寝たいんだよ」


 メイスイはどうしても早く寝たいと譲らない姿勢である。

 まあ、急ぐことでもないし先に宿を探しても問題はない。


「わかりました。じゃあ、先に宿を探しましょうか」


「やった!」


「カルミアさんもそれでいいですか?」


「私は構わない」


 メイスイの強い希望によりリリアたちは取り敢えず泊まることのできる宿屋探しへと向かったのであった。





 これからしばらく止まる予定の宿屋で部屋を借りた後、リリアとカルミアはギルドへと歩を進めていた。

 メイスイはと言うと、部屋に入るなりベッドにダイブして寝てしまった。

 ギルドに行くけどどうしますか、と一応聞きはしたが、僕は行かない、と短く返されてしまったので二人だけで向かっている。


「ところで“ギルド”とはなんだ?」


 カルミアがリリアに聞く。

 ギルドはコレスティア王国のみならず他の国にも広くある団体である。しかし、さすがに魔族の国の中にはないのだろう。


「ギルドはですね、冒険者ギルドのことで冒険者が所属する団体のことですね」


「冒険者?」


「はい。冒険者は他の人たちの依頼を受けたり魔物退治をしたりする職業です」


「冒険というからにはもっと旅をする印象だったがなんというか便利屋のようなものなのだな」


「確かに言われてみればそうですね。あとは動画を投稿したりもしていますね」


「そんなこともするのか」


 そんな話をしていると冒険者ギルドにたどり着いた。事前に宿屋の人に聞いておいたおかげで迷わずに来ることができた。

 建物の中に入り冒険者登録カウンターへと進む。このカウンターにくるのは2回目だ。

 こちらに気付いたギルド員のお姉さんが対応してくれる。


「冒険者ギルドへようこそ。登録ですね」


「はい。彼女の登録をお願いします」


そう言ってリリアはカルミアをカウンターの前へと立たせる。


「承知いたしました。では始めにお名前を教えて頂いてもよろしいですか?」


「…カルミアだ」


「はい、カルミアさんですね。ありがとうございます」


 リリアが登録した時と全く一緒の流れである。同じ団体だからどこでも同じことができるように統一されているのだろう。


「それでは魔力の登録をいたしますのでこちらに魔力を流していただけますか」


そう言ってお姉さんがプレートを差し出してくる。

 そういえばそんなこともしたなとリリアは思う。


「!」


 リリアの血の気がさっと引く。

 魔族であるカルミアは人とは違う魔力を持っているかもしれない。そうであればプレートに魔力を流すということは魔族バレに繋がってしまうのではないだろうか。


「カルミアさん、ちょっと待ってく――」


 止めるのが間に合わずカルミアがプレートに触れる。

 そして、突如プレートが眩い光を発したのであった。

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