胸の内
クラケスからそれほど離れていない場所にある森の入り口。そこに設営されたテントの中で一人の少女――カルミアが体を起こした。
目を覚ましたのではない。どうしても眠れない状況が続いていて、なんとなく気持ちを切り替えようと思って体を起こしただけである。
まわりを見てもテントを通過してくる光はまだにない。まだ、夜明けは遠いようだ。
カルミアはそのままの姿勢で目をつむり今日あったことを思い返す。基本は森の中を移動していて、人工物を訪れることがあってもそれは廃墟であったりだった。
そんな生活を繰り返していたからろくに食事をしていなかったのだ。
それゆえの空腹で、一見油断しているように見えた人間の食べ物を盗ったらこんな状況になってしまった。
そもそもまさか捕まるとは思わなかった。傲りではない。故郷では自分は周りよりも高度な魔法教育を受けてきたのだ。それ相応に実力もあり大抵の者には負けることはなかった。
それなのにあんなにすぐ見つかって、あまつさえ縛られてしまうとは想像もしていなかった。
とはいえその場で殺されたり他の人間を呼ばれたりしなかったのは非常に運がいい。
でかい獣の方は不服そうであったが人間の女の方が何とか止めてくれたのだ。
それどころか自分と一緒にくるか、などということを言うなんて頭がおかしいのかもしれないと思った。
そんなこと考えながらその人間――リリアと言っていた――を見る。
テントが一つしかないからよければ隣で寝てください、と言ってきたときは見張るために近くに置いておきたいのかと思った。
しかし、今は完全に熟睡していて警戒する気配は少しもない。
今なら少し手を伸ばせば殺せてしまいそうである。
近くにいる先程よりも小さくなった獣の方からは警戒の色が少しうかがえるが、リリアにけがを負わせて逃げることくらいならできるかもしれない。
「……」
そんなことを思い少し伸ばした手をカルミアはすぐに下ろした。
そもそも本当に逃げられる保証はない。リリアの方はわからないが獣の方は確かに強者なのだ。もしかしたら失敗して今度こそ殺されてしまうかもしれない。
それにせっかく一緒に連れて行ってくれると言っているのだ。ならばその強さを利用してトラブルを回避するのもいいだろう。何かと便利なこともあるかもしれない。
そう結論付けカルミアは再び体を横たわらせたのであった。
夜はまだ長い。
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